第25話.連帯責任
第25話.連帯責任
「おい、貴様ら!何をやっているか!」
学校の門の前で守衛に呼び止められる。当然だろう。そのまま彼は詰所から歩いて来て、私達の前に立った。
「無断での制服の持ち出しは厳禁である。貴様、名を名乗れ」
「霧島新平です」
私達は、いつにも増して背筋を伸ばし気をつけの姿勢を取る。ふん、と鼻息一つ。守衛はじろりと霧島のつま先から頭までを眺めた。
「なぜ制服のまま外出したか」
「それは……」
「規則違反は退学処分だと知っておるだろうな!」
霧島が口を開きそうになったその時、守衛の後ろから岩木教諭が顔を出して言った。
「どうした、何を騒いでいる」
「は、はい。あ……」
霧島は肝の小さい男で、特に岩木教諭には頭が上がらない。守衛と岩木教諭に囲まれて、小さくなり返答に窮していた。助け舟にと私も口を開いた。
「この不始末は、寮生全体の問題です」
「ほぉ」
「霧島一人の問題ではありません。私達にも連帯責任を取らせて下さい」
岩木教諭の前に出て、その目を見据える。彼も見下ろすようにこちらを見た。続けて吾妻も一歩前に出て言った。
「穂高の言う通りです。風紀の徹底に尽くさなかった我々にも非があります!」
じろりとこちらを見る、守衛はもう口を閉ざしたままだ。岩木教諭の判断を待っているのであろう。教諭は二、三度顎を指で撫ぜた後、口を開いた。
「穂高、吾妻。何をしている、早く制服を着て来い。今日の運動教練は校外で行う」
「え、は……はいっ!」
話が通じたのか。制服での校外教練などと、そんな予定では無かったはずだ。放免されたのか。予想外の言葉に戸惑って学生三人が顔を見合わせる。
「おい、霧島はもう準備ができておるぞ。他の者にも伝えろ、制服を着て早く門に集合しろと!」
「はいッ!」
岩木教諭に急かされて、寮へ走る。それを眺める彼の口端は笑みを表すように吊り上がって見えた。
助けられた、と親父が仏に見えたのはその時だけ。その日の運動教練は過酷を極めたのは言うまでもない。
地獄だ。腕も足も上がらなくなった。上からの「処罰」ではなく、自ら「責任」を取らせるという事なのだろう。
ただ、この件について、不思議な事に霧島に不平を言う者は居なかった。また霧島は、色んなことを私達にも良く相談するようになった。
雨降って地固まる。
我々、北部総合学校一期生の団結は一層強固なものになったのだ。




