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夢幻の果て  作者: 大田牛二
第三章 合従連衡

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五国相王

 公孫衍は秦に仕えて大良造に任命されるほどの信任を秦の恵文王けいぶんおうから受けたがその信任は長く続くことはなかった。


 張儀ちょうぎが彼の代わりに信任を受けたためである。しかもこの男は公孫衍を裏で利用して、彼を踏み台にして信任されたのである。


 深い憎しみを持った公孫衍は張儀が秦を離れた隙に動いた。

 

 公孫衍は秦に対抗するため魏に入った。そして、東方諸国の連合(合従)を謀った。かつて蘇秦そしんが行ったものである。ここで彼はこの合従を成立させるため各国が同等の地位に立つ必要があると考えた。


 そこで公孫衍は東方五国に王を名乗らせることにした。これを歴史上「五国相王」という。この五国とは魏・趙・韓・燕・中山のことである。


 このうちの魏は既に王を名乗っていることを抜かせば、各国は王を名乗った。

 

 そんな中、趙の武霊王ぶれいおうだけは王を称すことなく、


「実がないにも関わらず、虚名を名乗ることはできない」


 と言って、国人には、自分を「君」と呼ばせた。だが、彼の地位は王と同等のものとなった。


 最後に中山国が最後に王位を認められた。しかしながらこれには疑問に感じるものもいるだろう。何故、斉と楚を合従に入れなかったである。その二カ国こそが強国の名を持つ国であるはずだからである。


 それは張儀主導による秦、楚、斉による会盟が行われたためである。


 そのために中山のような小国まで加えた。また、斉には蘇秦がいる彼とは公孫衍は仲が悪い。そのため彼が斉にいる以上、斉を合従に加えたくはなかった。

 

 だが、中山の王を名乗ったという知らせは斉の宣王せんおうを激怒させた。中山とは同盟関係であるにも関わらず、何も知らせずに勝手に王を名乗ったのである。


 宣王は斉の国中の関門を閉じて中山と燕の交通を遮断し、使者の往来を禁止した。そのうえでこう言った。


「我々は万乗の国であり、中山は千乗の国である。なぜ我が国と同等の名を持とうとするのか」

 

 斉は平邑を割いて燕と趙に贈り、中山を攻撃させようとした。

 

 これを聞いた中山の宰相・藍諸君・司馬喜しばきが憂いると、張登ちょうとうという男が進み出て言った。


「宰相は斉の何を憂いているのでしょうか?」

 

「斉は万乗の強国であるため、中山と同列になることを恥とし、土地を惜しむことなく燕・趙に贈って中山を攻めようとしている。燕も趙も王位を欲しており、しかも領地を貪りたいと思っておるであろうから、我が国を援けないのではないかと憂いているのだ。禍が大きければ国を危うくし、禍が小さくても王位を廃さなければならない。これを憂いないわけにはいかない」

 

 張登が言った。


「燕と趙に中山を助けさせ、しかも王位を定めることができれば、事態は解決します。宰相はそれを望みましょうか?」

 

「それは私が望むことだ」

 

「ならば、宰相は斉王になったつもりで私に試させてください。問題がないようなら実行しましょう」

 

 そうかと頷くと司馬喜は一度、咳き込むと言った。


「汝の話を聞いてみたい」

 

 張登が策を語り始めた。


「まず、『王が土地を惜しまず燕と趙に譲り、中山を攻撃させようとされているのは、中山の王位を廃すためでしょう』と言えば、王は『そうだ』と答えます。そこでこう言います。『しかしそれでは、王は浪費を招くだけでなく、危険も招きます。領地を削り、燕や趙に与えれば、敵国を強くしてしまいます。兵を出して中山を攻めたら、王が最初に難(戦禍)を起こしたことになります。王がこの二者を行えば、中山を求めても得られるとは限りません。しかしもし王が私の道(計)を行うというのならば、領地を削ることなく、兵を用いることもなく、中山に王位を廃させることができます』これを聞いた王は必ずこう言うでしょう。『あなたの道とはどのようなものだ?』と」

 

 司馬喜も、


「あなたの道とはどのようなものだ?」


 と問うた。

 

 張登が続けた。


「私は斉王にこう言います。『王は再び使者を送り、中山の君にこう伝えてください。「私が関所を閉鎖して使者の往来を禁止したのは、中山が勝手に燕・趙だけと王位を認め合い、私に知らせなかったからである。中山君がもしも足を動かして私に会いに来るようならば、私は中山君を援けよう」中山は燕と趙が自分を援けないのではないかと心配しているため、斉が援けると聞けば必ず燕・趙に隠れて斉王に会いに来ます。燕と趙がそれを知れば必ず怒って中山との関係を断つことになりましょう。その時を見計らって王も中山との関係を断てば、中山は孤立します。孤立した中山は王位を廃すしかありません』これを斉王に話せば、斉王はきっと従うことでしょう」

 

 司馬喜は難しい表情を浮かべた。


「斉王は必ず従うだろう。しかしこれは中山の王位を廃す計だ。どうして王位を定めることができるのか?」

 

 張登は首を振った。


「これが王位を定める計になるのです。斉は私が言ったことを我が国に告げに来ます。そこでその内容を燕・趙に伝えれば、二国は斉の裏切りに怒って斉との往来を断つことでしょう。その間に我が国は燕・趙との関係を厚くします。斉の動きを見た燕・趙はこう言うでしょう。『斉が平邑を我々に譲ろうとしたのは、中山の王位を廃すためではなく、我々と中山の関係を割いて斉だけが中山と親しくするためである』こうなれば、斉が百の平邑を譲ろうとしても燕と趙は受け取らないはずです」

 

 司馬喜は、


「善し」


 と言って同意し、張登を斉に派遣した。

 

 斉は張登が語った通り、中山に使者を送って王位を認めることを伝えた。中山がそれを燕と趙に伝えたため、燕と趙は斉との関係を絶って中山を助け、王位に即かせた。


 宣王は利用されたことに激怒したが、斉の宰相・田嬰でんえいがなだめたために何とか宣王の機嫌は治ったが、それでも斉と中山の間は難しい状況となってしまった。


 一方、その頃、魏では……


「いやあ~楽しそうなことをしてますなあ」


 魏の群臣たちは目を伏せるだけである。


 魏にいるはずの公孫衍は中山が斉と問題を起こしたと聞き、中山の元に事情を聞きに行っておりいなかった。


「仲間はずれはよくありませんなあ。まあ、良いですけどね。私は」


 けらけらと彼は笑う。


「さて、一つ頼みたいことがあるのですが……よろしいかな?」


 張儀はにやりと笑った。







 


 

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