表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
110/238

第110話.取引

第110話.取引



「ふふふ。まぁ、そうだろうね」


不気味な笑い声を上げた後、芝植えは言った。


「本題は取引だ」

「取引?」


取引とは何だ。一介の陸軍中尉に対して何の取引ができるというのか。


「そうだ。穂高中尉、君の目が欲しい。目玉が欲しいんだ。眼球だよ」


言いながら身を乗り出して来た。私の眼帯をしていない右の目の、瞳の奥を覗きながら男はそう言ったのだ。

背筋に冷たいモノが流れた。目玉だと、何を言ってるのか、この男は。


「何も、今すぐくり抜こうって言うんじゃあない。君が死んだら、その両目を僕にくれ」

「何を言っている。馬鹿な」


いつも努めて冷静であれと心掛けている私だが、今回ばかりはぞっとした。戦場での死の恐怖とはまた違う、人間のおぞましさ、気持ち悪さを感じる。


「良く考えて返事をしてくれたまえよ。こちらからは破格の条件を提示するのだから」

「条件?」

「日本の国債(こくさい)を大清帝国が買おう。さらに一千万ポンド」


国債?突然のことで、頭が回る前に聞き返していた。


「何?」

「戦費調達に苦労しているだろうな。この世界では日本には信用も、金もない。なにせ日清戦争が無かったんだ、その意味はわかるだろうね」


戦争をするには費用がかかる、それも莫大な金がかかるのだ。あの明治の日露戦争では、じつに国家予算の八倍もの費用がかかった。

ではその金はどこから湧いて出てくるのか?


答えは借金だ。国が国債と言う債券を発行して、それを外国に買ってもらう。期限になったら額面通りの金額でお返ししますよ、また利息はいくらお支払いしますよ。そう言う約束で、国債を売る。

そうだ日本国は売りたいのだが、それを引き受ける国があるかどうかと言うのは別の話だ。

例えば日本から国債を買ったとして、ルシヤに日本が負けたらどうなるのだろう。本当に期日になったらお金を返して貰えるのか?取りっぱぐれは無いだろうと言う信用が無ければ、そんなものを買ってくれる国はないのである。

史実の日露戦争でも資金繰りは苦労したようだ。偉大な先人が、奇跡のような出会いもあり、ようやく国債を発行できたのであった。


ではこの明而の日本はどうか。

当然それには苦戦難航しているのは想像に難くない。金もなければ資源もない、ルシヤに勝つ見込みなんてない。そんな日本の国債を引き受けてやろうという者が、ゴロゴロいるとは思えないからだ。


「芝植え殿にそんな権限がおありですか」

「信用したまえ、僕はそれができる人間だ」


男は乗り出した身体を、戻しながら言った。


「本当はね、生きた両眼が欲しいんだ。それなら二千万ポンド買っても良い。でも君はそれは売らない。だからね、死んだ後。それを僕に譲ると一筆書いてくれ。それで僕は日本皇国の国債を、既に買っている分に上乗せして更に一千万ポンド、大清帝国で引き受ける事にする」


彼は人差し指を一本立てて、私の胸に置いた。


「死んだ後だよ。君は何も痛くも痒くもない。それで御国の資金繰りの手助けになるんだよ。こんな良い話は無いだろう」


こいつ何だ。

取引だと、しかし。荒唐無稽なこの話、一体どう考えれば良いものか。



①千万ポンドと引き換えに死後の両眼を譲る。

②二千万ポンドと引き換えに新鮮な目玉を譲る。

③怪しい男の話は受けちゃダメって言われてるんです。




良ければブクマ、評価などお願いします!

感想、レビューも歓迎です。なにとぞお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
[一言] なんとも不気味なのが現れたなあ。 しかしこうなると、現在の清国がどうなっているのか気になります。 北海道にまでルシヤが来ている状況だと、史実以上に満州にも浸透してても不思議はないが...
[一言] じゃぁ④の 識者と発覚した時点で『不期遭遇戦に巻き込まれて行方不明』とでっち上げて尋問、拷問、情報チュウチュウで! この世界の日本は情報戦や情報収集する機関は整備されてるのかしら?(ふと疑…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ