【第二部】第39話.再会
【第二部】第39話.再会
穂高一同は、石で舗装された道を、がらりがらりと荷車を引いて歩いている。そう、ついにウナがいる町にたどり着いたのだ。
日本というよりはヨーロッパの文化に近い街並みである。ルシヤ人が引き上げたルシヤ人街を居抜きで使っているのだから当然なのであるが、まるで異国の地のようだ。
大掛かりな街並みにしては人通りは少なく、その上人種もまばらである。日本系、ルシヤ系、そしてニタイの民風の人間。しかし、いずれにしても愛想の良さそうな者はおらず、余所者には目をあわせずといった具合だ。
そして大通りが十字に交わったその中央に、石と木でできた大きな建物があった。その前まで来た時に彼らは足を止めた。
歴史を感じる重厚な木製の扉に、これまた古めかしい金具がついている。穂高は一人前に進み出て、その金具で扉を叩いた。
しばらく待つが返事がない。もう一度と右手を再び上げたところで、大きな扉がギッと音を立てて半分だけ開いた。その影から眉間に古傷のある男が顔を出す。ぎょろりと目玉だけが異様に目立つ男だった。
無言で彼らを睨みつけるので、刺激せぬように穂高はなるべく優しげな声で問うた。
「ニタイ自治区役所とお見受けするが、どうか」
「お前たち、倭人カ。何の用だ」
「我々は札幌から来た商人だ。首長のウナにお会いしたいのだが」
「首長はお前達には会わなイ」
重い扉が再び閉まる。
「待て、札幌の穂高だと言えばわかる。穂高進一だ……」
言い終える前に、穂高の声は虚しく遮断された。吉野は「どうする?」と言った表情で彼を見た。
「もう一度掛け合おう」
そうして再び、扉をノックする。乾いた音が通りに響くが、それだけだ。閉ざされた扉が開く事はない。
「あかんか、出直すか?」
「うん。それにどうも空気がピリピリしている。この緊張感はどうしたのだろうな」
「せやな……」
先程から姿を見るのは男だけだ。女と子供は一人も見かけない。遠巻きに余所者を見張っている、そんなイメージだろうか。
ギッ、ギィー
そんな時、軋んだ音を立てて正面の扉が開け放たれた。
「タカっ!」
大きな、聞き覚えのある声が飛び込んだ。そして大きく両手を広げたニタイの男が現れた。いつかの首長の男、それを思わせるような若者だった。
「ウナ、お前ウナか」
「ウン。久しぶりだなタカ!来てくれたのか」
「ああ。しかしお前立派になったな」
「タカは変わらないな!」
いつかのような軽口に、穂高はふっと笑う。五年前別れた時には、まだあどけなさの残る少年であった。今はどうだ。面影はあるが、どこから見ても精悍な戦士の姿だ。
「俺も中身はあんまり変わらないよ」
そう言ってウナは拳を突き出した。穂高はその拳に対して自身の拳をコツンとぶつける。
「それで、そっちのやつらは?」
「ああ、そうだな。実は折り入った話があってな。建物の中で話せるか」
「良いけど、それより俺の家で聞くよ。話しにくい事なんだろ、直接聞かせてよ」