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第13話.決着

第13話.決着



照門照星を一直線に、ぴたりと頰を付けた小銃の先をヒグマの胸に向ける。狙うはその心臓、狙撃の瞬間。緊張する一瞬である。


大きな身体のどこかに当たったなら二の矢を打ち込めば良い、そう考える事もできるだろう。しかし大型の獣を狩猟する場合、一発で急所に当てるのが肝要だ。

半端な箇所に命中すると反撃や逃亡の恐れがあるからだ。

そう反撃。ヒグマは時速五十キロ以上ものスピードで走ると言われている。それは実に百メートルを七秒のスピードである。三百の距離から打ちかけても、致命打にならなければ二十秒後には目の前なのだ。それがどれほど危険であることか。


悪い想像を振り払い、手元の鉄管に神経を集中する。上下に揺れる銃口が、すうと動きを止めた。隣で目を細めて息を呑む二上巡査の喉が鳴る。


時間がゆるりと流れ、精神が研ぎ澄まされていく。恐怖も、焦りも無い。まるで自分自身を俯瞰(ふかん)したかのような不思議な感覚。きっと頭の上にもう一つ目が付いたのだろう。


銃の引き金が「ことん」と落ちた。そうなるのが当然であるかのように、林檎が地に落ちるように、引き金が落ちた。同時に閃光と衝撃。ドォンと言う音が聴こえた。

銃口を飛び出したライフル弾は、真っ直ぐに黒い塊に吸い込まれていく。狙いの中心を僅か左上に逸れたが命中だ。


「どうだ、当たったのか?よく見えないが」


二上巡査の声に、はっと気がつくと世界が加速した。羆はぐらりとよろめくと、前のめりに倒れこんだ!


「胸に命中です。倒れたが木々の陰に入ってしまい視界が通らなくなりました。すぐに確認に向かわなければ」

「良し、行くぞ」

「はい」


短く礼を言い、二上巡査にライフルを返した。自らの散弾銃を背中に背負ってヒグマが倒れた場所に向かう。

柔らかな雪に足が取られぬよう気を払いながら、それでも一瞬でも早くあいつを視界に捉えられるように急いで歩を進めた。


色の無い起伏をいくつか乗り越えて、木々の邪魔な枝葉を除ける。

白い地面に不釣り合いな黒の塊。そこには、うつ伏せに倒れ伏したヒグマが居た。二メートルは優にある巨体で、半ば雪に埋もれるように倒れている。


「おお、タカ。仕留めているぞ!」


そう言って、二上二等巡査が駆け寄ろうとするのを手で制した。死んだ振りであるかも、罠であるかも知れない。


「ちょっと待って下さい、近づいてはいけない。それに今タカと呼びましたか?」

「呼んだよ。穂高(ほたか)のタカが、鷹の目のタカにかかってるのさ……なんて今はどうでも良い。なぜ止めるのか」


目線はそのまま。うつ伏せのヒグマの方を向いたまま、銃を構えて遠巻きに足の方へ回る。


「こいつ死んだフリをしておるかも」

「クマがか。人がクマにではなく、クマが人にか?逆では無いのか」

「念には念を入れて、ですよ。死んだ振りと言わずとも気を失っているだけ、という線も考えられる」


「なるほどな」と納得行ったのか、二上巡査も同じようにライフルを構えた。その瞬間!


グァァァァアアア!!


咆哮と共に、突如上体を起こしてヒグマがこちらを振り返った。大きな口を開けて牙を見せる。飛びかかろうとして後脚に力を込めるが、遅い!


「この鉄砲はおまえを殺すぞ」


ドドォン!!


銃声が二つ重なった。至近距離から放たれた銃弾は、その左目と、真っ赤な口の中にそれぞれ飛び込んだ。

銃口を飛び出した破壊の化身は肉を裂き、骨を砕き、あらゆるモノを瞬間的に巻き込んで首の後ろから背後に向かい突き抜ける。

ばっと赤い血が飛び散って、音を立ててヒグマは再び倒れた。今度は仰け反るように仰向けに。

だらしなく口から血を流している。

頭蓋の中を完全に破壊したのだ。これで生きていられる生き物はいない。


決着。

決着だ。


「やったか!やったな今度こそは!?」

「はい。仕留めました」


「良くやったな」と肩を叩いて喜ぶ二上二等巡査。

銃声を聞きつけたか、遠くから沢山の人が我々に呼びかける声がする。討伐班の面々だろう、合流したのだ。


銃口から出る白い煙が揺れている。

ふと気がつくと、今更になって手が震えていたのだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ヒグマを倒したあと、私なら叫んでしまいそうですが・・・ (クマを倒したことはないです^^; 対戦格闘ゲームで強敵に偶然勝てた時を思い出しました。興奮しますので…。) 手の震えだけなあたりが…
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