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元自衛官が明治時代に遡行転生!なんか歴史が違うんですけど!?〜皇国陸軍戦記〜  作者: ELS
【第二部】

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【第二部】第85話.蛇殺シノ罠

【第二部】第85話.蛇殺シノ罠



「おい、急げよ」

「急いでますよ、急いでいるんですよ。これ以上、どう急げって言うのです」


吾妻の声に、部下が言い返した。首尾良く蛇男らの頭を抑える事ができた我々は、突貫工事で彼奴等の通り道に仕掛けを施しているところである。

十名そこそこでやれる事など多くはない。しかし、単純なその仕掛けこそが唯一の勝機となる。それをわかっているから、吾妻も気が焦っているのだろう。この作業が間に合わなければ、全てはご破産だ。


「この仕掛けが伸るか反るかが我々の、いや御国の命運を左右するのだ。素早く、正確に手を動かせ」


円匙で斜面の土を掘り返している一人が、手を止めて吾妻に向き直って言う。


「わかってますよ、やってます。国を思う心はここにいる皆同じ気持ちのつもりです。そして工作は私等の本分だ。吾妻殿も私等を信じてください」

「ム。そうだな」


そう言いながら、吾妻は斜面上方にいる私に視線を向けてきた。視線だけでそれに返事をする。地図の上では敵はこの谷は避けては通れないはずだ。そして想定では、蛇男らがここに到着するまでにはあと三時間ほどある。

頭数で十分の一もいない我々が、あの蛇男を捕らえるには、待ち伏せ。そしてこの奇襲にかけるしかない。目論見が外れれば終わりだが、分が悪い賭けではない。


「どうだ?」

「何者も接近している気配はない。まだ時間はあるはずだ。それよりあまり(つつ)いてミスを呼ぶなよ」


そう言ってやると、吾妻は肩をすくめて見せた。皆必死なのだ。例の金剛辰巳だけは作業することもなく、岩の上で座禅を組んで目を閉じている。素人に工兵の真似をさせる訳にもいかんので問題はないのだが、その姿があんまり堂に入っているので何を言う者もいない。


しばらくして、作業が終わった後。ついにその時が来た。


誰よりも早くそれに気がついたのは私だ。山にいると感覚が研ぎ澄まされる。街に居る時には全くその感覚は無くなるが、ここではまるで皮膚の細胞の全てが、体毛の一本一本がレーダーになっているような感覚で生き物の気配を感じる事ができる。原理はわからないが、確かな体感としてそうある。

その私の感覚が、彼奴等の到来をキャッチした。静かな、しかし確かな声で吾妻らに指示する。


「来たぞ、ついにきた。配置につけ。全て想定通りだ、予想通りのコースでこちらに向かっている」


口の端が、私の意思とは関係なく自然に吊り上がった。これから始まる出来事は、尋常でない結果をもたらすはずだ。作戦の成否に関わらず、損害は計り知れない。頭ではそう理解しているがどうだ。まんまと予想通りにやってきた、この事実が心を昂らせる。

皆が配置について、身を潜めて待った。息を殺して、顔の前を虫が這おうが、時が止まったように気配を消して。


作戦はこうだ。

狭い谷間を行進する敵部隊を分断して、蛇男に全員で強襲をかける。敵が混乱し合流するまでの僅かな時間が勝負だ。

分断には火薬を使う。

この隘路(あいろ)を抜けるには横に広がることはできない。自然と蛇のように細長い列を成すこととなる。

上部に張り出た岩を火薬で粉砕して落石を起こす。土砂と落石によって、蛇の胴体は頭と尻尾に二つに分かれる。その瞬間を狙う。


十分に警戒している筈だろう。しかし、蛇男は時間と人員を考えてこの場所を通過することを選んだ。この時点では賭けは私の勝ちだ。あとは混乱に乗じて、どこまでやれるのか。

それに全てがかかっている。


気がつけば、また唇が歪んでいた。

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