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夢幻の果て  作者: 大田牛二
最終章 天下統一
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蒙驁

 紀元前249年


 秦の荘襄王そうじょうおうが正式に即位した。


 荘襄王も孝文王こうぶんおうと同じように善政に勉め、罪人を大赦し、先王の功臣を重用して厚徳を骨肉(親族)に施して民に恩恵を与えた。


 そして、呂不韋りょふいを相国にした。荘襄王を孝文王の後継者にするために尽力した功績を讃えたものである。


 相国になった呂不韋が早速取り掛かったのは東周攻略である。


 攻める口実は東周君と諸侯が秦討伐を謀ったためとしている。


 それにより、秦は東周へ侵攻、東周は敗れて滅亡し、東周君は陽人聚(地名)に遷された。


 東周の滅亡によって周の祭祀が完全に途絶えることになり、東周に残された七邑・河南、洛陽、穀城、平陰、偃師、鞏、緱氏を支配した。


 秦の荘襄王は相国・呂不韋を文信侯に封じ、河南と洛陽(東周七邑のうち二邑)の十万戸を与えた。


 次に呂不韋は白起はくきの旗下にいたために疎まれていた武官たちの再登用を行い、早速その一人であった蒙驁もうごうに韓を攻めさせ、成皋と滎陽を取った。


 その後、秦は旧周領と韓から得た地を併せて三川郡を置いた。三川というのは黄河、洛水、伊水のことである。これによって秦の国境が魏都・大梁に迫ります。


 この年、楚は魯を滅ぼした。当時の魯の国君は頃公けいこうといい、彼は楚によって卞に遷され、家人(庶民)に落とされた。


 紀元前248年


 延陵鈞えんりょうきんが軍を率いて廉頗れんぱに従い、魏を助けて燕を攻めた。


 その隙を突く形で、秦は蒙驁に趙を攻めさせ、太原を平定し、楡次、新城、狼孟等三十七城を取った。


 秦による諸国への侵攻が活発になる中、


 楚の春申君しゅんしんくんが楚の考烈王こうれつおうに進言した。


「淮北の地は斉と接しており、急を要する場所です。郡を置くべきです」


 淮北十二県は元々春申君が食邑にしていた。それを郡にするということは、重要な地であるため、楚王が直接管理するということを意味する。


 邑は邑主が治めるが、郡は国主が直轄する地である。


 春申君は自ら淮北十二郡を返上する代わりに、江東に封地を求めた。


 考烈王はこれに同意した。


 春申君は江東に入ると呉の故墟に城を築いて都邑とした。その宮室は華美を極めたものであった。


 ここで『資治通鑑』に注釈を加えた胡三省こさんしょうは、


「春申君が楚の宰相になってから楚は弱くなり、秦が強くなったと言えよう。国のために謀らず、己のために都を築いて宮室を盛んにするとは、道から外れている」


 と批難している。恐らく春申君としては念のための次の楚の都作りのつもりであっただろうが、後世の目からするとそれに金をかけるぐらいならば、秦への対策を練るべきであるというのがあったのだろう。


 紀元前247年


 趙と燕で和解のために領地を交換した。趙は龍兌、汾門、臨乗を燕に譲り、燕は葛、武陽、平舒を趙に譲った。


 秦に従っていた上党が反旗を翻し、韓に奔ろうとした。


 それを阻止するべく、王齕おうこつに上党を攻めさせ、再占領した。そして、統治の難しいことから秦は前年に占領した楡次、新城、狼孟等三十七城、上党の北を太原郡とした。












 蒙驁が魏を攻めて高都と汲を取った。


 魏軍が連敗したため、秦を恐れた魏の安釐王あんきおうは人を送って趙にいる信陵君しんりょうくんを呼び戻そうとした。


「魏は心配だが」


「処罰される危険性がある」


 そう言って信陵君は門客にこう宣言した。


「魏の使者と通じた者は死刑にする」


 そのため賓客は帰国を進言しなくなった。


 そこで毛公もうこう薛公せつこうが信陵君に会いに行ってこう言った。


「あなた様が諸侯に重んじられているのは、魏があるため。しかし今、魏が危急の時にも関わらず、あなた様は心配しようとしません。一旦、秦人が大梁を攻略して先王の宗廟を破壊するようなことがあれば、あなた様はどのような面目があって天下に立てられましょうか」


 人々は信陵君の義理高さを称賛してきたここで魏を救わねば、信陵君の名声は下がることになる。言い終わる前に信陵君は顔色を変えて車を準備し、魏に帰国した。


 安釐王は帰国した信陵君の手をとって泣き、


「汝を上将軍に任命する」


 とした。


 信陵君は軍を出す前に諸侯へ人を送って援軍を求めた。


「信陵君が再び、魏の将軍となったか」


 諸侯は信陵君が再び魏の将になったと聞くや、次々に援軍を送った。


 信陵君は燕・趙・韓・楚・魏の五国の兵を率いて河外(黄河の西)で蒙驁に決戦を挑んだ。


「信陵君か」


 あの白起でさえ苦戦した相手と戦うのかと蒙驁は思い悩んだ。


「父よ。何をお悩みになっておられるのか?」


 息子の蒙武もうぶがそう問いかけた。


「信陵君が相手だと思っていてな」


「信陵君であろうと誰であろうと、決戦あるのみでございましょう」


 息子の言葉に蒙驁は苦笑する。そして、副将の王翦おうせんの方を見る。


「汝ならばどう思う?」


「勝てるか勝てないかで言えば、相手は五カ国の軍を率いており、兵数は圧倒的にあちらが上、勝算は少ないでしょう」


 王翦は楽観はしない。


「勝算が少ないのであれば、我々がすべきことは勝利ではないと思います」


「なるほど……そうだな。退却するとしよう」


「父上」


 父の決定に蒙武は不満そうな表情を浮かべる。


「お前の父に勇気がないように見えるか?」


 蒙驁は苦笑しながら息子に問いかけると、蒙武は顔を横に向けた。言えば、不孝となるためである。


「まあ良い、だがな」


 そんな息子に彼は言う。


「お前に勇気とは何かを見せるとしよう」


 蒙驁は王翦に指示を出した。









 信陵君率いる五カ国軍と秦軍がぶつかった。


 最初の激突で、秦軍が先手を取ったが、すぐに数の差で押され始めた。


「崩れたな」


「そのまま包囲せよ」


 信陵君は五カ国の兵をうまく使いながら秦軍を包囲しようとした。


(包囲し、秦兵をできる限り減らす)


 圧倒的勝利が必要だと彼は考えたのである。


「ほぼ包囲完了しました」


「そうか」


 報告を聞き、信陵君は上手くいきそうだと笑った。しかし、そこで違和感を感じた。


(秦軍にしては簡単過ぎないか?)


(相手は確か蒙驁であろう?)


 しかし、わざと包囲を受けるそんなことがあるだろうか?


 それでも信陵君は違和感を拭えなかった。











「父上、これでよろしいのですか?」


 蒙武は敵軍に包囲される自軍を見ながらそう言った。


「これで良い。このまま包囲を受ける」


「しかし、退却をすると申されていたはず……」


「どうした。どこを見ても敵ばかり、どこに剣を振るっても当たるぞ」


 蒙驁は笑う。


「王翦殿、あなたからも仰ってください」


 副将である王翦に蒙武が言うと、


「私ならばこのようなことはしません」


 蒙驁に向かって彼はそう言った。


「ああ、私もしないさ」


「ならば何故?」


 自分もしないということは何故するのかと聞くと、蒙驁は目を細めた。


「相手が信陵君でなければな。相手は白起殿でさえ苦戦する相手、そう簡単に退却を許してもらえるとは思えん」


 蒙驁は鋭く包囲をしていく敵軍を見ていく。


「それでも多くの兵を守るというのならば、相手の虚を付かねばならないだろう」


 白起のような軍才は自分にはないと思っている。それでも凡人としての戦をしなければならない。蒙驁は拳を握り、叫んだ。


「さあ、勇気を発揮するのは今である。全軍前進せよ。進路は韓軍、進めぇ」


 秦軍は一斉に韓軍に向かって前進した。











「完全包囲完了」


 そのような報告が信陵君の元に伝えられる。


「そんなことはわかっている」


「それ以上の報告はないか」


 相手は秦の名将・蒙驁。そんな彼がそう簡単に包囲を許すだろうか?


「援軍が来るのではないか」


 信陵君は警戒する。その時、


「秦軍前進を始めました」


「韓軍に一斉に襲いかかっております」


(しまった。包囲するために陣が薄くなった隙を突かれた)


 しかも五カ国軍の中でもっとも弱い韓軍である。


「韓軍に援軍を」


「包囲を突破させるな」


 信陵君は包囲を維持するため、韓軍に救援を送るが、


「韓軍、秦軍に突破されました」


 流石に一軍で秦軍を強さは抑えられない。包囲にほころびが生まれた。


(包囲するできる段階で、油断した)


 包囲するば勝利する。どこぞの遊びではないのである。


「秦軍、そのまま秦に向かって退却していきます」


(敵軍の目的は退却だったのか)


(しかしならば、何故このような面倒なことを)


 しかしながらそれよりもやることがある。


「秦軍を追撃する」


 信陵君は退却を始めた秦軍を追った。


 秦軍は追撃を受けながらも逃げに逃げ、函谷関にたどり着いた。


「ここは白起殿に鍛えられた兵が多い。ここが落とされることはないだろう」


 蒙驁は守りを固めた。


「ここを落とすのは難しい」


「流石に無理だな」


 信陵君は勝利を宣伝しながら退却を決めた。






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