【第二部】第78話.旧友
【第二部】第78話.旧友
「俺たちは、ニタイを立て直す。そのためには焼けた役所をどうにかしないとな」
ウナがこちらを向いて言った。
「タカはどうするんだ?」
「私は……」
まずは、司馬伟のこと。そして飛行艇の件。それらを皇国に報告せねばならない。どう判断するかはわからんが、情報を上の耳に入れておく必要がある。
「日本と連絡が取りたい。電話はあるか」
「電話も電報も自治区では難しいぞ。汽車が停まる駅まで出ないと」
この状況では郵便も不正確だ。誰かを使いに出すわけにもいかんし、自力で状況を報告するために戻るしかないのか。少し考えてみるが、どうにも妙案は浮かんではこない。
司馬伟の居た農村に偽装した基地が気になるがどうしようもない。
「一度連絡を取るために、自治区を出る」
「そっか」
「ああ。少し屋敷を使わせてくれ、準備をしたい」
さすがに、命からがら逃げ出してきたこのままの状態で出発などできない。衣服を整えて、水食糧の準備もいる。
「わかった。なんでも勝手に使ってくれ、婆やに言ってくれたらいい」
「助かる」
ウナに礼を言うと天幕から出た。ぎらりと日差しが眼に突き刺さる。昨日の雨が嘘のようだ。ふっと手のひらを目の上に持ち上げて、日傘を作った。
足も痛けりゃ、腕もギシギシする。身体中が悲鳴を上げている。そんな状態でも目的地に向かって足は勝手に動いている。
そんな時、後ろからついてくる者の気配を感じた。不意に角を曲がり、横道に入ってしばらく待った。ほどなくして、同じように横道に入ってくる男。
「何者か」
距離にして六歩ほど。目の前にあらわれた男に誰何する。何者で、何故私の後ろを歩くのか。
「何者か」
二度目の誰何。私の声に男は顔を上げて言う。
「待て待て。俺だ、吾妻勝だ」
「吾妻か、なぜこんな場所に」
確かに顔を見れば、この長身の男は吾妻勝。私と同期の男だ。東京の学校に行ったと聞いたが。
「東京の学校に行った俺が、なぜこんなところにいるのか」
「そうだな」
「だからここに居るんだよ、任務だ」
「任務?」
「そうだ。内容は言えないし、所属も教えられないけどな」
内容も言えぬ、所属も言えぬ任務か。
「怪しいか?」
「怪しいというよりも雑な話だ。まぁ。だが、さもありなんか」
「ははは」
吾妻は目を丸くして、笑って見せた。
「穂高。やはりお前は大した男だ。なんというか、適応力がある。俺よりよっぽど東京の学校に向いているかもな」
東京の学校というのは、実際には特殊な隊員を養成する施設だ。近代的な戦争に先駆けて、潜入や諜報に長けたものを育てるということである。
「それで吾妻。久しぶりに出会えたのは喜ばしいが、わざわざ私に接触してきたというのは意味があっての事だろう」
「もちろんそうだ、俺に協力して欲しい」
「なんのために。いや何に協力しろというのか」
「なんのために、というのは答えられない。いつからここにいて、何のためにどこへいこうというのか。そんなことは一つだって言えないさ」
「それで協力しろと」
「そうだな。そうだ」
急に姿を見せて、力を貸せというのは乱暴だ。だが吾妻が本当に任務として私の前に現れたのであれば。
「要件を聞こう」
「単刀直入に言えば、航空機の出所に案内してほしい。司馬伟という男を追っている」
ここでも司馬伟の名が出た。ずいぶんな人気者だが。
「司馬伟か。あの航空機に乗って飛んでいったのかも知れんぞ」
「それはない。やつらが北加伊道を出る前に捕まえる。俺たちはそこまで来ている」
航空機の存在、そして司馬伟の存在を知った上で捕まえると言い切った。吾妻の話をもう少し聞くべきだろう。




