【第二部】第56話.決心「ウナ視点」
【第二部】第56話.決心「ウナ視点」
レタルは言う。クンネは清国と通謀して、このニタイ自治区や、もっと広い範囲、日本皇国にまで武力行使する準備を整えつつあるのだと。ウナは考えた。本当にそんなだいそれたことができるのか。できるとしても、あの聡明であった叔父がそんなことに加担するだろうかと。
「それが本当なら」
「事実です。わしはこの目で見たのです」
はたして自分の手に負えるのか。
俺がこの情報を持って日本に飛び込んだらどうだ。いや、だめだ。日本皇国の影響力が強くなって、いよいよニタイの民に自治区など認められなくなるだろう。
それに首尾良く日本側の協力を取り付けたとして、ニタイの地に清国を呼び込んだクンネと何が違う。俺とクンネと二つの派閥が二つの国からバックアップを受けて、国を割った代理戦争が始まる可能性すらある。
だめだ。
必要なのは民族の団結。地に足をつけた人間たちの結束だ。
日本皇国に援助を求めるにしても、ニタイのことはニタイで解決しなければ。我々が一枚岩になっていないと、藪蛇にしかならない。
「今、俺たちに必要なのはニタイの民の信頼だ。皆の支持を集めなければ、クンネを退けたとしても後がない」
でも、と言って続ける。
「それは向こうもそうだ。だから俺の周りに手を回して、孤立させるように段取りを取ったんだ」
首長を示す短刀はまだこちらにある。しかし、それだけでは何の意味もない。旗印だけだ、民の意思がそこになければ。
「ウナ様。わしは、いやわしらは先代の頃からあなたを支持するものです」
「わしら?」
「そうです。今も昔も、ウナ様のために生きるものです」
レタルがそう言うと、隣の部屋へと続く扉が開かれた。大小さまざまな瞳が、いっせいにウナを見つめる。いつから潜んでいたのだろうか。ただ、それらの視線はウナを後押しする様に向けられていた。ウナを支持する者たちである。
「クンネが何を言って、区役所の職員に取り入ったのか調べ上げましょう。そして可能な限り障害を取り除く。人の心はそんなに急には変われない、何か裏切るには理由が要るはずです」
「そうかお前たち……。頼む、俺も続けて正面から彼らを回って説得する。俺はクンネを受け止め、そして全てのニタイの民をまとめるんだ。俺たちの土地だ。同じニタイの叔父さんに舵を任せたとしても、よその人間たちの良いようになんてさせてたまるか」
四方からそうだそうだ、と声が上がる。
「そうか、これだけの人間が」
ウナは静かに思う。
役所の人間の半数もが離反するとなった時、何もかもが敵に回ったように感じたが、そうではないのだ。
「自分の目に映る範囲だけが世界だけじゃないんだな。俺にはまだ信じてくれる人がいるし、まだやれることがあるんだ」
目に見えないところまでも、ニタイの全てを背負う。ウナは今再び、そう覚悟した。