表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
元自衛官が明治時代に遡行転生!なんか歴史が違うんですけど!?〜皇国陸軍戦記〜  作者: ELS
【第二部】

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

248/250

【第三部】第11話.帰還

旋回が終わると、機体は東から吹き上げる風に乗ってさらに高度を増した。トリィの頬を冷たい風が撫でる。だが、不快感はなかった。


湖の向こう側には、ニタイの山々が横たわっている。薄い影のような稜線を彼女はなぞるようき飛んでいた。遠く、北の方角に細く白い筋が見えた。雲ではない、煙だろうか。一定のリズムで薄い灰色の帯がいくつも空へ吸い込まれている。彼女は機体を僅かに傾けて、それを見る。


その煙が何を意味しているのか、彼女にはそれを判断できるほどの経験は無い。だが、なんとも言えない不穏な感触があった。


「ウナさんの言っていた……まさか」


ルシヤ軍に動きがある、どうしてもそれが頭をよぎる。トリィは深く息を吸った。冷たい空気が肺を満たす。計器の針は静かに震え、飛行艇の原動機は規則正しく唸り続けている。信頼できるはずのその音が、なぜか胸の奥で孤独に響く。


チカチカと、さらに北の方角から光るものが見えた。その光の鋭さは自然のそれとは違う。トリィは機体を安定姿勢になおし、整備棟の方向へ進路を戻した。


もしも、あれがルシヤのものだったら。そこから何かが動き出したら。ウナの言った言葉が蘇る、自治区は日本とルシヤその両方に囲まれた細い土地だ。空の向こうの国境線が、妙に近くに感じる。


高度を落とし始めると、湖の水面が近づき霧がまるで薄い布切れのように裂けていく。整備棟の形がはっきり見えた。トリィの帰りを待つ人々の姿も。


朝の光を浴びた銀片が風に揺れている。彼女はスロットルを少し引いて、機体を僅かに倒した。原動機の唸りがひとつ低くなり、プロペラはゆっくり力を落としていく。じわじわと降下する機体に、胸の鼓動が速くなる。


「大丈夫、落ち着いて」


自分に言い聞かせるように呟いて、水面を読む。向こう側の岸では手を振る人影がはっきり見えた。操縦桿を引き、機体を水平に戻していく。スピードは落とし過ぎても駄目、速すぎれば着水の時に跳ね返されてしまう。一瞬の風の動きをみて、細かに角度を変えていく。


「よし……!」


いよいよ水面が近づく。水の匂いが風に乗って流れ込んでくる。


ザバッ!!


水柱を上げて、飛行艇が水面を滑った。水を切って進む感触が、足元を伝わってくる。トリィは呼吸を整えながらスロットルを絞る。原動機は弱々しい唸りへと変えて、ゆっくりと機体を岸へと進めていった。


岸辺が近づくと、整備士の面々がはっきりと見えた。明継が大きく手を振っている。機体は桟橋のすぐ脇にゆっくりと静止して、穏やかな波紋を残した。


「成功だ……」


その瞬間、張り詰めていたなにかが、ほどけていくのを感じた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ