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【第二部】第25話.盆休ミ

【第二部】第25話.盆休ミ



「それでなんか問題あるかいな」そう言ってのけた吉野の目を、レタルがジッと見た。


「どや」

「それは構わんが。本当に身の安全は保証できないぞ、怪しげな和人として捕らえられれば、二度と帰って来れぬかも知れん」

「せやな危険や。どうするよ穂高」

「ふん。乗り掛かった船だ、やるしかあるまい。トリィを抱えて札幌に居座るのも危険に変わりはないしな」


トリィをウナに会わせると言う約束をしてしまったのだ。約束は果たさなければなるまい。


「この少女も連れていくのか?こいつはルシヤ人か、何者なのだ」

「まぁ、ちょっと事情があってやな。素性は明かせんけど、彼女をウナに引き合わせたいんや」

「おい。それこそ無謀だぞ、検問があると言ったろう。私設の関所のようなものだ、そこでこの女はなんだと聞かれるに決まっている」


自治区には、すでにクンネの勢力が幅を利かせているという事だ。クンネ派はルシヤと繋がっており、検問で引っかかれば厄介な事になるのは間違いないだろう。


「せやな、どうするかや」


吉野がトリィを頭の先から足の先までじろじろと見る。「おい」とささやかにトリィ(今はベア)が抵抗するが、吉野は気にも止めない。


「着物の方がウケるか。いや、洋服のが

良いんかな。好みがわからんからなあ」


何を言い出したのかと、レタルはぽかんとした表情を見せた。そこに吉野が続けて言う。


「女は荷車に積んで検問を突破する。俺は自治区の首長に商談に行くと言ったやろ?」


なるほど。吉野以外の三人が三様の納得をする。


「別に商売人を排除するための検問じゃないんやろ?なら俺らは通過できてしかるべきやし、商談がまとまって商品(トリィ)を置いて来たとしても問題はないわな」

「それは、理屈ではそうだが」

「理屈でそうならええやん。こちらに理があるってことや」


つまりは人買い。人身売買を生業とする商人に化けようと言うのだ。穂高と吉野、こんな怪しげな二人の日本人が、国外の少女を引き連れていれば、そう見えぬ事はないだろう。しかし、穂高は怪しんだ目で吉野を見る。


「吉野、お前その発想。本業で人買いをやっているんじゃないだろうな」


穂高の声に便乗して、トリィが怯えたように自身の肩を抱いた。「吉野さん堪忍して」なんて遊んでいるところを見ると、あれはトリィの皮をかぶったベアだろう。


「アホ!俺は外道やないわ!」


くっくっくと、レタル以外の者から笑いが漏れた。不思議そうな顔をして彼が言う。


「生きるか死ぬか、そんな大仕事の前によくもそんな不真面目にやれるものだな。度胸があると言うべきなのか」

「不真面目?アホ言え、大真面目にやっとるわ。たとえ地獄の底でも、昨日より面白い事があれば人は笑うもんなんや」


地獄の底でも笑えると言うのは吉野だけだとしても、人というのは適応力があるもので、非日常を生きていればそれが日常となる。

生きるか死ぬか。この三者は知らず知らずのうちに、そんな世界に慣れてしまっているのかも知れない。


「まぁ大まかな話はわかった。では、今の件をわしからウナ様に伝えておこう」

「すぐに自治区に戻るんか?」

「この件は電報で送るわけにもいかんので直接伝えに来ただけだ。すぐにウナ様のもとへ戻るつもりだ」

「そおか。ほならいくらか餞別でも持たせてやるわ。どうせ文無しやろ」

「それはありがたい」


吉野はレタルとの打ち合わせを終えると、パッと顔を穂高に向けた。


「ほな、穂高(チビ)は盆休み取ってこい」

「了解、赤石校長に調整を願おう」


そうして、自治区への侵入の段取りが決まったのであった。

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