【第二部】第79話.追物
【第二部】第79話.追物
私は改めて吾妻に向き直った。
「本部に報告したい」
「それは人を出す、大丈夫だ」
「仲間が居るのか?この自治区に」
ああ。と、そんな返事をしながら、吾妻は頭を掻いた。
「ずいぶん前から俺たちはこの地に潜んでいた。おおよその事態は皇国陸軍には報告している」
「ずいぶん潜伏していても蛇の巣穴は見つけられなかったのか」
「それを言われると立場が無いんだけどな。そのとおりだよ」
黙って空を見上げる。空は青く静かだ。北の方を見るも、同じ空が続いていた。吾妻は懐から煙草を取り出して、こちらを見た。
「穂高は相変わらず吸わんのか?」
「うん」
手のひらを広げて必要無いというジェスチャーをする。改めて喫煙率など考えたこともないが、周りの男は皆吸うと思って差し支えないほどだ。私のような人間の方が珍しい。
吾妻が一服した。一呼吸置いて質問する。
「北加伊道を出る前に捕まえると言ったな」
「ああ」
「目処はついているのか?」
「船が来る」
「船?」
「ああ。だがどこへ来るかはまだ定かでない。だから今の潜伏先を知りたい。潜伏先がわかれば、自ずと合流地点は浮かび上がってくる」
「なるほどな」
文字通りこの地を脱出する手筈か。船に乗り込まれては、もはや追いかけようもない。
吾妻の咥えた煙草の先端から灰がこぼれた。
「それで、あの航空機の行先と目的はなんだ?」
「おおよそ当たりはついているが、俺からはまだ言えないな」
「ろくなことにはならんのだろう」
「そうだな。かなり大事になる。それこそ日の丸が転覆するかもしれん。だが司馬伟の身柄を取れれば、話は変わってくる」
「それほどか」
「それほどだ。だからこうして声をかけた」
確かに。自治区で任務を行なっているのであれば、私の前に姿をあらわすことなどあり得ない。現地に溶け込み、情報を収集するのが彼らの仕事だからだ。
「切羽詰まっている」
「向こうにもかなりの人数がいる。数えてはいないが中隊規模だ。それを追撃するというのか」
「追撃する。追撃して、必ず司馬伟を拘束する。協力してくれ」
吾妻の煙草が、静かに白い灰を落とした。
「わかった」
そう返事をした。




