【第二部】第41話.新天地
【第二部】第41話.新天地
「それで、タカ達は俺にどんな用事なんだ。連れの人間を見ると、あんまり真っ当なことではなさそうだけど」
「うん。それなんだが……」
ウナの問いに穂高が応えようとした時、がたりと椅子から立ち上がる音がした。トリィだ。彼女は立ち上がり、口を開いた。
「穂高さん、それは私から説明します」
「できるのか?」
穂高がそう問いかけると、真っ直ぐ立っていたトリィがわずかに揺れた。どうにも緊張しているらしい。
「穂高さんにはお礼の言葉もありません。危険な道程を越えて、自治区まで連れてきて頂いたうえウナさんに引き合わせて頂きました。お約束はここまでです。あとは私の問題ですから」
そう言ってトリィは彼に向き直った。
「聞くよ」
ウナがそういってトリィを促す。彼女にとってはこの旅の目的を達成できるのか否か。ここ一番に全てがかかっているのだ。トリィは姿勢を正して、ひとつ息を吸い込んだ。
「わ、私を……その。この土地に住まわせて欲しいのです!」
「あぁ。良いよ」
「良い……えっ?」
ウナは二つ返事でスパッと返した。次の言葉を用意していたのだろうトリィがバランスを崩した。そんな彼女にはお構いなしにウナは続ける。
「だから良いよ。寝泊まりする場所がないなら俺の屋敷でしばらく生活したら良い。三度のご飯を食べるくらいは世話するよ」
「あの、事情とか。その」
「良いよ、そんなの。聞いたってわかんないし。タカが連れて来た子なんだ、大丈夫だろ」
トリィは、きょとんとした目で動きを止める。頭の中で何事かをぐるぐる考えているのだろう。
「で、でも。私はルシヤに……」
「良いって。それに、この辺りにはそんな奴らがいっぱい居る。誰かに追われていたり、戸籍がなくって居場所がないってような人間が」
「じゃあ」
「うん。だから良いって。好きにしたら良いよ」
「あ、ありがとうございます!」
トリィはぱっと明るい表情になって礼を言った。これで念願が叶ったわけだ。
「ところで、俺に会いに来た理由って何?」
「いや、トリィの言った通りだが」
「それだけ?」
「ああ」
ずいぶん真面目に真剣な顔を作っていたウナの表情が緩んだ。
「なんだ。こんな時に会いに来たって言うのだから、もっと重要な話かと思ったよ」
「彼女からすると一大事だ」
「ふぅん。そんなものかな?まぁ良いや」
ずいぶんぬるくなった茶を一口。一仕事終えたような空気が流れる。ふと思い出したように穂高が言う。
「ところでレタルとか言ったか、ニタイの男だ。彼はどうした、まだ到着していないのか」
ウナは首を傾げた。
「レタル?なんでタカがあいつを知ってるんだ?」
「いや、彼とは札幌で会った」
「札幌?」
彼は何かを考えるような表情を浮かべた。吉野がウナに向かって言う。
「俺らが出発する前に、先んじて札幌からこっちに向かったはずやけどな。向こうは一人で荷物も身軽や。先に到着せんはずないわ」
穂高らは三人。子供もいるし、荷車もひいている。それに札幌からここまでは、普段通るべき道をなぞるならば、一本道と言っても良い。
「……ところでレタルはなぜ札幌に?」
「おいおい、聞いてないんか?」
「知らないぞ」
三者は顔を見合わせた。何か話の繋がりが良くない。何か妙だ。