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夢幻の果て  作者: 大田牛二
最終章 天下統一

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158/186

前哨戦

大変遅くなりました。

 項燕こうえんの率いる騎兵隊は楚の精兵中の精兵によって構成されており、楚の数少ない良馬が与えられている。


 そのため彼の軍は楚において屈指の速さを誇った。


 楚軍の本隊を率いる総大将・春申君しゅんしんくんに命じられ、項燕は先行して、寿陵にたどり着いた。その時、麃公ひょうこうの軍がいたのは偶然であった。そのため項燕は大いに驚いたが、


(ちょうど休憩を取ろうとしている)


 正に油断している状態である。そのため項燕は独断で麃公の軍へ襲いかかることにした。


 麃公は項燕の軍の出現はあまりにも予想外の出来事であり、彼の軍はまともに準備を行うことができなかったために麃公は直接、ふた振りの矛を振るい、項燕と相対することとなった。


 副将の王賁おうほんは麃公とは離れたところにいた。取り敢えず彼は麃公を守るために兵を向かわせた。


「他に楚軍がいないとは限らない」


 そう考えたためである。はっきり言ってこの時の彼には焦りがあった。まさかの場所で奇襲を受けたためである。同時に彼の経験不足も祟ったと言って良いだろう。そもそもここまで先行してきた項燕が異常であり、楚にいる馬の数が少ないことを考えることができていなかった。そのため彼は周囲の警戒も行い、直接は麃公の援護を赴かず、援護のための兵の数も少なかった。


 精兵というべき項燕の軍にほぼ独力で対抗しなければならなくなった麃公は不利であったというべきであろう。


 そんな中、麃公は奮闘し項燕と矛を打ち合った。


「強者であるな。秦の将軍であることがもったいないことだ」


「はっくだらないことを言いやがるな」


 麃公は矛を振るう。


「どこで生まれようとも武人ならば、その力の限りを尽くすだけであろう」


「そのとおりだ。だが」


 項燕の矛が振るわれ、空気が震える。


「だからこそ、ここで死んでもらおう」


「小僧が」


 二人の矛がぶつかりあい、麃公の一方の矛が飛んだ。その隙に項燕は腰に差していた剣を片手で抜き、彼の首を斬ろうとする。それをもう一方の矛で防ぐ。その瞬間、項燕は矛を麃公の首元へ突き出しそのまま彼の首を刺し貫いた。


「小僧……いや項燕。最後の相手がお前で……良かった」


「あなたほどの方と戦えたことこそお礼を申すべきであろう」


 項燕は目を細め、倒れゆく麃公にそう言った。














 場面は変わって、趙への奇襲を行うために動いていたきゅうと副将の楊端和ようたんわは予定通りに趙への奇襲地点に到達した。


 そのため奇襲を行うとした瞬間、彼らの元に豪雨の如く降り注いだ。あまりにも運悪く摎はその矢を眉間で受けてしまい即死してしまった。


「流石は李牧りぼく殿。あなたの言っていた時に秦軍どもが奇襲を仕掛けようとしていました」


 慶舍の言葉に李牧は頷く。


「秦軍が合従軍の中で警戒するのは私たち趙と楚であることはわかっていましたからそのための行動を予測しただけです」


 李牧は指示を出す。


「残った秦軍を存分に叩いてください」


「はっ」


「さて、俺も行くか」


 慶舍、司馬尚しばしょうはそれぞれ兵を率いて秦軍を叩きに行った。


(さて、ここまでは予想通りですが、どうでしょうか)


 李牧は秦軍の方角を見た。













 二人の伝令が蒙驁の陣営に駆け込んできた。


「報告します。摎将軍が戦死しました」


「報告します。麃公将軍が戦死しました」


 その報告を聞いた瞬間、蒙驁は手に持っていた杯を地面に叩きつけた。


「まさか、二人が……」


(ありゃりゃ策が失敗したか)


 尉繚うつりょうは傍でその報告と目の前の状況を見て思った。


「両将軍が戦死したことはわかった。現在の状況など詳しい情報をくれ、ついでに文章の記録もあれば出してくれ」


「尉繚よ。あなたの策に従った結果、両将軍は死んだのだぞ」


 蒙武もうぶがそう指摘したが、尉繚は気にせず、話しを進める。


「おい、自分の策で失敗したのだぞ」


「自分、過去は振り替えない性格ですので」


 尉繚はそう返答した。


「ただいま楚軍の奇襲を受け、麃公将軍が戦死された後、副将の王賁おうほん将軍は必死に軍を立て直そうとしておりましたが、項燕の騎兵隊によってかく乱されております」


(項燕を相手に真面目っ子の王賁だときついかな)


「なぜ、総大将である麃公が戦死することになったのかわかるか?」


「副将である王賁将軍は麃公将軍と離れており、奇襲を受けたことから他の楚軍からの襲撃を警戒していました」


(なるほど、最初の奇襲は麃公将軍のいるところへ行われたが、王賁は他のところからの奇襲を恐れて兵の動かし方を間違えたか)


「摎将軍の方は?」


「摎将軍は指示通りの地点で奇襲を行おうとした時、趙軍からの弓による矢の雨あられをくらってしまい。その中で摎将軍は眉間に矢を受け戦死されました」


(こっちは完全にこちらの策を見抜かれていたか)


「副将の楊端和将軍は?」


「楊端和将軍はたくさんの矢を受けましたが、二重、三重に着込んでいた鎧と兜のおかげで体までは矢が刺さらずに済みました。その後、残った兵をまとめて趙軍の攻撃を受けながら後退しています」


(寒がりが功を奏したって感じかな)


 尉繚は顎を手で撫でる。そして、少しして言った。


「今、両軍に近いのはどこの将軍が率いているところですかな?」


 張唐ちょうとうが答えた。


「確か桓騎かんきの軍が一番近いのではないか?」


「なるほど、確か副将は羌瘣きょうかい……」


 尉繚は両手の人差し指を立てて言った。


「では、桓騎将軍の軍を二つに分けて、桓騎将軍は王賁の救援に向かい、彼らの兵を支配下にして楚軍への時間稼ぎを。そして、楊端和将軍を大将へ昇格させ、羌瘣将軍は彼の副将として楊端和将軍を補佐させるように。知らせてくれ」


「はっ」


 伝令が走った。


「さて、次ですが当初の予定と変えて寿陵での決戦ではなく函谷関で韓、魏、燕と向かい打ちましょう」


「どうしてだ?」


 蒙驁が問いかける。


「今回の二つの軍がそれぞれ戦った結果、野戦での戦いは厳しいと判断できるとい考えました。そこで韓、魏、燕を函谷関で戦い、趙、楚が来ても対抗できるようにします」


「さて、次も成功するだろうか?」


 蒙武が皮肉を込めて言った。


「父上、尉繚様の策はまだ進んでおりますよ」


 蒙恬もうてんはそう言った。


「この策は楚、趙への奇襲による時間稼ぎからやり方が変わっただけです。戦う場所もね」


 臨機応変に策のあり方を変えて相手を翻弄するそれが尉繚の才覚である。


「そう。まだ我々は負けたわけではありません」


 尉繚は蒙驁の方を向く。


「両将軍の死は悲しいことですが彼らの死を無駄にしないためにも勝ちましょう」


「そうだな」


 蒙驁は諸将を見回す。


「函谷関で合従軍と相対することにする」


 諸将は拝礼を持って命令に答えた。





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