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夢幻の果て  作者: 大田牛二
第二章 諸子百家鳴動
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国宝

 髪の長い男が一人歩いていた。荘周そうしゅうである。彼は老人からしばらく道教の奥義を教わっていたが、度々抜け出して各地をふらふらとうろついていた。


 そんな時、奇妙な青年を見た。その青年は草むらで座り込み目を輝かしていた。


(何をそこまで……)


 興味を覚えた荘周はそっと木の影から見ていると、青年の前を兎がやって来た。その瞬間、兎の足に縄が巻かれ、そのまま上に上がって兎が中ぶらりになると縄で矢を放つ機械が動き出し、矢を発射すると兎に刺さって、絶命した。


(なんとまあ、兎相手にしては手のかかる仕掛けだな)


 荘周はそう思いながらも青年の奇妙な点を見た。あれほど目を輝かしていた青年の目が、興味を無くしたかのような目をしているのである。


 少なくとも矢が刺さった瞬間までは、目を輝かしていた。


 青年は中ぶらりの死んだ兎の縄を解くとそのまま兎の死体を投げ捨てて、仕掛けを回収するとどこかへと移動し始めた。


「兎を取りたいわけではなかったのか……」


 ますます奇妙なことだと思いながら荘周は彼の後をつけた。


 再び、青年は罠を仕掛けて、再び罠にかかる獲物が来るのを待った。次に来たのは小鳥であった。それが地面に着地すると罠が動き出し、先ほどの兎のような状況になった。


(あの男……罠にかかった生き物の死ぬ瞬間を見たいのか……)


 荘周は青年の狂気を見た。彼は自分の作った罠に生き物がかかること、その罠で生き物が死ぬ瞬間に一番、目を輝かしている。そして、死んでしまえば、圧倒言う間に興味を失ってしまう。


「こんなやつも世の中にいるんだな……」


 彼はそう呟くとその場を去った。


 後にこの青年のことを孫臏そんぴんと呼ばれる人物であることを知るのは、少し先のことである。


 孫臏は罠を片付けながら呟いた。


「軍人になりたいなあ」


 そうすればたくさんの死の瞬間を見れる。彼はそう思った。









 紀元前357年

 

 魏と韓が鄗(趙地)で会した。趙の仲介によるもので、これで良いとほっとした趙側であったが、宋が韓の黄池を取ると、魏が合わせるように韓の朱を取った。

 

 あまりにも自分勝手な魏であるが、その強さは本物であるため、魯の共公きょうこう、宋の桓公かんこう、衛の成公せいこう、韓の昭公しょうこうが魏に来朝した。

 

 趙の成公はこれに対して、自ら斉に入った。これによって斉とのつながりを見せたことになる。

 

 一方、楚の右尹・黒が秦女を迎えに行き、楚と秦で婚姻がなった。


 紀元前356年

 

 趙と燕が阿(地名)で会した。

 

 続いて趙は斉、宋とも平陸で会した。

 

 昨年から趙は魏に対しての不信感を持っているため、斉とのつながりを結びつけることで外交で魏へ対抗を図ったと思われる。


 一方、魏は将・龍賈を派遣して陽池に城を築き、秦に備えるようにし、韓も同じ理由で、亥谷以南に長城を築いた。


 紀元前355年

 

 斉の威王いおうと魏の恵王が郊野で会って狩りをした。


 この年まで天下は魏を中心にした勢力、斉を中心にした勢力、秦楚の勢力という形であったが、この年、斉と魏が突然、急接近したことになる。


 魏は趙が外交戦略で自分たちに対抗しようとしているのを見て、斉の介入を恐れたのだろう。さて、このような魏の思惑がわからないほど威王は鈍いとは思えないがそれでも魏の狩りの誘いに乗った。


 実は斉は燕を攻めたいと考えていた。しかし、趙が燕と手を結んだため、手を出せなくなっていたのである。そこで魏に近づく気になったのだろう。


 恵王は狩りの途中で、


「斉にも宝がありますか?」


 と威王に問うと、威王は、


「ありません」


 と答えた。恵王は笑って言った。


「私の国は小さいものですが、それでも前後十二乗の車を照らすほどの直径一寸の珠が十枚もございます。斉は千乗の車を擁す大国にも関わらず、宝がないはずがないでしょう」


 謙遜することは無いと自分を小国の主と言いながらも上から目線である。

 

 威王はこう答えた。


「私が宝としているおりますものはあなたとは異なっております。私には檀子(斉の公族で瑕丘の檀城を食邑とする者が地名の檀を氏にした。「子」は大夫の美称)という臣下がおり、彼に南城(斉の南境の城)を守らせているため、楚人は敢えて侵さず、泗上十二諸侯(邾、莒、宋、魯等)が我が国に来朝しています。私には盼子(田肦)という臣下がおり、彼に高唐を守らせているため、趙人が敢えて河(黄河)の東岸で漁をしなくなりました。私の官吏に黔夫(黔が姓氏)という臣下がおり、彼に徐州を守らせていますので、燕人が北門を祭り、趙人が西門を祭るようになりました(両国は斉を恐れているために、福を求め、斉の北門と西門を祭った)。また、彼に従って投じた者は七千余家に上ります。私には種首という臣下がおり、彼に盗賊の備えをさせていますので、道で落ちている物を拾って着服するような民がいなくなりました。この四臣は千里を照らすこともできます。十二乗の車を特異とすることはありません」


 宝石のような宝ではなく、このような人材を宝としている威王の言葉に恵王は自分の発言を後悔して恥じ入った。飽くまでも恥じ入っただけである。





 



 

 

 




 

 


 


 

 



 孫臏って良いやつのイメージがあるというか。そういう描写しか見たことがないような気がするので、黒い孫臏(?)を書こうと思った次第です。



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