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【第二部】第5話.穂高教諭

【第二部】第5話.穂高教諭



北部方面総合学校では校舎の清掃は生徒自身が行う。一期生である穂高が教諭として働くようになった今も、その伝統は受け継がれていた。

玄関に飾られている長大な鉄砲の入った硝子棚(ガラスケース)を、丸刈りの青年らが一所懸命に拭いている。彼らの毎日の作業によって、その鉄砲は埃一つなく静かに鎮座していた。


「穂高教諭、おはようございますッ!」

「うん。おはよう」


青年の一人が、元気よく挨拶をする。

北部方面総合学校で教鞭をとるようになって数年。穂高の所作も先生ぶりが板についてきていた。


「感心だな。細かな所まで、しっかり清掃している」

「はい。前戦争での教諭の愛銃と聞いておりますから、手は抜けません!」

「うん」


雪兎は戦争の後、修復されて学校に飾られる事になったのだ。穂高の心情としては少し変な感じだが、義理の父である学校長がそう決定したのだからしようがない。

少しの間があって、生徒の一人が緊張した様子で口を開いた。


「あの。穂高教諭は、この銃でルシヤの将軍を討ち取ったというのは本当ですか」


目を輝かせながら、グループの中で一番背の大きな青年が問うた。あの戦争の後、穂高は一種の英雄として祭り上げられている。

宣伝に使われているということだ。そして、そんな事を直接穂高に聞いてくるのは、決まって第一学年の生徒たちである。


「そう。いや、正確には少し違うな。雪兎を使っていたのは確かだが、将軍を捕らえた時は素手であった」

「素手で!?」

「うん」


彼らに動揺が走った。穂高は体格の大きな生徒の肩程の背丈しかない。そんな男が熊ほどもあるルシヤの将軍を素手で捕らえたというのだ。


「信じられない」


ぼそりと呟いた者が一人。穂高はそちらに視線を向けて、ニッと笑って見せた。


「格闘教練もあるから、その時にシッカリ教えてやろう」


穂高が教官となるまでは、学校では銃剣での訓練が主で、徒手格闘は必修ではなかった。しかし、穂高がその重要性を説いたため、赤石校長は教育課程(カリキュラム)に入れる事に決めたのだった。


「エッ!は、はい。お願いします」


周りの生徒たちが「おい良かったな」などと肘で小突いたり、(はや)し立てて喜んでいる。全員同じ目に合うのだがな。



……



札幌に向かう汽車の中。

窓際席で一人、青い空気と緑の香りを楽しんでいる男がいた。細い目を普段より細めながら、景色の移ろいをただ眺めている。

そんな彼に、白髪交じりの一人の男が声をかけた。


「もし、隧道(トンネル)に入りますよ」

「ああ、これは失礼」


白髪の男に指摘されて、彼は素直に応じて窓を閉めた。黒煙をたなびかせて走る蒸気機関車では、窓を開けたまま隧道(トンネル)に入ると、煙が窓から入ってきて酷い目にあうからだ。


「ひょっとして、清国の方ですか」

「ええ」

「やはりそうでしたか。そちらは良いですねぇ、景気が良くて」


清国の男は、目線だけで白髪の男を眺める。ジッと見つめたのは一秒か二秒か。おもむろに表情を崩して言った。


「下々までは景気の良し悪しなど感じないですよ。それに北加伊道(ほっかいどう)も随分発展してきているという話を聞いていますよ」

「そうらしいですねぇ。わしも出稼ぎで札幌に向かっとるんです。良い仕事があれば良いんですが」

「そうでしたか。見つかれば良いですね」


こっくりとうなずいた。白髪の男は、話し相手を見つけたのが嬉しいのか笑顔で続けた。


「あなたも札幌に?」

「ええ、五年ぶりですから。楽しみです」


清国の男は、にたりと口角を上げて笑みを浮かべた。それを見た白髪の男はゾッとした何かを感じて、簡単な挨拶を残して去っていった。

彼は邪魔者がいなくなった事を確認すると、隧道(トンネル)を抜けた後の景色に視線を戻す。


「本当に、楽しみだ」


二つに割れた舌が、ちろりと顔を出した。


第二部の先行公開はココまでになります!


次話の投稿は少し時間が開くかと思いますが、しばらくお待ち頂けるとありがたいです!

よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 出たな、蛇男。と書こうと思ったらすでに書かれていた。 デジャブ? [気になる点] 汽車のくだりが一部のオープニングとシンクロしますね。 やはりデジャブ。 [一言] なんですかね。特に動きは…
[一言] 出たな、蛇男。 この世界の清は地域大国ぽいけど、今どんな状況なんだろう。
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