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夢幻の果て  作者: 大田牛二
第六章 決定的一撃
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華陽の戦い

 紀元前275年


白起はくきがなあ」


 秦の宰相・魏冉ぎぜんは昨年の魏との戦いの報告を聞きながら呟いた。あの白起が二城しか落とせなかった。それも無名であった魏の信陵君しんりょうくんが相手でである。


「ふむ、魏に名将がいるのか……」


 しかも白起と対抗できる存在である。


 しかしながらあまり白起が結果を残さなかったことは自分の利益にも関わる問題である。もし宮中に自分を嫌っている者たちがこれを悪し様に言えば、自分の地位が脅かされる可能性もある。


「現在、魏から講和の申し込みが来ているが……」


 これに同意すれば戦をしなくとも良いかもしれないが、あまり成果を上げれずに講和したと、臆病だと、頭の悪い連中に言われかねない。


「偉くなるとこういう言葉を気にしなければならない」


 しかし、この地位でなければ得られない利益があるのだから仕方ない。


「魏へ出陣する」












「宰相自ら出てくるのか」


「どういう意図かな」


 信陵君は秦の侵攻再びという報にそう呟く。兄である魏の安釐王あんきおうは彼に守備を固めるように指示した。前回の結果を受けてのことである。


「頼まれたら仕方ない」


「これよりも講和の道を探る方が先だと思うが」


 そう思いつつ信陵君は出陣した。すると安釐王にこう進言したものがいた。


「信陵君だけでは今回の出兵は危険かもしれません。韓にも援軍を請うては如何でしょうか?」


「ふむ、そうだな」


 弟の手助けをしようという想いで、これを決定した。


 韓はこの要請に答えて、暴鳶(または「暴䳒」)を援軍として出した。そして、この軍と連携するようにと伝えるために安釐王は信陵君の元に使者を送った。


 しかし、使者は信陵君の元に辿り着く前に首だけとなっていた。












「動かないなあ」


「はあ、帰りたい」


 信陵君は侵攻してきた割には動かない魏冉を眺めながらそう呟く。相手の動きの意図がわからないからである。例えば、白起は完全に相手をたたきつぶすことに特化している分、警戒のしやすいのだが、今回の相手である魏冉はどうにも動かない。


「この間に交渉でも入ってくれないだろうか」


「こちらから動くべきかな」


 いっそのこと自分から動いてみるか。もしくは独断で交渉を行うことにするべきだろうか。


 そう考えていると秦軍が動いた。しかし、その動きは不可解だった。


「後退?」


 信陵君は驚くように秦軍の後退していくのを眺めていた。


(どうする追撃するか)


(秦の国内で何か起きたか?)


 後退していく秦軍を見ながら彼は動かなかった。国からいなくなるのであれば良いと思ったのである。しかし、その判断は間違えであったことは直ぐに気づくことになる。












「鬼さんこちら、手の鳴る方へ」


 魏冉は自分の軍を信陵君の魏軍から離れと手を叩きながら言った。


 彼は目の前に迫りつつあった韓軍が見える。


「白起と戦えるやつとまともに戦えるか」


 魏冉は一斉に韓軍に襲いかかった。


「魏軍は何をしている」


 秦軍のほぼ全軍に襲いかかられている鷹の兜をしている暴鳶が叫ぶ。


 しかし、信陵君は彼ら韓軍の存在を知らない。存在を知らせる伝令などは全て魏冉が始末していたからである。


「さあ、存分に叩け」


 秦軍に思うがままに叩き潰された暴鳶は開封に逃げ帰った。









 魏ではこの結果により、混乱した。せっかく韓への援軍まで頼んだにも関わらず、これと連携せずに破れるのを黙って見ていたとして信陵君への責任追及がされた。


 しかし、信陵君としては覚えがない。


 そもそも韓軍が来るなど聞いていないのである。そのことをしっかりと主張したが、怒りで頭に血の登っている安釐王は聞き入れず、彼を解任、秦へ三県の献上を申し込んだ。


「話しにならん」


 魏冉はそのまま魏への侵攻を続けた。慌てた魏は信陵君の代わりに芒卯を出陣させたが、魏冉はこれを難なく破るとそのまま北宅(宅陽)に入ってその後、魏都・大梁を包囲した。魏は温を割譲して講和した。


 紀元前274年


 講和したにも関わらず、魏冉は再び侵攻を開始した。魏は芒卯を出すがまたもや秦に破れ、四城を失い、四万人斬首された。


 更に胡傷こしょうが魏の巻、蔡陽、長社を攻めてこれを攻略した。


 紀元前273年


 秦の驚異を前に恐れを抱いた韓、魏、趙は韓の華陽で合流してから秦への侵攻しようとした。


「領土を取ることは私でも、他の将軍でもできる。しかし、数多の将兵を殺すならばお前だ。白起」


 魏冉はこの事態に彼を放った。


 白起は八日で華陽に辿りつき、合流する前に各個撃破を目指して、韓軍を先ずたたきつぶし、次にやってきた魏軍の芒卯も速攻でたたきつぶした。芒卯は逃走した。


 韓、魏が既に破れたことを知った趙将・賈偃は退却することを選択し、黄河近くまで移動した。


「韓、魏めなんと戦下手な連中か」


 賈偃はそう毒づく中、趙に向かって黄河を沿って駆け抜けている中、すると崖が見えた。そこまで高い崖である。


 しかし、怒涛の音が聞こえ始めた。


「なんだ」


 崖から鳴る音に驚きながら賈偃は上を見た。そこには崖から駆け下りていく秦兵たちであった。


「なんだと」


 今、黄河に沿って駆けている途中であり、そんな時にこのような突撃を受ければ、どうなるのか。


「叩き落せ」


 秦軍から大声が出ると一斉に秦兵は勢いのまま趙兵を黄河へと叩き落としていった。


 なんとか逃れようとする趙軍であったが、そこは一気に包囲されていき、黄河へと叩き落とされていってしまう。


 結果、将軍・賈偃は戦死。趙軍二万の兵が黄河の藻屑となった。


「ふう、久しぶりに主上のご意志を果たすことができた」


 白起は天に向かって祈った。


 三カ国による軍勢を一軍で圧倒してみせた白起に天下は驚き、恐怖した。



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