表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
元自衛官が明治時代に遡行転生!なんか歴史が違うんですけど!?〜皇国陸軍戦記〜  作者: ELS
【第二部】

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

230/252

【第二部】第87話.雨中ノ追跡劇

【第二部】第87話.雨中ノ追跡劇



「来いよ、雁首揃えてなんだぁタマぁついてんのか?」


倒れ伏した男を足蹴にしながら、金剛は彼の敵に向かってそう言って見せた。間髪容れず四人、五人と視線とその銃口が彼に集中した。


「おっと」


金剛は銃口を向けられた瞬間に、他の人間が射線に入るように身を躱す。足場の悪い中、それを感じさせぬ足運び。友軍に銃口を向けるわけにもいかず、もたもたと動きが鈍っているところに金剛が声をかける。


「ほらよ、友達(おともだち)からの贈りもんだぜ」


空中に足を振るって何かを蹴渡した。足指でがちりと掴んでいたそれは、倒れ伏した男の……耳である。まるでペンチのような足先の人差し指と親指が、男の耳たぶを捻り切ってしまったのだ。

味方の身体の一部が飛んで来るという突然の出来事に、一瞬視線が逸れた。その視線が切れた瞬間に金剛は踏み込んで、間合いを詰める。


「うおおぉ!!はやい!?」

「おめぇがとろいんだよ」


喉仏に一撃、正拳突きが炸裂した。声にならない声をあげて、正面の男がくの字に折れた。それと同時に大型のネコ科の生き物を思わせる素早い動きで、金剛は射線を切るように近くの立木の裏に周り、他の敵兵らの視界から消えた。よくやる。決して一対多数の状況を作らずに孤立した者を喰らう立ち回りは、獲物を狙う肉食獣そのものだ。

雀蜂を見た蜜蜂が蜂球を作ろうとするがごとく群がっていくが、金剛は山の斜面を上に下にと巧みに利用して、彼奴の動きを制御している。


「囲め!殺せ!!」

「口だけかぁ?早くこいよ、あくびがでちまう」

「右からだ、いけ!撃ち殺せ!!」


左に右に、黒い群れを振り回しての大立ち回りだ。口三味線と五体だけで、これほどの混乱を引き起こすとは。


「派手に暴れてくれるな」


横目で金剛の暴れっぷりを見ながらも、私は足を止める事はない。疾風の如く斜面を駆け下り、真っ直ぐに大将首に目掛けて駆け抜ける。金剛が敵の視線を集めてくれたおかげで、司馬伟(スーマーウェイ)までの道が開かれた。肉壁が薄く散り散りになったことで、突破しやすくなったのだ。この機を逃すようでは軍人はやれぬ。

それに仕掛けた火薬による混乱、これもいつまでも続くものではないのだ。土砂と砂煙による奇襲は成功したが、敵兵の命を取るまでの威力はない。彼奴等が体勢を立て直し、数と火力による反撃に転ずれば一網打尽にされるのはこちらだろう。希望はこの一分、この一秒、この瞬きの間だけだ。二度とない、この一瞬のみが司馬伟(スーマーウェイ)に届きうる可能性の全てなのだ。

怒号と悲鳴、爆音と閃光。そして何より鼻の奥を刺激するこの火薬の匂いが、いつかの戦争を思い起こさせる。まぶたの上に飛び石が跳ねて当たった。

蜘蛛の糸のような光の線を肌に感じて上半身を少しだけ仰け反らせる。一瞬後に横合いからの敵の怒号と、発砲音。鼻先を掠めるように飛翔した小銃の弾丸は、空を切って消えた。数歩後ろから、吾妻の叫び声が聞こえる。


「穂高ッ!!追いつかんぞ、じりじり離れている。もうここから撃て!!」


吾妻の言う通りだ。いくら我々が韋駄天が如く駆けていっても、司馬伟(スーマーウェイ)の背中は大きくなっていない。彼奴等も必死だ、なんとしてでも大将を守ろうと、我々を排除しようと必死なのだ。


「殺せッ!!逃すことはできん」


黒い殺意を秘めた声で、吾妻が叫ぶ。

その声に呼応するように小銃を構えるが、司馬伟(スーマーウェイ)の盾となるように数人の男らが隙間なく並走していて、まるで狙う事ができない。


「だめだ。ここからでは、これではやれん」

「頭でも良い!腹でも、生捕りでなくとも……!」

「その隙間がない。距離を詰めねばなんともならんぞ、走れ!」


小銃の構えを解き再び走り出そうとした時、横合いから大きな影が躍り出た。小銃の先の銃剣が雨に濡れてぎらりと光る。一際体格の良い男が獣のような咆哮を上げた。


「うおおおおおぉ!!」


大きな雄叫びとともに、刃が突き出された。ふっと小さく息を吐き出しながら、半身になってその刺突を避ける。続く二撃目は刺突からの薙ぎ払い。私は手持ちの小銃の背を盾に、打ち払った。が、しかし体躯に勝る敵の振り抜きは予想以上に苛烈だ。踏ん張りの効かない濡れた岩場に足を置いているのが不味かった。ゆらりと私の上体が揺れる。


「グっ!」


気合いと共に足を踏ん張って大地を蹴るが、ずるりと足が滑った。なんとか転倒は避けられたが、小銃を打ち払われて私はそれを取り落としてしまう。頭上に黒い影、敵が大上段に銃剣を構えた。


「かがめ!!」


叫び声と共に背後から飛び出した吾妻が、体重を乗せてナイフを眼前の敵に突き立てた。大ぶりの刃が右の眼球を貫いて、頭骨の後ろから刃先が飛び出た。吾妻と敵の男がもつれこんで倒れる。ごろりごろりと二、三回転げて止まった。


「ごぷっ、ごぷっ」


奇襲を受けて刃を突き立てられた男は、残った左眼も虚空を彷徨い倒れたままだ。吾妻だけが立ち上がる。額に傷をおったようで、頭に赤いものが滲んでいた。


「穂高、走れッ!俺もすぐにいく!」


その声を聞くが早いか、取り落とした小銃を拾い上げる。彼方此方で怒声が飛び交う中、後ろの方で一人で十人からを相手取っている金剛が一瞬こちらを見た。視線を返すと、唇の端を持ち上げてニッと笑って見せた。私はそれに目だけで返事をして、踵を返して再び走り出した。司馬伟(スーマーウェイ)はまだ視界にある。追いかけて追いつかぬものでもないはずだ。


「くく。穂高さんらも良くやるねぇ。俺も頑張らねえとなぁ」


金剛は一人そう呟いた。その表情に悲壮感など一つもない。逆だ、喜びに震えている。彼の磨き上げた技が、力が。存分に発揮できる舞台が用意されたのだ。持てる全ての技術を使ったとしても、生き残れぬかもしれない。


「あぁ!最高だねぇ!!」


肘打ちを横の敵兵の鳩尾に捻り込んで、さらに裏拳で顔面をしたたかに打ち込んだ。前歯がいくらか折れて、敵の男は堪らずに倒れ込んだ。すぐに銃声が鳴り響くが、すでにそこには金剛はいない。一人打ち据えれば、すぐに移動する。いかな訓練された人間たちとはいえ、一つの生き物ではないのだ。必ず綻びがある。一人づつ確実に金剛は狩りを仕上げていく。


「猿め!我々の、司馬伟(スーマーウェイ)様の考えもわからぬ野蛮人が!!」

「くくっ。文明人さんらは鉄砲持ってもその猿すら撃てんのかい?」

「なんと!!」


一つ大きな岩に背中を預けながら、金剛は誰ともなしに返事をする。言葉を交わす事が優位を作る。虚をつき、予想の外を狙う事が彼の得意とするところなのだ。わめきながら敵が群がるが、やはりその中でも突出してしまう者がでる。

その一人に狙いを定めて、金剛は飛び出した。敵は金剛の姿を見るなり刃物を右手に握り締めて、大声を上げて突進した。


司馬伟(スーマーウェイ)様ァァッ!!」


瞬間金剛は嫌なものを感じるが、身体が勝手に反応する。足刀が文字通り刀のように敵の顔面に突き刺さった。

直後に破裂、いや爆発と言って良い。鋭い鉄片を撒き散らしながら、その敵兵の上半身が爆ぜた。密かに懐に呑んでいた手榴弾が、爆破したのだ。


「ッツァァ!!」


至近距離での自爆。はなから自分の命が勘定に入っていない。金剛は衝撃と、飛来物が身体に入る感覚を感じながら思った。これはありえると予想していた。しかしこれほど早く、これほどあっさりと。今その覚悟ができるものなのか。時期とタイミング、それを見誤った。それだけが金剛のたった一つのミスだった。

イクキュウ中でスローペースですみません。

失踪はしていないので、どうかごゆるりとお待ちいただければ幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ