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ヨウカンは人生

 思い出話やら何やらに花を咲かせていると、注文していたヨウカンとヨモギダンゴが届けられた。茂木の緑茶が置かれた後、私の方には空の湯飲み茶碗が置かれ、急須から緑茶が注がれる。湯気の向こうからでも分かる何時もの濃さにニンマリし、急須が置かれると「ありがとう」と例を言う。接客係は軽く頭を下げて下がって行った。

「では、頂きます」

「いただくっす」

 各々両手を合わせ、私がとりあえず緑茶をひと口飲む間に、茂木はヨモギダンゴを食べた。

「うっわ。濃厚っすねこれ」

「せめて飲み込んでから話せ」

「はいっす」

 咸臨も苦笑する。茂木もそろそろ三十歳が見えて来ていると言うのに、どうして落ち着きが無いのだろうか。整備士達は「そこが良い」と言うのだが、良く分からない。それはきっと、私達が古い人間だということなのだろう。

「ヨモギダンゴってこんなにヨモギの味がするもんなんっすね。精々香り付けだと思ってたっすよ」

 口の中のものを飲み込むと早速感想を述べ始めた茂木に何だか誇らしくなり、「良いだろう?」と言うと「はいっす!」と返って来る。連れて来た甲斐があったというものだ。

「さて」

 緑茶を飲んで人心地着いた私は、ヨウカンを口にする。寒天で固められた部分に、アズキの粒があることで飽きない食感に、甘ったるいにも関わらず主張することを忘れないアズキの風味。『幸せ』を固めてみればこのようになるのだろう。

「相変わらずヨウカン好きだな」

 咸臨はそう言って薄めの緑茶を飲む。私はそれを無視してじっくりとヨウカンを味わい、口の中から無くなってしまってから答える。

「ヨウカンは人生だからな」

「……何言ってるかちょっと分からないっす」

 呆れ気味の茂木も気にならない。何せ、今の私は幸せなのだ。

「良いか? ヨウカンを作るのには、それはそれは労力がかかるんだ」

 何故か機雷にぶつかったような表情をする茂木に説明する。

「まずは、乾いているアズキを戻さねばならないが、この作業を焦ってしまえば良いアズキが出来ない。それから火を入れてアズキを一定の速度で練り続ける訳だが、段々とアズキが跳ね始めて手は火傷だらけになる。だが、途中で手を止めればアズキが焦げ付いてしまう。だから手を止められない。そこに砂糖を入れると、アズキは更に重くなり、更に跳ねるようになる。火傷を耐え抜いてあら熱を取れば、今度は寒天と混ぜる。この作業を丁寧にムラ無くしなければ、ヨウカンの舌触りは最悪のものとなる。それからやっと冷やすのだが、これも急いではいけない。均一に冷えなければ味が悪くなるからだ。そうした苦労の上に、ヨウカンは出来上がるのだ。人生そのものだとは思わないか?」

「た、多分?」

 理解出来ていない様子の茂木に、更に解説せねばと意気込むと、「そ、そう言えば」と咸臨がわざとらしく話を切ってきた。私は咸臨を睨み付けるも、続いた話が重要そうなものだったので止める。

「来週から実習に入る二十四期生だが、『甲種』にひとり、完全に『歩兵』なのがいるらしい」

「そ、それはおかしくないっすか?」

 咸臨の話に茂木が乗っかる。

「十一期生からは『甲種特種兵』は全員砲撃戦装備が基本っすよ? そうなるよう『調整』されてるっすし。カタナ主体な『歩兵』向きなのが出る、って、おかしくないっすか?」

 確かに、茂木の言う通りだ。現在の『甲種特種兵』は、基本的に砲撃戦装備を主体として扱うように『機関』や『身体』に『調整』が行われている。それは、『甲種特種兵』が『駆逐艦級』以上であることから来る必然だ。だというのに、『甲種特種兵』からカタナ主体で戦う『歩兵』が出るのは、おかしな話だった。

「何でも、開発中の『新型』に適性があるから、軍令部の方が焦ったらしい。で、未完成な『機関』を付けた結果、砲がマトモに『飛ばない』ようになったとか」

「うっわー。軍令部も馬鹿っすねー。そんなの確保だけしといて後から完成させたら良かったじゃないっすか」

「一度『機関』に合うよう『身体』を『調整』してしまえば、後から『調整』し直しは出来ないと言うに。相変わらず軍令部は馬鹿だな。咸臨(お前)は何もしなかったのか?」

 咸臨は「命令で海の上だったんだよ」と悔しそうにする。それで大体察した。今の軍令部の面々は、財閥の影響をかなり受けている。財閥と敵対している咸臨は疎まれているのだろう。だから、咸臨の派閥が力を持たないよう、軍令部が動いたのだ。

「そうか……」

 全く、相変わらず度しがたい連中だ。二三潰した程度で止めるんじゃなかった。

「で、その『歩兵候補』は今はどうしているんだ?」

 基を取り直して尋ねると、咸臨は困ったように答える。

「一応『乙種』扱いで教育はしたらしいが、その後俺に押し付けられた」

「……明らか失点狙いっすね、それ」

 茂木も呆れている。咸臨の『第一特種艦隊』は最前線で戦っている。そこに『乙種特種兵』の新兵が行ったところで、精々が肉盾になる位だろう。ここまで露骨に咸臨を潰そうとするとは。軍令部は、いや、財閥は余程戦争がしたいらしい。

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