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元自衛官が明治時代に遡行転生!なんか歴史が違うんですけど!?〜皇国陸軍戦記〜  作者: ELS
【第二部】

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【第二部】第69話.蛇男ト目的

【第二部】第69話.蛇男ト目的



石や土によって機関銃が巧妙に隠されて、敷地の外に向けて銃口を突き出している。これは外部からの侵入に対してはかなりの防御力を発揮するだろう。それぞれの位置と数を頭に入れていく。どこが穴になっているのか。外から侵入する場合と、中から出る場合。情報は武器になるし、身を守る手段でもある。

人の目を避けながら、蛇男の所在を探る。注意深く観察していると、一つの建物に一人の男が入って行くのが見えた。開いた扉の隙間から光が(こぼ)れて、玄関先を濡らしている。


「確かあの男は、自治区役所で蛇男と共にいた人間だな」


追いかける価値はあるか、手がかりにはなるだろう。左右を確認して私は素早く扉の前まで駆け寄る。取手(ノブ)を軽く握り、なんでもないような仕草で扉を開けて侵入した。なんの抵抗もなく、屋敷は私を受け入れた。

屋敷の中では規則正しく等間隔に電灯が灯り、不規則に明滅している。狭い廊下に、いくつかの扉が連なった造りである。この廊下で敵に鉢合わせしたら終わりだ。

手近な扉の前に立ってみると、中から人の声がする。聞き覚えのある声だった。


「蛇男、ここにいたか」


探していた蛇男こと、司馬伟(スーマーウェイ)の声だ。ジッと扉の向こうの会話に聞き耳を立てる。壁越しの小さな音だ、自分の肺から口へ通る風の音の方が大きい程である。聞き漏らさぬように耳に神経を傾ける。


「……あの子供はどうしますか?」

「子供?子供とは、穂高進一の息子の事かなぁ」

「はい。今は蔵に押し込んでいますが、穂高進一は札幌に引き上げたと情報が入っておりますから」

「だとすれば用済みかい?」

「そのように考える者もいるかと」


部下の発言に、しばらく何か考えるように、司馬伟(スーマーウェイ)は口を閉ざした。その舌で唇を舐めると、再び口を開いた。


「ふうん。いや、まだ利用価値はあるだろうなぁ」

「利用価値、ですか」

「ああ、この計画。もし嗅ぎつけてくる者がいるなら、きっとあの男だろうからねぇ」

「大戦争」

「そうだ、大戦争を」


蛇男の口から出た言葉を反芻する。古今東西、大戦争と称する戦争はいくらもある。だが今、大戦争(GreatWar)というならば第一次世界大戦の事を指していると考えるのが妥当だろうか。それが蛇男の目的。

大正三年、史実ではオーストリアの皇太子が暗殺されたのを機に連鎖的に同盟国と連合国がぶつかった。それが第一次世界大戦の始まり。だが、この世界ではすでに大征五年。前世のような事実はなかったし、ヨーロッパも不安定ながらバランスを取っている。

これは識者の存在も大きい。仮にヨーロッパの各国にも私のような前世の歴史を知る者がいるならば、敵も味方も大きな損害を出すような戦争が記憶に残っていれば、それを避けようとするだろう。


「それより、匂うなぁ。なんだか(ねずみ)の匂いがする」

「……!」


司馬伟(スーマーウェイ)の言葉を聞き終わる前に、穂高は扉の前から飛びのいた。

次の瞬間、小さな破裂音が三つ。部屋の中から、扉に向けて蛇男が発砲したらしい。鉛の弾が、閉ざされた木製の扉をぶち抜いて飛び出した。紙一重でそれらを回避しながら考える。

気付かれた、何故だ。この場でやるか?それとも。

いや駄目だ部屋の中に何人いるとも知れぬし、無策で飛び込むことはできない。それに発砲音を聞きつけてすぐに人間が集まるだろう。素早く踵を返すと、先程自身が入ってきた出入り口から飛び出した。


「どうした!銃声だぞ!」

司馬伟(スーマーウェイ)様の部屋からだ!」


背中に多数の人間の声と足音。流石に反応が早い!弾けるように地面を蹴って、明継が監禁されている小屋に向かった。


「明継、来い!」


小屋の扉を開け放ったと同時にそう声をかけた。明継は一瞬目を丸くして驚いたが、すぐにこちらに向けて駆けて来た。


「父様!」

「あまり良くない。ここから逃げるぞ、ついて来れるか?」

「はい」


その息子の力強い返事に、父は黙って頷いた。機関銃の配置については、頭に入っている。その死角を通って退却する算段を組み立てた。一瞬の間も惜しい。

明継を外に連れ出た瞬間、辺りにあの男の声が響いた。


「穂高さぁん。駄目じゃないか、勝手に他人の敷地に入っちゃあ」

「……」


明継の腕を引き自分の後ろに手繰り寄せると、声の主に向き直った。


「おや、こんなところで出会うとはな。司馬伟(スーマーウェイ)、ずいぶん元気そうじゃないか」

「おかげさまでねぇ。それで何故、穂高さんがこぉんなところにいるのかな。他人の敷地に勝手に入っちゃいけないって教えて貰わなかったんですかぁ」

「そうだな。私も、他人の土地に勝手に屋敷を建てて良いという話は教わった覚えがない」


穂高より数メートル離れて蛇男。そしてその左右を固めるように拳銃を持った兵らが六名。六つの銃口が全てこちらを向いている。


「どんな魔法を使ったのかなぁ、穂高進一は札幌に帰ったと聞いたんだけどね」

「随分雑な情報網だな」

「そうだねぇ。しかし、ここで会えて良かったよ」


蛇男はニタリと笑みを浮かべた。

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