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元自衛官が明治時代に遡行転生!なんか歴史が違うんですけど!?〜皇国陸軍戦記〜  作者: ELS
【第二部】

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【第二部】第84話.野営ノ山

【第二部】第84話.野営ノ山



太陽が山影の先に落ちる頃、穂高らはその日の野営地を決めて寝床の確保に急いでいた。

今回の仕事は隠密性が求められる。あの蛇男らに気取られずに先回りして、どれだけ事前に準備できるかが作戦の結果を左右するのだ。

一歩でも早く進みたい気持ちはあるが、煌々と灯りをつける訳にはいかない以上、日が沈んでは山道を行軍することはできない。急がば回れである。

味気ない冷えた夕食を摂取したあと、見張りの当番などを決めていると吾妻が話しかけてきた。


「なんとか予定通りにはなったか」

「うん」

「しかし気が焦る、部下にも発破をかけておくか。この作戦は時間が命だ」

「うん、いや」


進捗は悪くはない。悪くはないが、良くもない。吾妻の気持ちもわかる。


「なにがあるかわからんから、なるべく距離を稼ぎたかったが。まぁ想定の範囲だろう」


陸軍は歩くのが仕事だといわれるくらい、足を使って移動するのが肝要だ。したがってそれ相応に訓練はしているのだが、足並みを揃えるのは案外難しいものだ。無理な行軍をすれば事故の元になる。かと言って余裕があるわけでもないが。


「しかし敵に先を越される訳にはいかんだろう。明日はもう少し早く進もう」

「そうだな。だが急げと言われて歩みを急げるのなら苦労はないだろう。小休止の時間を削るか、そのあたりで調整するしかないかな」


地図を見てどうだと言ってみても、歩いて見なければ実際のところはわからない。気象条件もあるし、足場も平坦とは限らないのだ。


「ともかく、今日は夜が明けるまでは身体を休めよう。日が昇ると共に出立だ」

「わかった。穂高も少しは休めよ」

「言われなくとも休める時に休んでおくさ。お前もそうしろ、疲れが顔に出ると下に(しめ)しがつかんぞ」


私がそう応えると吾妻は少し表情を緩めた。任務の緊張感に呑まれているのか、記憶の中の吾妻より少し硬い。


「おいおい。まだ一日歩いただけだぞ、もう疲れて見えるか?俺は大丈夫だ」

「足の疲れより頭の疲れだろう。脳味噌が緊張しすぎだよ、軽く考えろとは言わんが、もう少し肩の力を抜いたほうが良いな」

「しかしな」

「皇国の一大事だろう。世界の一大事でもある。わかっているよ。命をなげうってでもやり遂げなければならないんだろう?」

「ん、ああ。そうだ」


吾妻の肩を軽く叩いて見せる。


「やれるさ。お前は一人じゃあない。こんな時のために訓練された部下もいるし、それに私もいるんだろ。一人で思い詰めるなよ」

「そうか、そうだな」


気負う吾妻に言葉をかけながら、いつかの学生時分に雪山で吾妻と吉野に助けられたことを思い出していた。人間一人の力では、大きなことを成すのは難しい。いつだって人の力を束ねてこそ大きな力を生むのだ。他人を頼ることを教えてくれたのは彼だった。


「休息も任務のうちだ。銃も整備をせねば、不良が起こるだろう。人も同じだ、整備をせねば事ある時に動けんよ。少し眠っておけ」

「ああ。そうかもな、ありがとう」

「当然、交代でな。見張りの当番を作ったから、この通りやってくれよ」


その私の言葉に、吾妻は驚いた表情をわざと作りながら言った。


「おいおい、ゆっくり一晩休ませてくれるんじゃあないのか?」

「はははっ。疲れているのは皆同じだろう、交代で休むんだよ。ほら、先に仮眠を取ってこい!」


そう言って吾妻の背中を叩いて送り出す。振り返った吾妻の表情は、緊張のとけた柔らかいものだった。

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