明日の神話
私がこのお調子者の天使と契約を結んだのは、東京が4年ぶりの大雪で真っ白になった日のことだ。
渋谷駅に入場規制がかかって、人ごみに埋もれていたとき、岡本太郎の壁画の中から、小さな天使が現れて、
「へい彼女、お茶しない?」
と話しかけてきた。
私は、入場規制のかかった駅構内の人ごみに辟易としていたので、小さな天使に、
「いいよ。」
と返事をしてしまった。
それが、すべてのはじまりだった。
小さな天使は私の右手を引いて、岡本太郎の壁画の中に連れて行った。
「君、かわうぃーね!僕は、アルマエルっていうんだけど、アルちゃんって呼んでね!君の名前は?」
アルマエルは私にアールグレイティーを出してくれた。
「なぎさ。」
アールグレイティーを飲むと、おなかの中があたたかくなった。
「うひょー!キュートなネームだね!最高!!なぎさちゃんは今いくつなの?」
「15歳。」
「ふぅー!最高かよ!僕と契約してみない?」
そのちゃらい天使は、私にそうやって契約を持ちかけたのだ。
「契約って何?」
「今東京は大雪じゃん?これの原因って何だと思う?」
「つよい寒気が流れ込んでるんでしょ?」
「って言うよねぇ~!ホントの原因は違うんだよねぇ~!」
私は、アルマエルの言動にちょっといらっときた。
「じゃあ、何だって言うのよ!」
「原因は、こいつなんだよねぇ~!」
アルマエルは、背中に背負っていたリュックサックから丸い鏡を取り出した。
その鏡を覗き込むと、氷の悪魔が日本列島の上空を飛びまわっている様子が写っていた。
「なに?こいつ。」
「7級悪魔だよ。属性は氷。」
私には、そのときアルマエルの言ってることは理解できなかった。この氷の悪魔が原因で、東京が大雪になって、私は渋谷駅ですし詰めになっていたってことなのか。
「まじ?」
「まじ卍!僕たち天使は、人間界では直接悪魔と戦ってはいけないことになってんだよね!」
「それで、私に代わりに戦えって言うの?」
「なぎさちゃんあったま良い~!そういうこと!僕と契約したら、天使の力を貸してあげられるからさ!」
アルマエルはそういうと、リュックから金色に光る契約書を取り出した。
「ちょっと待って。契約したら、私に何かメリットはあるの?」
「メリットなんてありまくり~!僕と契約したら、悪魔と戦わなくちゃいけないけど、24時間365日天使の力を使い放題だよ~!」
そうして、私はすこし変わった天使と契約した。