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元自衛官が明治時代に遡行転生!なんか歴史が違うんですけど!?〜皇国陸軍戦記〜  作者: ELS
【第二部】

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【第二部】第58話.魂売

【第二部】第58話.魂売



最初に踏み出したのはクンネだ。

左手に持った盾を、大きく突き出す。素早くそれに反応したウナが、自らの盾をそこにぶつける。がん、と大きな音を立てて二人の意地が交わった。

二度、三度、お互いが何かを測るように拳で硬く握った盾を打ち合う。


区域から出れば敗北という取り決めである以上、簡単に後ろに下がるわけにはいかない。気迫で負けて一歩下がれば、二歩三歩と遅れをとってしまうのは目に見えている。

どちらも引かぬままの正面衝突。数度のぶつかり合いのあと、クンネが半歩下がった。

正面から押し合えば、膂力(りょりょく)にまさるウナが押し勝つのは全く自然の道理である。


「ウウォォッ!!」


機を見たと、ウナが雄叫びを上げて更に一歩踏み込んだ。クンネは苦し紛れに右腕の短刀を横薙ぎに振るうが、ウナが胸中に飛び込むほうが速い。まさに鼻と鼻がぶつかるような距離にまで近づいて、ウナの右での肘打ちがクンネの顔面にぶち当たった。肘先を通して、はっきりと鼻の頭を砕いた音が伝わってくる。

鼻の頭に強烈な一撃を食ったクンネが、たまらずに顔を抑えたまま後ろに下がった。


「「オオオォォー!ウナ!ウナ!ウナ!」」


観戦者の大きな声援が飛ぶ。

今が好機だ。ウナは頭では思ったものの、追撃の一歩が踏み出せない。なんの勝算もなく、俺に挑んでくるはずがないのだ。

あの、賢く強い叔父が。

気がつけばクンネも体勢を立て直し、盾と短刀を構えている。鼻から出血はしているようだが、彼の戦意を喪失させるには弱い。


「ウナ、強くなったな。お前の父親……いやそれ以上かもしれん」

「俺は強いよ」


クンネの言葉に、ウナは応えた。

そうだ。ニタイの長たる者は戦士としても最優でなければならない。


「叔父さん。俺を強いと思うならなぜ挑む。本当にそれがニタイの為になるっていうのか」

「無論だ。ウナよ、現実を見ろ。このままではニタイは消える。未来の見える真に優れた人間が、民を引っ張っていかねばならぬ。そういう時が今来ているのだ」


それはそうかもしれない、しかし。


「未来の見える真に優れた人間っていうのは、叔父さん。いや、クンネのことかい?」


ウナのその問いかけに、クンネはにやりと笑みを返した。


「だろうね!」


そう言うと同時に、ウナが突進した。負けるわけにはいかない。再び二人の盾がぶつかった。力で劣るクンネが大きく体勢を崩した。

そこへ、ウナが間髪容れずに回し蹴りを打ち込んだ。つま先がクンネの肋骨(あばらぼね)の下に食い込んで、堪らず彼は身をよじった。よろよろと数歩歩いて、膝をつく。


「ごぼっ」


苦しそうな声をあげて、苦悶の顔を浮かべるクンネを見て、彼の支持者たちが声を失う。逆にウナの支持者たちは大きく盛り上がった。

若く強い戦士である首長が、老獪な挑戦者を跳ね退けているのだ。彼を信奉する者たちにとっては痛快だろう。

大きな声援をあげている男達の中には、あのモユクもいた。レタルの説得に応じて、彼もこの場に立つことを選んだのだ。

膝をついて下を向いたままのクンネに、ウナが近づいていく。


「さあクンネ、立て。決着をつけよう!」

「そうだな……決着を」


弱々しく、震えながらクンネが立ち上がる。

おかしい。二発や三発入れられたところで、クンネほどの戦士がここまで弱る筈がない。演技か!?

そう思った瞬間、きらりとクンネの右腕が光った。今までで一番速い!ウナの右手の手首を狙って真っ直ぐに刃が走った。


「シッ!!」

「このっ!」


ウナは短刀を持つ右手を引いてそれを避けながら、左手の盾でクンネの右腕を叩き落とした。「ギッ」と声なのかなんなのかわからない叫びを上げて、クンネは自らの短刀を取り落とした。


「不意打ちなんて」


そう叫びながら、ウナはくるりと背を向ける。


「らしくない!」


同時に、後ろ回し蹴り。真っ直ぐに蹴りがクンネの中心にめりこんだ。彼は大きく、くの字に身体を折り畳んで、その場に倒れ込んだ。武器を取り落とし、地面に伏したクンネを見て、ウナは一つ息を吸った。


「ふぅー……」


咄嗟に引いた右手。反応が遅れていればこの右手は持っていかれていたかもしれない。そうなれば、倒れていたのは俺だったかもな。

そう思って、ウナは自分の右手首を見た。

うっすらと一筋、止血も要らぬほどの浅手だが確かにクンネの短刀による一撃の跡があった。ジンと鈍い痛みが広がる。

視線をクンネに戻す、未だ立ち上がっておらず地面に伏したままだ。この方形から、やつの身体を外に出してしまえば決着だ。

同じニタイの民だ、殺してしまうわけにもいかない。話し合えば……。


「……ッ」


ジンジンとした痛みが、手首から前腕部全体に広がっていく。耐えがたい痛み。何かおかしい。

パッと再び、自分の腕に視線を落とすと、右手首から前腕部にかけて皮膚は濃い紫色に変色しつつあった。出血?いや、これは。


「毒」


しかも、この症状。ニタイが狩猟に使う毒ではない。そこも、そこすらも。魂まで売ったのか!


「クンネ……お前!」


ウナの声に答えるように、ゆらりとクンネが立ち上がった。

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― 新着の感想 ―
[一言] うわあああ クンネ卑怯すぎるやろ… ウナは、ニタイの未来どうなってしまうんだ!
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