【第二部】第80話.蛇ヲ追ウ
【第二部】第80話.蛇ヲ追ウ
吾妻の部下は十人。それに私と吾妻本人を加えて、総勢十二人の追撃隊が結成された。当地の地図は役所の放火と共に焼失したと思われたが、吾妻が写しを所持していた。地図を広げて、司馬伟の居た村落の場所を確認する。そして司馬伟を回収するために船が着くだろう場所に、吾妻が指を指した。
「もう一度話をまとめるぞ。航空機を飛ばした司馬伟は、すでに船との合流地点に向かっているはずだ」
「ああ」
「船に乗り込む前に、司馬伟の身柄を押さえる。これが我々の目的だ」
「把握している」
私の返事を聞いて、吾妻が頷いた。
「日の丸の航空機が、この地から飛び立ったという事実が今ある。それにあの男が関与していたという証拠がほしい。故に身柄を押さえる必要がある」
「それは死体でも良いのか?」
「できうる限り。ならん場合は首だけも良い。逃すのは何としても阻止しなければならない」
「望成目標として生きたまま捕らえること。必成目標としては生死を問わず蛇男のその身体を確保することだな」
「その通りだ」
目的地と出発地点が割れているんだ、敵の移動経路はおおよそ予想できる。問題は。
「こちらと相手側の戦力差か」
「ああ。船の到着地には上陸部隊が居るだろうから、そこに合流するまでに叩かねばならない。こちらは十二名しかおらんのだから、正面からぶち当たっても玉砕するだけだ」
「司馬伟の部隊も百名弱はいるだろう」
「そういう話になるな」
絶望的な状況に聞こえるが、吾妻は自分が言ってることを理解しているのか。
「つまり、この十二名で、移動中の百名弱の部隊を奇襲して、敵の大将を拐えと?」
「そうだな」
「敵が船舶に合流するまでという時間制限の中で」
「そうだ」
「……お前が上官なら、できませんと意見具申するところだな」
当たり前のように言ってくれる。吾妻は表情を崩していない。
「一つだけ、それでも成功する理由がある」
「なんだ」
「敵には穂高進一はおらんが、こちらにはいる。その一点でこちらは上回っている」
その言葉を聞いて、一瞬固まった。
「……おい。ヒトを超人みたいに言うな」
「俺はお前を過小評価もしていないし、過大評価もしていないつもりだぞ」
「どういう計算をすればそうなるんだ」
「ふはは。さて穂高。実際問題どこで食いつけば良いと思う?」
再び地図に目を落とした。
この経路であれば、敵が合流するには三日はかかる。
「ここから先回りすれば、三日目の早朝に奇襲をかけられる。勝機は一回だけだ。こんな奇襲などというのは作戦でもなんでもない、追い詰められたネズミが猫を噛むのと同じだ」
「だが、向こうは追い詰められたネズミが追いかけてくることを知らない、ということだな」
「そうだ。それが唯一の勝機だ」




