【第二部】第52話.ケジメ
【第二部】第52話.ケジメ
「そうか」
ウナの決心を受けて、穂高が短く返事をした。
「ではどう動く」
「俺は、ともかく置き手紙を置いて消えた者たちを訪ねてみるよ。真意を聞きたい。その上で、俺がクンネとぶつかるつもりだという事を伝えてくる」
「うん」
「もし、俺について来てくれる奴がいるなら戻って来て欲しいしね。クンネが来るまでの二日間、やれるだけのことをやるつもりだ」
「わかった。ウナ、お前はやれる。私はお前を応援している」
「タカは……」
穂高は肩をすくめて応えた。
「私は、脅迫状が届いている身だからな。今日中にこの地を出発たなければならない」
「タカ……いや、ありがとう。気をつけて」
「ああ。そうだ、道中何があるか分からんし、検問をうまく通れるように一筆書いてくれないか。私はウナの客であり、札幌に帰るところだと書状を書いて貰えれば、検問も上手く通過できるだろうからな」
「そっか、すぐ書くよ」
「助かる」
「じゃあ、ちょっと俺の部屋に来てくれよ。紙とペンが要るからね」
そういうとウナは自室に入った。穂高もそれに続く。静かに扉が閉まると、ウナは言った。
「ここなら二人だけだ」
恋人同士の甘い囁きのような台詞だが、そういう意味でないことは承知している。他の者に聞かれる恐れがないから、何でも話せという意味だ。
「ただ札幌に引き上げるだけってことはないんだろ?」
「……悪く思うな。残ったお前の部下の中にも草が潜んでいないとも限らんからな」
穂高はそう言って続ける。
「札幌に引き上げたと見せかけて、地下に潜るつもりだ。以後の情勢を見て、どう介入するべきか決める」
「うん」
「もし明継を誘拐した人間が、この騒動に関与していれば直ちに救出する。しかし、そのためには身を潜めていなければならない。直接お前を助けてやることはできないだろう。クンネとの一件は、ウナ、お前の戦いだ」
「俺の戦い」
「そうだ。可能なら助力してやりたいが、そうもいかないのだ」
ジッとしばらくウナは穂高を見た。しばらくして、ウナが口を開く。
「わかった。ところで、タカは銃は持ってるの?必要でしょ」
「そうだな、ピストルはある」
腹に忍ばせた回転式拳銃だ。拳銃を使うほどの距離まで姿を晒すのはリスクがあるため、最終手段になるだろう。
「じつは置いてあるんだ」
「何を?」
「タカの鉄砲さ」
そう言ってウナが取り出したのは、黒光りする小銃。簡素な作りながら、信頼できる精度を発揮した見覚えのある小銃だ。
装弾数五発。作動方式、ボルトアクション方式。全長1280ミリメートル、3980グラム。
銃剣着剣時にはプラス400ミリメートル。明而陸軍が作り上げた初の国産小銃である。
「壱式、皇壱式か。ウナ、お前どこでこれを」
「タカが雪兎を受け取る前に使ってたやつだよ。五年前の、手入れはしているけど。どうかな」
ウナから手渡された小銃を手に取った。ヒヤリと感じる手触りに、確かな威力を感じた。
構えてみると実感できる。十分だ、これならば狙撃も可能だろう。
「タカがそれを持てば無敵だ。俺も頑張るから、タカも頑張れよ!」
「ああ」
グッと手に力が入った。あの戦争を思い出す。ただ一つ。今回五年前と違っているのは、これは戦争ではないのだ。
そしてここは陸軍の敷地でもない。ならば、私は兵隊ではない。ただの穂高進一だ。
「できることなら、こんなモノを使わないで終わらせたいな」
ウナはそれを聞いて、一瞬意外そうな顔を見せた後笑った。
「そうだね」