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雪の涙は葉に落ちて  作者: 大塚 博瞬
第1章 メリコイル
23/30

1-22 4人のハンター 3

10月6日 サブタイトルを「4人のハンター 3」に変更

 優しき狼は、戦火の最中へと姿を消した。誰も居なくなった庭園で、私はボンヤリと空に上る煙を眺める。

 次に会うときは敵同士。それを分かってはいても、やっぱり辛い。

 戦うことを選んだ彼女に、私は消えることのない未練を感じているのだった。


 赤の頭巾を脱ぎ、彼女からのプレゼントを首にかける。彼女の願いと比例してか、白のネックレスを随分と重く感じる。

 

 ……何を戸惑っているんだ、私は。化け狼に譲れないものがあるように、私にも譲れない未来がある。

 母様を取り戻して、そして元の生活に戻る。

 その障害が人間だろうと、魔獣だろうと、やることはこれっぽっちも変わらない。ただ排除して、先に進むだけだ。


 自身の頬を叩いて揺れる心に活を入れる。それから、私も庭園の外に出ようとした時だった。

「おっと、こんな所にいやがったか。おーい、お嬢さん!」

「…………は?」

 予期せぬ事態に、私は口を開けて固まる。なぜなら庭園の入り口に、コイルに乗って私に向かってくるアイス屋さんの姿があったからだ。

 彼は私の近くまで来ると、コイルから下りて私の腕を見る。

「あの、ちょっとすいません。理解が追いつかなくって……。どうして貴方がここに? 中央区に避難するよう言いましたよね?」

「まあ、逃げようとは思ったんだがな。……その腕から察するに、お嬢さんはただの観光客じゃないんだろ? んでもって、1人で奴らと戦おうとしている」

 アイス屋さんの言葉に、私はピクっと体を振わせる。

「……当たりか。なら、足がいるな。俺は竦んじまってるけど、ピースケならお嬢さんの力になれると思ってここまで来たんだ。俺達に化け物退治、手伝わせてくれ」

 ピー、とコイルが高らかに鳴く。

 この鳴き声から、ピースケと名付けたのか。随分と安易な、いや、分かりやすい名前を付けたものだ。

 私はクスリ、と笑みを漏らす。


「いえ、お気持ちだけ受け取っておきます。貴方は早く逃げて下さい」

「いいや、逃げねえ。逃げる訳にはいかねえのさ。……ここで逃げたら、人様守るために体張ってる娘達に顔向け出来なくなっちまう。それに、アイツらの供養もしてやらんといかん。だから、頼む。手伝わさせてくれ」

「そんなこと言われても……」

「無理な話なのは百も承知! だが……頼む! この通りだ!」

 アイス屋さんは1歩も食い下がらない。コイルと一緒に土下座をして、己の想いを私に訴えていた。

 そういえば、この人は蛮族さんと同じでとっても面倒くさい性格をしていたっけ。勇敢なのか、それとも無謀なのか。目の前で身近な人間が2人も殺されたというのに、本当によくやる。

 はぁ、と短く息を吐く。

 ハンターも、魔獣も、世界一を自称するアイス屋のおじさんでも、誰もが等しく譲れない信念を持って生きている。そこに大きい小さいはなく、誰の信念であっても肯定されるべきだと私は思う。

 彼女の信念を、私は肯定した。だからアイス屋さんの信念も、私は受け入れよう。


「分かりました。そこまで言うなら付き合って貰います。死んでも苦情は受け付けないので、そのつもりで」

「お、おう! 望むところだってんだ!」

 彼がコイルに跨がって手綱を握り、私が彼の後ろに乗る。それから「ヤーッ!」というアイス屋さんの掛け声と共に、コイルが風となって庭園を駆けだした。






「やーっと門が見えてきたぜ」

 グレゴ管理官から緊急の連絡を受けて2時間弱。ノンストップで、魔獣が現れても対処出来るギリギリの速度で未開の地を走り、俺達はようやく『狩人の門』まで戻ってきた。

 ここまで魔獣との戦いは無し。案外楽だったなと空を見れば、街からは争いの痕が上っていやがる。これじゃあ、どっちが未開の地か分かりゃしない。


『門の前に到着しました。グレゴ管理官、門を開けて下さい』


 兄ちゃんが携帯端末でグレゴ管理官に呼び掛ける。だが、反応が無い。化け狼の住処で通信を行ってから、グレゴ管理官は反応を示さなくなっていた。

「はっ、はっ……何か……あったんで、しょうか?」

 体力を使い果たし、今にも倒れそうなシオンちゃんが声を上げる。

「だろうね。でなきゃ居眠りか、狼の腹の中に入っちまったか」

「おい、縁起でもないことを言うな」

「へいへい」

 俺がそう答えると、兄ちゃんは携帯端末で更に呼び掛ける。


『グレゴ管理官。こちら、レト・ガーネット。探索を終えて帰還しました。至急、門を開けて下さい』


 グレゴ管理官からの応答はない。通信は繋がっているようだが、返ってくるのは静寂だけだった。

 うーむ、冗談で言ったつもりだったけどよ。……こりゃあマジに、狼に食われちゃったんじゃねえのか? 俺達が化け狼の足跡を追おうとした時、あれだけ熱心に引き留めたんだ。職務怠慢をかましてる訳……ないよな、うん。

 どうしたものか考えていると、何の前触れもなく『狩人の門』が動き始める。グレゴ管理官から応答があった訳ではない。何故か独りでに門が開いたのだ。

 おっとぉ、何がどーなってんだぁ? 俺達が探索に出ている間に、自動ドアに建替えたってか?

 そう思いながら徐々に開かれる門を見ていると、納得のいく理由が見えてきた。『狩人の門管理局』の内部が、嵐でも通ったかのように荒らされていたのだ。異常を感知するには充分すぎる情報だった。


「『紋章起動エンブレム氷槍製造ツリーメーカー』」

 門が開き終える寸前でリーフちゃんが静かに口を開き、左手を体の前に出す。すると細かな氷の粒が、コートの下に隠れていたウェストポーチから吹き出した。正確には、ウェストポーチの下の水晶か。氷の粒は意思を持った運河のようにリーフちゃんの手の平に流れ、集まり、1柄の長槍となる。

 氷で形作られた半透明な刃と柄。細かな花模様の装飾が施されたその槍は、思わず見とれてしまう程の美しさを放っていた。

 これが、噂に名高い『彫り師オリーブ・タンザナイト』の芸術武器。臨戦態勢に入ることも忘れ、俺達は槍に目を奪われる。武器の持ち主が声を掛けるまでは、だが。


「レトさん、指示を」

「あ、ああ、分かっている。ラト、盾を構えろ。俺と一緒に前衛だ。ブラックマン・4級ハンターは後衛、アメジスト・4級ハンターはコイルと彼の後ろへ」 

「りょーかい」

「は、はい!」

 探索の時とは違う陣形を形成し、俺達は管理局の中に入っていく。仮想敵は『凶怪型の魔獣・化け狼』2匹から4匹。リーフちゃんが牽制しながら、俺達が1匹ずつ撃破していく形となる。未開の地のような全方位警戒しなければならない場所では適さないが、建物の中のような狭い空間ではこの陣形が最も有効だ。

 最後尾のシオンちゃんが管理局に入りきった所で、労いの一言もなく『狩人の門』は閉じられる。少なくとも、門を開閉する人間はこの建物内に残っているようだった。

 

 盾を構えながら局内を観察すると、地面には散乱したガラス片や砕けたオブジェ、壁には付着している血痕がある。死体がない所を見ると、ここの職員はどこかに避難したらしい。

 3階建てのこの建物は、1階にエントランス、荷物検査室、備品室、医務室があり、2階に職員のオフィスA、オフィスB、ナビゲートルーム、会議室がある。大雑把に言うなら、1階がハンターのためのフロア、2階から上が職員のためのフロアとなっているのだ。2階か、3階か、それとも外に避難したかは知らないが、俺達はここの職員を見つけ、この街の現状を聞かなければならない。

 それにしても、ヒデぇ荒らされ方だ。地面に散乱した紙の資料や、横たわって中身を零すコーヒーメーカーは、魔獣に臓物を食い散らかされたハンターの死体のようだ。『凶怪型の魔獣・砂獅子』討伐の時に何度も見た。もしかしたら、もう街にはリアルな死体が転がっているかもしれねぇなあ。いや、きっとそうだ。計画的で大規模な魔獣の侵略が人間を傷つける事は、『魔女の嵐』が証明している。


 念のため各部屋を確認しながら、エントランスホールに向かって進む。階段はエントランスホールの先にあり、2階のナビゲートルームが俺達の目的地である。

 ガラス片を踏まないように歩きながら、無駄に長い廊下の角まで来る。俺が先行してエントランスホールを覗くと、シャッターで閉ざされいる入り口が目に付いた。ここには万が一、『狩人の門』が破られた時のための防衛対策が施されている。シャッターもその内の1つだろう。この場合は、職員が入り口から魔獣に侵入されないよう、シャッターを閉めたと捕らえるべきか。そう考え視線を横に流すと、人間じゃない何かが受付のデスクの上に乗っていた。


 巨大な全身を覆う灰色の毛。筋肉の盛り上がった両足に鋭い爪は、獲物の獰猛さをそのまま表しているようだった。

 あれが、化け狼。『凶怪型の魔獣・物まね猿』の能力を反映させ、体を他の生物に変化できる侵略者インベーダー。その様子を見る限り、体全体を変化させている訳じゃなさそうだ。顔と体は狼、脚はライオンやチーターなどの肉食獣に似ている。噂に聞く、合成獣キメラのような風貌だ。


 先頭を兄ちゃんと変わり、状況を確認。少し間を開けて、戦闘開始のジェスチャーが俺達に向けてられる。階段はエントランスホールの先にあるので、目的地に辿り着くためには、戦闘は避けられない。

 あー、やだやだ。2時間もぶっ続けで走ったのにすぐこれかよ。俺ってば、時間外労働はしない主義なんだけどなぁ。

 なんて、指でカウントダウンを始めた兄ちゃんを見ながら考える。

 ハンターという職業をやっていると、稀にこうした理不尽とぶつかる。予期しない魔獣との遭遇、武器の破損、機器の故障。そういった理不尽とぶつかった時に、己のハンターとしての力量を試される。求められるのは、どう理不尽に適応し、対応するか。瞬間的に、心を切り替えれる能力だ。

 首にかけた十字架のネックレスを握り、心を引き締める。さあ、戦闘が始まるぞ、と体に意識させるために。

 

 兄の指がゼロをカウントする。戦闘開始の合図ーーそれと同時に、俺達は武器を構えて一斉に飛び出した。


 化け狼が俺達に気が付く。全身の剛毛を逆立て、低く、大きく、短く俺達に吠える。

 威嚇? いや、仲間を呼んだか!

 2階から聞こえる複数の物音から、俺はそう判断する。1……2、2匹だな。本当は他の奴に気づかれず倒したかったが、仕方が無い。むしろ、物音を殺さなくて良くなったと喜ぶべきか。

「ラト」

「あいよぉ!」

 兄ちゃんからの指示を受け、俺は盾を構えながら化け狼に突っ込む。

 筋力に自信があるのだろう。化け狼は血管を浮かび上がらせた4本の足で受付のデスクを蹴り、俺の元に突っ込んで来る。背丈は俺の1.5倍ほど。普通に接触すれば、俺の体は後方へ吹き飛ばされる事だろう。


「へっ、上等! 『紋章起動エンブレム衝撃反転シールドバッシュ』!」

 

 俺が装備している十字架型の盾に、紅色の線が浮かび上がる。『反転』の紋章が俺の声に反応し、起動したのだ。

 俺と化け狼が盾超しに接触。その瞬間、盾に伝わる全ての衝撃が化け狼へと『反転』し、流れ、灰色の巨体を景気良く吹っ飛ばす。化け狼は受付のデスクにぶち当たり、目に星マークを出して昏倒する。

 完璧なカウンターが決まった。そして獲物が動けないこの瞬間こそ、絶好のチャンス。2階から増援が来る前に、コイツはここで倒す。

 俺は体勢を低くすると、盾を頭上で構えて叫ぶ。

「兄ちゃん!」

 兄ちゃんは勢いよく助走をつけると、俺の盾を踏み台にして跳躍する。高さ3メートルの空中散歩。着地地点はもちろん、獲物の頭蓋の真上。兄ちゃんは天井すれすれまで盾を掲げ、俺と同じ紅色の線を浮かび上がらせる。


「……『紋章起動エンブレム衝撃反転シールドバッシュ』」


 化け狼の頭に盾を押しつけるようにして、兄ちゃんは着地する。落下の衝撃は全て化け狼の頭へと『反転』し、流れ、潰れたトマトのように中身を撒き散らす。

 命は絶たれた。屈強な両足はみるみる縮んでいき、ピクピクと痙攣する化け狼の体だけがその場に残った。


「ひゅー、さっすが兄ちゃん!」

「お前は盾を上げるのが0.3秒遅い。位置も7度ほどズレていた」

 手厳しいねえ、兄ちゃんは。ま、そういうマメさが長所でもあるんだけど。

「はいはい、次は修正しとくよ」 

「……それと。1分追加だ、ラト」

 

 休む暇も無く、階段の踊り場から2匹の狼が顔を覗かせる。まだ2匹とも紋章の力を使っていない。しかし赤々とした血を滴らせた兄ちゃんの盾を見て、状況を悟った化け狼は体を変化させる。


「レ、オ……オ、オォォォォォオォォッ!」

 1匹は全身の剛毛を逆立たせ、体を肥大化させる。今し方処理した奴とは違い、2足歩行。それに加え、太く、鋭い、針のような毛をしている。

「コノ、盗人共ガ……。絶対二許サナイィ……」

 もう1匹は両目が巨大化させ、爬虫類の顔つきになる。体の大きさは変化しないが、毛色が変化し背景と同化する。

 ヤマアラシにカメレオンか。何とまあ、バリエーションに富んでいること……。ああ、そういえばこの街は動物の街って言われてたっけ。馬鹿みたいに多いこの街のペットが、奴らの能力のコピー元って訳ね。


 体を色を背景と同化させ、消えるカメレオンの化け狼。どう探ったものかと考える間もなく、ヤマアラシの化け狼が背中の針を飛ばしてきた。

 俺と兄ちゃんは身を低くして盾でガード。リーフちゃんはシオンちゃんを後退させながら、氷の槍で針を弾く。


「おいおい。なんだぁ、あのビックリ珍生物は? 針を飛ばせる動物なんて聞いたことねぇぞ」

「……恐らくだが、幾つかの特性を複合させているのだろう。黒い霧に人間の腕があったのと同じ原理だ。蜥蜴の尻尾、蜘蛛の糸疣、蛇の毒腺……針を飛ばすのなら、考えられるのはこの辺りか?」

「兄ちゃんでもまだ絞り切れてないか……。どうよ、ここは相手の出方でも窺っちゃいます?」

「ふっ、お前にしては珍しく慎重じゃないか。あの程度・・なら、いつも通りで十分だ。違うか?」

「……だな」

 俺はウェストポーチからスモークグレネードを取り出し、安全装置を外してからヤマアラシ野郎に向けて投げる。スモークグレネードは階段手前に転がり、スモークを噴出。エントランスホール全体に白煙が蔓延した。

 

 この煙の中なら針の的になることもない。このまま奴に接近し、一撃を浴びせるプランを即座に立てる。

 だが忘れちゃならないのは、敵が1匹だけじゃないという事。煙の中でジッと目を凝らすと、壁に張り付くカメレオン野郎の輪郭がくっきり見えた。

 

「リーフちゃん、右側のーー」

 俺が声を発すると同時に、鮮血が宙を舞う。

 はっ、流石は継者と言うべきか。優れた感知能力で俺より先に獲物の姿を捕らえていたリーフちゃんは、既に氷の槍をカメレオン野郎の腹へと突き立てていた。

「こいつはオレが。2人は前の奴を」

 そう声を発したリーフちゃんは、少なくとも俺の知る彼ではなかった。いつになく堂々していて、誰よりも冷静に状況を見ている。

 あれが狩人としてのリーフちゃんの顔か。まるで別人だな、ありゃ。末恐ろしいっつうか、頼もしいっつうか。もしかして、こっちがリーフちゃんの素か? まあ何にせよ、あんな顔を見せられたんじゃあーー

「負けらんねぇよな、兄ちゃん!」

「当然だ」


 対抗心と言う名の着火剤により火が付いた俺達は、獲物めがけて床を蹴る。俺達の動きに感づいたのか奴は針を飛ばすが、当たらない。視界が悪い状況下での飛び道具は不利。むしろ自分の居場所を教える愚行とさえ言えるだろう。

 場所は変わらず、階段の踊り場。距離にして約7メートルの位置。先程のように盾で攻撃するのなら、もう少し踏み込まなければならない。

 この武器が唯の盾のままならば。


「「『形態変形モードチェンジ』」」


 俺達の声に盾が反応。再び紅色の線を浮かび上がらせ、変形を開始する。

 持ち手はそのままに、ギロチンが如き分厚い刃が姿を表す。きっかり4等分されて折り畳まれていた柄は、噛み合い、繋がり、重心は刃と柄の接合部に移動。2.1メートルの柄を両手で持って支えれば、盾は完全な攻撃特化武器へと姿を変える。

 俺達の武器の名は、『変形武器:大盾大鎌シールドサイス』。

 攻撃と守りの両役をこなし、変形時間は瞬きをする間もない。そして視界が悪い状態で、かつ、この武器の特性を知らない相手と対峙するとき、この武器の一撃は、敵の完全な裏を取る不意打ちとなる。

 なぜならば、この武器は超速可変にして変幻自在だ。折りたたみ技法によって刻まれた紋章によって、ゼロ距離から2.1メートルへと、瞬間的に間合いを変化させるからだ。


 こう考えれば、きっと分かりやすい。初見でビックリ箱の中身を言い当てれる人が存在するのか、と。いいや、いない。

 誰も初めて見るビックリ箱の中身を予測出来ないように、俺達の武器が盾から鎌に変わることなんて敵には予測出来ない。出来っこないのだ。


 階段の1歩目を踏んだ所で、視界から煙が消える。どうやら、踊り場までは煙が届いていなかったらしい。しかし、これだけ距離を詰められれば十分というもの。ヤマアラシ野郎も、武器の間合いの変化に対応出来ていない。

 盾では足りなかった鎌の間合いへと、俺達は到達する。

 兄ちゃんが脚部へ一閃。血飛沫と共に、奴の左足を切断する。動きは止めた。そこに俺が2撃目を叩き込み、体毛の薄い腹部から背中にかけて、胴体をばっさり切り裂いた。


 いつも通りの連携ワンツーーー相手の足を殺し、致命傷を与えるコンビネーション。兄ちゃんの言った通り、このヤマアラシ野郎は唯それだけで事足りる相手だった。


 左足と胴体を切り裂かれたヤマアラシ野郎は、階段の踊り場からエントランスホールの床に落下する。全身を床に打ち付ける頃には絶命しており、赤々とした血を撒き散らしながら元の狼の姿に戻っていった。

「グギィィィ、イィィ……」

 絶命した化け狼の少し先では、氷の槍で頭を貫かれたカメレオン野郎が呻き声を上げていた。俺らがヤマアラシ野郎を攻撃している内に、リーフちゃんは腹部に2撃、頭部に1撃入れていたらしい。

「フク……オ、サ……後ハ……」

 致命傷を負った化け狼は、絞り出すように言葉を零す。虚ろな瞳で中空を眺め、何かに祈りを捧げながらその命を散らす。

 こいつらが何を想って死んだのか、なんて事は考えない。俺達は自分に出来る事を、そしてハンターとしての勤めを果たす。それだけだ。

 

 刃に付着した血を飛ばし、『大盾大鎌シールドサイス』の形態を盾に戻してから、俺達は元の場所まで戻る。

「お疲れぃ。良い動きだったぜ、リーフちゃん」

「いえ、2人の連携も見事でした。あのブラウ……メテライト・2級ハンターにも引けを取らない豪快な一撃。そうそう見れるものではない代物です」

「お、言うねー」

 リーフちゃんを軽く脇で小突きながら、階段の方を見る。

 うーむ、煙のせいで全然階段が見えん。リーフちゃんが嘘……ついてる風にも見えねえしな。カメレオン野郎を最初に見つけたのもリーフちゃんだったし、マジにこの視界の中で俺達の戦闘が見えていたのなら、感知能力に関しては3級ハンター以上だ。

 

「あ、あのー……。終わったん、ですか?」

 物陰に隠れていたシオンちゃんとコイルが姿を現す。兄ちゃんは周りを見渡しつつ、

「終わった、と言うにはまだ早いだろうな。この施設に化け狼が残っている可能性は十分にある。この地はもう、未開の地となんら変わりはない」

「そう、ですよね……。はい、分かってます。私達は、この街を守るために戻ってきたんですから」

「そしてその為には、今の街の状況を確認しなければならない。誰から事情を聞ければいいんですけど」

 リーフちゃんが横目で兄ちゃんを見る。視線を返すことなく携帯端末を弄る兄ちゃんは、軽く舌打ちをした後返答する。

「ああ。だが、携帯端末がどこにも繋がらない。支部局にも、コイルの里にも、ここにいる全員の携帯端末にも、だ」

 舌打ちの理由を俺は理解する。

 携帯端末は戦闘行動を前提で作られている。あの程度の戦闘じゃ、まず壊れる事はない。となると、考えられるのは……。頭の中で最悪のシナリオが浮かんでしまう。

「ま、今は生存者探しに専念しようぜ。突っ立ってるよりも、そっちの方が良い。つーか、俺らじゃシャッターの開け方分かんねーし」

「ですね」

「……よし、陣形を組み直すぞ。目的地は2階のナビゲートルームだ。十分に注意を払っていけ」

 リーフちゃんが化け狼に刺さった氷の槍を抜く。人間と同色の血を床に滴らせ、ぽつぽつと消えない痕をつくった。

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