【第二部】第42話.認識ノ差異
【第二部】第42話.認識ノ差異
穂高らの認識とウナの認識には、少しだけ差異があった。
「話が噛み合わないな。私達の聞いた話と、内容に齟齬がある可能性がある。一度整理すべきだろう」
穂高がそう言った。
「はん、きな臭いわな。レタルって名前だけは一致しとるみたいやけどな」
「うん、確かにウチにレタルはいたよ」
確かに存在するレタルという男。しかし何か繋がらない。
「レタルが札幌に出て、私に会うというのは聞いていなかったという事だな」
「聞いてないね。というかあいつはウチの職員だったのにある日突然いなくなったんだよ」
「突然?それはいつ頃の話だ?」
「二週間……三週間くらい前かな」
「二、三週間間に行方不明になったレタルという男が、人知れず札幌に来て私に会っていたという事だな」
「そうだね。その時レタルは何を話したの?」
なるほどウナはレタルの動向には関知していないという事だ。
「はじめは私に自治区にこないでくれ、そう言ったな。ウナの判断かと問うと、ウナを支持するものらが勝手に判断したというニュアンスだったが」
「俺はそんなの知らないよ。そもそもタカが来るのは予定通りだと思ってたんだ。なんで早く到着したんだろうって……」
ふん、と一つ息を吐く。
「ところでレタルという男はどんな男だ」
「真面目な男だよ、和を重んじるというか。気配りはあったね、それがなんで突然失踪したのか皆困惑してたんだ」
「みんな?」
「ああ。俺だけじゃなくて、自治区役所の皆がね。あれが演技だって言うなら知らないけど、そうだとしたらずいぶん役者だ」
「そうか」
レタルの話では、彼のようなウナの仲間たちが情勢を見て面会を中止にすべきだと考えたと言っていた。ウナだけが知らないと言うならばわかるが、皆が同じように知らないとすればそれは変だ。
「クンネという名前は心当たりがあるか?」
クンネ派とウナ派の派閥争いがあるというのはレタルが語ったことだ。
「……」
「知らないか?」
「クンネは俺のおじさんだよ。そうだ。今は、ちょっと喧嘩してる」
「派閥争いをしていると聞いた。皇国に肩入れしているウナ派と、親中親露のクンネ派。自治区が二つに分かれていると」
「それは……それは事実だ。おじさんの考え方は理解はできても賛同できないし、俺のやり方をおじさんは認めてくれない」
「そうか」
どうやらこちらは事実らしい。皇国の新聞でも自治区の内部は一枚岩でもないらしいと言うようなことは書かれていたし、それはそうなんだろう。
「ズバリ聞くが、レタルはウナの派閥の人間なのか」
「そうだね。俺はそう信じていたけど……」
少し間を置いて、ウナが言う。
「けど、何が正しいのかわかんないや」
「そうか」
現状では情報が少ない。レタルという男が妙な動きをしているのが気になるが、何かを企んでいると決めつけるのも早計だ。しばらく何事か考えていると、ウナが話の流れを変えた。
「ところで、もう日が暮れるけど。今日はもう泊まっていくだろ?」
気をつかってなのか、そんな提案をした。
「助かるな。久しぶりに屋根の下で寝られる」
「うん。部屋はいっぱいあるから、案内するよ。一人一部屋でいい?」
「ああ、ありがとう」
「それで、しばらくはこっちにいられるの?すぐに帰るってわけでもないんだろ」
「うん。まぁ少しゆっくりさせて貰うよ」
ニッとウナが笑顔を見せた。単純に客人をもてなすことが嬉しい、そんな純粋な笑顔だ。
「じゃあ今日はもうお開きにして、風呂でも入ってきなよ。婆やに湯を用意させてるから」
「風呂があるのか」
「でかい風呂だぞ、すごいだろ?それが自慢なんだ」
ウナがえへんと胸を張る。それを見た吉野が、俺もでかい風呂作るかなんてボソリとつぶやいた。ウナと張り合ってどうする。