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第118話.『補給線についての説明回』

第118話.『補給線についての説明回』



補給補給といっても、具体的にどのように物資を運んでいるのだろうか。

作中の彼らの中には、この時代を生きてきた事で共通認識がある。しかし令和に生きる読者の皆様においては、イメージし難い部分もあるだろう。今回は物語から一つ離れて、物流について紹介したいと思う。

まずは輸送の手段であるが、一番効率が良いのが海路での輸送。船を使って運ぶのが段違いに良い。こちらに関しては別の機会に語る事にする。


陸路での輸送で一番効率が良いのが鉄道の利用である、つまり汽車で運ぶことだ。

この鉄道と電信が兵站の歴史を変えた。

鉄道輸送は物資を大量にかつ高速で運送する事ができ、そして電信の技術は、前線で必要なものを後方へ要求する事が可能である。この二つの技術革新によって、それまでの兵站の概念は打ち破られ大きく変わった。

ただし、汽車は当然線路が要るし安定した石炭(ねんりょう)の供給も不可欠だ。これらのインフラが無ければどうするのか。


主力となるのは人力と馬力。

人や馬の力で荷台を引いて運ぶ事になる。

一台の輜重車を一馬で牽引する場合は200kgから300kg。人が牽引する場合は100kg程度の積載重量となる。


そんなバカなと、「自分なら一トンのリヤカーも引っ張れる」とお思いになる力自慢の方もいらっしゃるかと思う。

しかし、物体を牽引する時に積載重量というのは、全く目安にしかならないとお考え頂きたい。抵抗の大きさが重要なのだ。

現在の技術で作られたゴム製のタイヤを使い、さらに十全に空気が入っている状態で舗装された道を引くのであれば、車の一台でも人力で牽引できるだろう。

では逆に、非舗装の路面。坂道もあるし、ぬかるんでいるかもしれない。そんな道を、木と鉄でできた輜重車で容易に走破できるだろうか。いや、足を取られて立ち往生するのが想像に難く無い。


何はともあれ輜重兵は、人馬の力でえっちらおっちら運んでいくのだが、ところで物資はどれくらい必要となるのだろうか。

四万名のルシヤ兵が満足に戦うには荷車は何台必要なのか、100台か、1000台か。さあ考えてみよう。


まずは糧秣。

一人の日本兵には一日に米が六合充当され、それに肉や魚や缶詰などのおかずが付く。

少なく見積もって一人の兵に必要な糧食を1kgとしよう。四万人なら40トンだ。馬車にして200台。

それが毎日必要である。戦う兵隊の食料だけでそれだけの物資が要る。つまり一日あたり40トンを届ける事が出来なければ、戦う以前に飢えて壊滅である。


前線から札幌の日本皇国軍拠点まで、おおよそ300kmとする。一日に30km行軍したとするならば片道十日。

十日間、往復で二十日。輜重兵が荷物を運び続けるのだが、馬でも人でも、運んでいる者にも飯が必要だ。そりゃそうだ、という話である。

当たり前なのだが距離が遠くなると、この事実が重くのしかかる。人が食うのが一日1kgとするならば、往復20日で必要な量は20kg。100kgの荷車の、なんと五分の一は自身の飯で消えてしまう計算だ。

馬の場合はもっと食う。一日15kg食うとするなら、二十日で300kg。まともな積載量では赤字じゃないか。じゃあ馬車は使わないかといえばそうもいかん。

例えば大砲や、その砲弾など。人間の力じゃとてもじゃないが動かせない、そういう大物を運ぶのにも必須である。

湯水のごとく撃ち放っている砲弾の弾だが、一発あたりの目方が重いものだと100kgから200kgのものもある。

機関銃も欲しいし、弾薬もいるだろう。医薬品もいるし日用品もいる。


そんなだから普通、現地で調達できるものは現地で調達する。集落に立ち寄って、食料や馬など買い上げる。もしくは武力を背景に無料で譲って頂くか。しかし、それが断たれたとすれば。

いよいよだ。あれも必要これも必要のオンパレード。荷車の数は加速度的に増えていき、それを運ぶ人員駄馬も増えていく。


馬車が一台なら点だが、無数に集まった点は線になる

点ではなく補給線。アリの行列のようにぞろぞろと拠点から前線を繋ぐ線となる。だが性質はアリの行列よりもっと深刻だ、血液の循環に近い。物流が滞れば、組織の末端から壊死していく。

だから止められない、流れ続ける必要がある。そしてそれは非常に脆弱な一本の線に過ぎないのだ。


説明の回を挟んで、次回から本編を進める予定です!

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― 新着の感想 ―
[良い点] いいね。補給を制する者は戦場を制する。 旧軍の補給軽視はひどいものだった。
[良い点] こうやって数字にすると分かりやすいですね。 「試される大地」でルシヤが試されることになるのか?
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