表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
169/238

【第二部】第26話.準備ト出発

【第二部】第26話.準備ト出発



「進一君がそう言うなら必要な事なのだろうね、好きにしたまえ」

「ありがとうございます」


突然の盆休みを取らせよという穂高の申し出を、赤石校長はなにも聞かずに許した。あとの事は、岩木教諭と高尾教諭がなんとかするらしい。両教諭には世話をかけるが、彼らからは協力すると言質を取っている。力を貸して貰う時が来たということだ。

出発は明後日。明日全ての旅準備を整えて、翌日早朝より家を出る事に決めた。トリィとはお別れになる明子と明継には、彼女は親元に帰ると告げる。惜しまれながらも、互いに別れの言葉を交わして挨拶とした。

そうして滞りなく、スムーズに準備は整った。


列車で行けるところまで北上し、そこからは徒歩で自治区内のウナのいる集落を目指す。駅に、ある程度の荷物を吉野が用意しているため、個人で準備するものは多くはない。正体を伏せての訪問で軍服を着用するわけには行かないので、穂高は平服に拳銃(ピストル)だけを懐に忍ばせた装いである。


そして、当日。


希望と期待と、それに不安を乗せた列車は北端の駅に到着した。すでに先に到着していた吉野が、穂高とトリィの姿に気がついて、声をかけた。


「お、来たか。遅かったやんけ」

「決められた線路の上を走る列車といっても色々あるらしい。早い時もあれば遅い時もある。ままならんものだな」

「阿呆、まずは遅れた詫びをせんかい。言い訳はええねん」

「ふん。すまんな、遅くなった」


吉野はニッと笑って、色眼鏡をずらして瞳を見せた。そのまま隣にいるトリィにも話しかける。


「そんなボロ着て行くんか?」

「はい。動きやすいですから」


トリィは、はじめて出会った時のボロを着ていた。まず結構な距離を歩く事になる、綺麗な服などと言ってはいられない旅なのだ。


「それに、買って頂いた新しい服は背嚢(リュック)に入っていますから。いつでも着替えられます」

「さよか、ほならええわ。結構歩くからな」


ここからウナのいる集落までは、荷車を引いて歩けば四日ほどかかる。まず野営は避けられないだろうが、途中道沿いに軒を借りられそうな屋敷があれば、それに頼ってみるのも良いだろう。


「ならば出発するとしよう」

「おい、俺が音頭をとろうと思っとったのに!」


下らんことに突っかかる吉野を無視する。

自治区までつながる道は一本だけ。それも丁寧に整備された道などではなく、ただ草木が分けられた野の道だ。自治区に用がある人間はすべて、この道を歩いて進むのだ。


「冬でなくて幸いだな。この辺りは雪があると道も何も無くなってしまうだろう」

「やっぱり、北加伊道(ほっかいどう)も雪が降るんですか?」

「降るさ、よく降る」


そういえば、トリィは冬この地をまだ知らんのだったな。


「雪は嫌いか?」

「嫌いとか、好きとか。わからないです。生まれた時からありましたから」

「そうか」


パッと、会話を区切るように吉野の手のひらが我々の前に突き出された。


「話は歩きながらしようや。出発するで」


どうやら出発の合図をどうしても自分が出したいらしい。吉野と共に旅をする。なんだかこの雰囲気、学生に返ったような感じだ。


「わかった。号令を頼む」

「よっしゃ、吉野以下三名。自治区首長の集落まで、出発!」

「「出発!」」


早速一歩踏み出そうとした時、吉野がハタと止まる。


「なぁ、穂高。荷車どうするんや」

「どうするって、人力で牽曳するほかないだろうよ」

「誰がひくんや?」

「私かお前だな。まさかトリィに引かせる訳にいかんだろう」

「ほな交代制やな。で、最初はどっちが引くんや?」


どっちから始めようが、そんなものは大差ない。


「はぁ。どちらでも良い」

「そうかあ、俺もどっちでも良いんやけどな。この荷車用意したのは誰やったかなぁ?」

「……」


吉野は荷車に積まれて幌が(ほろ)かかった荷物を、ポンポンと軽く手で叩く。そのまま視線を穂高に向けた。どうやら最初はお前が牽引しろという意味らしい。


「最初は私が引くよ」

「さよか、悪いな!ほなら改めて……」

「ああ」


スゥっと息を吸い込む。


「「出発!」」


三人の声が揃った。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
[良い点] 今回の吉野はちょっとはしゃいでいる感じですね。 やっぱり学生時代を思い出しているんでしょうか。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ