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夢幻の果て  作者: 大田牛二
第三章 合従連衡

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謀略劇場

 紀元前324年


 秦の張儀ちょうぎが兵を率いて魏を攻撃し、陜を取った。

 

 魏が弱すぎるのか弁士にも関わらず、張儀に軍才があるのかはわからない。

 

 一方その頃、蘇秦そしんが燕の文公ぶんこうの夫人と姦通した。燕の易王えきおうがそれを知ったため、恐れた蘇秦は易王にこう言った。


「私が燕にいても燕を強くすることができません。しかし斉にいれば燕を強くすることができます」

 

 易王は蘇秦が去ることに同意した。外聞の悪い男を置き続けたくはなかったのだ。

 

 蘇秦は燕で罪を得たふりをして斉に奔った。


 仮にも六国の合従を成し遂げ、臨時の宰相にまでなった男がこの様である。

 

 蘇秦が来たことを知った田嬰は彼を入れることを反対したが、斉の宣王せんおうは聞き入れれないどころか蘇秦を信用して客卿にしてしまった。

 

 蘇秦は信頼を受けると宣王に宮室や苑囿を拡大して斉の地位と威信を明らかにするよう進言した。斉の国力を削って燕に報いるためのものである。


 田嬰はそれを理解しており、反対したが、宣王はここでも聞き入れることはなかった。


「良いのか?」


 秦の恵文王けいぶんおうは張儀にそう訪ねた。


 彼は蘇秦が斉にいることに警戒心を抱いている。かつてのような六国合従がやられては困るからである。


「大丈夫です」


 しかしながら張儀は何の心配もいらないと言った。


「彼は斉にいるべきだ」


 彼は意味深なことを言った。


 紀元前323年

 

 楚が柱国・昭陽に魏を攻撃させた。楚軍は襄陵で魏軍を破り、八城を奪った。

 

 この時、魏は韓に援軍を求めていたのだが、襄陵の戦いが始まると、畢長という者が韓の公叔に言った。


「韓は楚も魏も助けるべきではありません。兵を用いることなく、楚と魏に韓を徳とさせることができます(楚と魏に韓を感謝させることができます)。楚は公子・高を魏の太子に立てようと思って魏に兵を臨ませました。あなた様は人を送って楚の昭陽にこう伝えてください。『戦っても勝てるとは限りません。韓が子あなたのために兵を起こして魏を攻めることをお許しください』と、その後、理由を見つけて実際には兵を出さなければ、魏の太子、昭揚、魏王ともあなたの徳を想うようになるでしょう」

 

 彼の言葉のように魏では後継者争いが起きており、それに乗じて楚が侵攻したのである。

 

 魏の八城を奪った楚は勝ちに乗じて斉に兵を向けようとした。それを知った宣王が憂いを抱き始めた時、陳軫(縦横家)が秦の使者として斉に来た。

 

 宣王が彼に、


「どうすればいいだろう?」


 と問うと、陳軫は、


「王が憂いることはございません。私に楚兵を退かさせてください」


 と答え、すぐに昭陽の陣に赴いた。

 

 陳軫が昭陽に問うた。


「楚の法をお教えください。敵軍を破り、敵将を殺せば、どのような尊貴を得ることができましょうか?」

 

「その官は上柱国となり、上爵である執珪(楚の爵名)に封じられることになる」

 

 陳軫が更に問うた。


「それよりも尊貴な地位はありますか?」

 

「令尹である」

 

 すると陳軫はこう言った。


「今のあなた様は既に令尹の地位におられます。これは国冠(国の最高位。冠は最高位の意味)よりも上の地位です。私に例え話をさせてください。ある人が自分の舍人に一巵(酒器)の酒を贈りました。舍人達はこう言いました。『数人でこれを飲むには量が少ない。地面に蛇の絵を描いて、最初に完成した者が一人で飲むというのはどうだろうか?』舎人達が蛇を描き始めると、早速一人が言った。『私の蛇が最初に完成した』その男は酒を持って立ち上がり、『私は足を描くこともできる』と言って蛇に足を付け加えた。すると後から描き終えた者が酒を奪って飲み干してこう言いました。『蛇には本来足はありません。それにも関わらず、足をつけたのですから、あなたが描いたのは蛇ではないでしょう』と、今回、あなた様は楚の相として魏を攻撃し、敵軍を破って敵将を殺されました。これ以上の功績はないと思いませんか。しかし冠(最高位)の上には、これ以上官を加えることができません。今また兵を移して斉を攻撃しようとされていますが、斉に勝っても官爵が変わることはなく、逆にもしも負ければ、その身は死んで爵位も奪われ、楚も損なわれます。これは蛇に足をつけるようなものと言えましょう。兵を退いて斉に徳(恩恵)を与えることこそ、安全を保つ術となります」

 

 昭陽は納得して兵を還した。


 宣王はこの結果を聞き、陳軫を褒めたすると彼はこう言った。


「いえいえ、これも張儀様が友人でございます蘇秦様のおられる斉をご心配になり、私を派遣されたのです。張儀様と蘇秦様の友情は国を越えていると言えましょう」


「蘇秦殿と張儀殿は友人であったのか」


 宣王が蘇秦にそう言うと蘇秦は、


「同門の出でございましたので、友人でございました」


 と答えた。


 彼は自分の六くに合従を打ち砕いのが張儀であることを知らない。


「そうであったか。張儀殿は友人思いの方よ」


「ええ、あと張儀様はこの度、楚と斉が矛を交えられなかったことに安堵されており、願わくば、秦、楚、斉で良き関係を築きたいと思っております。そこで三カ国の宰相による会盟を行いたいのですが如何でしょうか?」


「それは誠に嬉しい申し入れである。受けよう」


 宣王は喜び、田嬰を派遣することにした。田嬰は謹んで受け入れたが、


(一体、何が狙いであろうか?)


 と、張儀の狙いがわからないまま、秦の宰相・張儀と斉の宰相・田嬰、楚の令尹・昭陽が齧桑(位置は翟地、晋地、衛地等、諸説あり)で会した。


 この会盟は特に何も問題も起きず、進み終わった。


「考えすぎであっただろうか……」


 秦の動きに疑問を持ちながら田嬰は帰国した。


 一方、張儀は、


「そうか公孫衍が魏に向かったか」


 暗い笑みを浮かべながら報告を聞いた。



 

 


 

 

 



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