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夢幻の果て  作者: 大田牛二
第五章 名将協奏曲

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狡兎三窟

 以前から斉は孟嘗君もうしょうくんあっての斉であると言われていた。


 そのことが斉の湣王びんおうとしては不満であったが、それでも孟嘗君の名声が手を出すことを躊躇させた。


 しかし、今回の宋討伐によって彼は自信をつけた。


 (以前から王気取りのあの男が気に入らなかった)


 よって孟嘗君を疎ましく思っていた湣王は彼を宰相から降ろした。更に彼は宋の大義名分を取るのと孟嘗君を出し抜くために依頼した盗跖とうせきに孟嘗君の暗殺を依頼した。


 だが、盗跖は怪我をしてしまったためにこれを断った。代わりに食客たちの買収や脅しを行うようにすることを進言した。


「孟嘗君の食客をあなた様のものとしてしまえば、孟嘗君を凌駕したと言っても良いのではありませんかな?」


 湣王は孟嘗君を始末するよりはその方が滑稽であろうと考え、これに従った。


「お前の持っているものを私のものにしてやる」


 その結果、孟嘗君の元にいた多くの食客たちは自分たちの生活のために孟嘗君から離れていき、残ったのは馮驩ふうかん一人であった。


「先生一人だけ残るとは思いませんでした」


 食客の中で最も信頼を寄せていた鶏鳴と狗盗は盗跖の居場所を探していないこと以外は残っているのは信頼を寄せていなかった馮驩が残っていることに孟嘗君は不思議に思えた。


「取り敢えず、薛でお休みしましょう」


 そう言って、馮驩は彼を馬車に乗せて自ら御者を務めて、薛に向かった。孟嘗君が来ると薛の民衆は誰もが彼を歓迎し、彼に様々なものを献上した。


「これは先生のおかげですね」


 孟嘗君はそう言った。以前の証文を焼き捨てたことである。


「主の御仁徳によるものです」


 馮驩はそう答えた後、こう言った。


「狡兎(すばしっこい兎)というものは逃げるための穴を3つ持っているものですが、孟嘗君には逃げる穴が領地であるここ薛一つしかございませんので、枕を高くして眠ることができないでしょう。孟嘗君のために私が穴をもう二つ掘ってまいりましょう」


 彼の言葉に孟嘗君は頷き、彼に馬車と金品を与えた。


「先生に全てをお任せする」


 馮驩は受け取った馬車に乗って、魏王に謁見し、孟嘗君を魏の宰相にすれば富国強兵に繋がることを進言した。


 魏王はこの進言を受け入れ、孟嘗君のために上席の地位を空け、孟嘗君の元に使者を送った。


「さあ次だ」


 続いて馮驩は湣王に謁見し、魏が孟嘗君を宰相にしようとしていることを伝えた。


「魏が……」


 湣王は半信半疑であったが、魏の使者が頻繁に孟嘗君のもとに出入りしていることを知った湣王は魏に孟嘗君が行くことを恐れ、彼に宰相に復職するよう詫びの使者を送った。


「宰相に戻れということだが」


 孟嘗君がそう言うと馮驩は直ぐに同意しないことを進言した。


「斉王は信頼できません。ここは宰相になる条件として、斉の宗廟を薛に建立する許可を王に得るように請うべきです」


 湣王はこの条件に魏に行かれるよりはという思いがあったため、許可を出した。


 その後、薛で宗廟が完成すると馮驩は、


「ようやく逃げる穴が三つになりました。君は枕を高くして眠ることになりましょう」


 と答えた。


 宗廟があるここに下手に手を出せば、宗廟を汚すことになる。そのため孟嘗君へ手出しもしづらくなったということである。


 宰相に戻るという話しが広まると食客たちが戻って来た


 孟嘗君は馮驩に言った。


「私は客を愛して礼を失することがないようにしてきたつもりであったが、一旦、宰相を罷免されてしまえば皆、私を棄てて去っていった。今回、先生の力のおかげで位に復することになったが、食客たちは何の面目があってまた私に会いに来ようと言うのか」


 この時の彼は人というものに失望した部分があった。いや正確に言えば、自分がやって来たことが何の意味もなかったのではないかという思いがどうしても出てしまい。純粋な気持ちで彼等と接することができないところがあったのかもしれない。


 これに馮驩は言った。


「栄辱盛衰は物の常理というもの。あなた様も大都の市を見たことがありましょう。朝は肩を斜めにしながら争って門に入ろうとするものですが、日が暮れれば、誰もいなくなるものです。これは求める物がなくなったからです。富貴になれば多くの士が集まり、貧賎になれば交わりが少なくなるのは、世情の常というもの。不思議に思うことはありません」


 そういうものだから気にすることはない。彼は孟嘗君を自分なりに励ました。


「そうだな」


 孟嘗君は再拝して、


「謹んで命(言葉)を聞こう」


 と言い、以前のように食客たちを遇した。


「このまま宰相になったところでまた、斉王は私を処罰することになるだろう」


 戻ってきた鶏鳴、狗盗そして、馮驩に言った。


「そこで私は魏へ逃れようと思うがどうだろうか?」


「直ぐにではなく宰相に一旦なってから魏の動向を見て、宰相を辞するという形で行きましょう」


 馮驩の進言に孟嘗君は頷くと宰相に戻った。


「そう言えば、そっちはどうであったか鶏鳴、狗盗」


 二人は盗跖の居場所を探していた。


「根城はまだ見つかっていません」


「ですが、大方の範囲は絞り込みましたので、近いうちに潰すことはできなくはないでしょう」


 二人の言葉に孟嘗君は頷く。


「あの者は危険な気がするのだ」


 孟嘗君の言葉に二人は頷いた。


 その後、秦の司馬錯しばさくが魏の河内(秦の河東)を攻撃し、魏は安邑(魏の旧都)を秦に譲って和を請い、秦は奪った魏人を帰国させた。


「今なら魏は困難にありますので、受け入れがしやすいでしょう」


 孟嘗君は馮驩の進言を持って、宰相を辞職し、魏へ逃れた。


 そこで彼はある人物と出会う。


「やあ、久しいことだ」


 孟嘗君は手を挙げ、その人物に言った。


「調子はどうだ。楽毅がくき殿」


 数年ぶりの孟嘗君と楽毅の再会であり、運命が動き出そうとしていた。

















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