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夢幻の果て  作者: 大田牛二
最終章 天下統一

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暗闘

大変遅れました。

 王宮は静かだった。それはそれは静かであった。


「隊長はいないのか」


 そんな静かな王宮で小さな騒ぎが起きた。


 王宮を守備する部隊の隊長が決まりの時間になってもいないのである。


「寝ているのでしょうか?」


「あの真面目な人がか?」


 部下たちが隊長の部屋に出向き、扉が開いていたため中に入るとそこには首が転がる隊長の遺体が転がっていた。


「賊が王宮に入ったかもしれん」


 一人の男が慌てて王宮に駆け出した。











「王はまだ起きないのでしょうか?」


 いつもならば秦王・せいが起きている頃でとっくに寝室を出ているはずである。そう思ったせんは寝室の前で立っている衛兵に寝室に入りたいと述べた。


「まだ王は寝ておられます。ですので立ち入ることはなりません」


「しかし」


「駄目です」


 旃は衛兵を睨みつけるが諦めたように背を向ける。そのまま自分の部屋に戻ろうとすると言った。


「ねぇ知ってた。いつもそこに立っている衛兵さんは足を揺する癖があるんだ」


 そう言った瞬間、裏拳を衛兵の顔に叩き込み、その勢いで倒れた瞬間に衛兵の腰の剣を抜きそのまま彼の喉を刺し貫いた。


「観察が足りないよ」


 そう言うと彼は衛兵に化けていた男の懐を探る。


「あった。やはり……」


 彼の手にとったのは盗と書かれた石があった。


盗跖とうせき一派)


「政様」


 旃は政の寝室に向かって駆け出した。












 意識が朦朧とするのを感じる。


 政は昨日、床についてからいつもよりも深い眠りについていた。


 それから中々目覚めずにいたが、元々朝早くに起きる政は強烈な睡魔に襲われながらも起き上がった。


(なぜ、これほどに目眩がするのか……)


「おや、置きましたぜお頭」


 知らない声が聞こえた。


「そうねぇ驚いたわあ」


(どっかで見たことがある女……)


 自分の部屋に明らかに可笑しい存在がいるにも関わらず、政はそのことを考えられていなかった。


「まあ良いわ。薬は効いているのだから。さあ仕事と行きましょう」


 連中が剣を取り出した。その瞬間、扉が勢い良く開けられた。


「政様」


 旃が飛び込んできて、剣で一人を斬り殺す。


「あらあ、お久しぶりねぇ、旃」


「あなた自ら出てこられるとはね」


 旃は冷や汗をかきはじめる。まさか盗跖自らやって来ているとは思っていなかった。


(拙い非常に……)


 それでも、


「政様に指一本触れさせはしない」


 旃は剣を盗跖に向かって投げつけた。


 盗跖の部下たちがそれを防ぐ。その隙に旃は政に近づき、彼を担ぎ上げるとそのまま跳躍し、盗跖の部下の顔を蹴り上げ顔を覆うように倒れこむとそれを足場にして入口に向かって跳躍して寝室からの脱出した。


 しかしそのままの逃走を許すような盗跖ではない。


「さっさと追いかけなさい」


 部下たちに追いかけさせる。













「政様、政様」


「あっああ」


(意識が朦朧としている。それでも意識があるのは政様の意思の力によるものだ)


 盗跖一派がよく使う薬を用いられても意識があるの驚くべきことである。


「それにしても宮中の兵が全然いない」


 流石に盗跖と言えども宮中の兵を皆殺しにすることはできない。効率よく殺し、効率よく仕事をする。それが盗跖一派のやり方である。


「だから宮中の見取り図は把握している」


 前方から盗跖の部下たちが現れたことから旃は道を変える。しかし、彼の選んだ道はすぐに回り込まれる。


「強行突破しかないね」


 旃は剣を突き出し、目の前の男たちの喉を貫き殺していく。


 そうやって進もうとするが、男たちは彼を抑えようとする中、盗跖が足で旃の腹に蹴りを叩き込む。その衝撃で旃と抱き抱えられていた政は壁に叩きつけられる。旃は政に駆け寄ろうとするがそれを遮るように彼の顎に盗跖が蹴りを食らわした。


「あははは、まあ無様なこと」


 盗跖は笑いながら剣を突く。それを旃は防ぐ。それを何度も繰り返していくが、段々と政と旃の間はどんどん距離が離されていく。


「あなたは剣も見ただけで模倣できたわねぇ。でも、その剣は私を超えることはなかったわね」


「くっ」


 旃は盗跖の剣を防ぐのに手一杯であった。


 その結果、盗跖の部下たちが政に近づく。


「政様」


 旃が叫んだ。












「来るな」


 政は朦朧とする意識の中、はっきりと言葉を吐く。しかし、男たちが剣を持って近づいていく。


(ここで死ぬのか。一体誰の手の者なのか……王位を狙う呂不韋りょふいか。それとも弟どもか)


 誰であろうともこの国難の時にやるとはよほど王位が欲しいらしい。もしかすれば合従軍の連中だろうか?


(秦という強い国の玉座に誰が座ろうとも変わらぬ。私が王でなくとも秦の優位は揺らぐことはない)


 誰が王になろうともそう。私でなくとも関係ないのだ。


(王とは本当に必要なものなのか)


 絶大なる権力と言ってもそれを行使できるのは国の中だけのことで、こんな連中に止まれと言っても止めることさえできない。


 王などという地位は本当に意味のあるものなのか。


(ならばここで死のうとも暗殺で死んだ王という名が残るだけだ)


 剣が迫る中、そう思う政の前に影が現れ、迫り来る剣をなぎ払った。


 影は剣を構える。


「我が名は李信りしん。王の御身を守るため参上致した」



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