【第二部】第75話.帰還
【第二部】第75話.帰還
「とうさ……」
「シッ!」
明継を制止して、胸元に引き込んだ。その頭を手で抱え込む。一連の動作を行いながらも、私の視線は空を舞う航空機の一団に引きつけられたままだ。
日の丸を描いた、偽りの航空機。轟音を轟かせて我が物顔でこの自治区の上空を駆ける。
目を凝らしてみるが、さすがに乗組員の顔までは見えなかった。しばらくして、飛行艇の影が見えなくなったところで明継を解放した。
「父様、今のは」
「清国の航空機だ」
「航空機?」
「空飛ぶ機械だよ。兵器だな」
あっけに取られた明継を横目に、逃走中に回収した皇壱式小銃の動作を確認する。構造が単純なボルトアクション式の小銃といえども塵や砂で動作不良を起こさないとも限らない。
しかしこれの良いところは、自動小銃のように分解清掃するたびにアレがないコレがないと騒がせるような繊細さがないところだな。
「歩けるな」
「はい」
「今日、陽のあるうちに街まで移動したい。爆破された役所も気になるし、トリィやウナもあそこにいる。鬼が出るか蛇が出るかはわからんが」
「はい」
明継は決意を感じさせる瞳で、真っ直ぐ父を見据えて返事をした。その様子に驚かされる。
「見ないうちにしっかりしたな」
「僕だって武士の息子だ」
「ふははっ武士の子か、確かにな。それに男子三日会わざれば刮目して見よとも言うか」
「うん」
ガシガシと明継の頭を撫でる。
「なら行くぞ、ついてこい」
そう言って穂高は先頭を歩く、その後を明継が、そしてそれを追いかけるように熊の子がついて行く。
同日午後。
自治区役所。穂高らは、追手の追跡を免れて無事に区役所まで到着することができた。
黒く焦げた煉瓦作りの役所の建物の周りを、忙しそうに何人もの男達が入れ替わり立ち替わり歩き回っている。
蛇男の手で引き起こされた火災は消し止められたようだ。しかし、それ自体というよりも、それが引き起こした混乱は長く続いていた。遠巻きに様子を窺うが、先程飛び立った航空機の影響はなさそうだ。
機能を失った区役所の代わりなのか、建物の近くに大きな天幕が張られており、その中に何脚も簡素な椅子と机が並べられていた。その中央に、椅子に体重を預けているウナの姿を見つけた。白い三角包帯で巻かれた右腕を吊っている。
「元気そう……でもないか。クンネとの決闘でずいぶん痛めつけられたようだな」
ただ、生きている事は確かだ。それに部下に対して何事か指示をしているところを見ると、ニタイの民の心にも変化があったことが窺える。
横目に明継を見る。
この様子であれば、我々が姿を現しても上手くやってくれるだろう。




