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雪の涙は葉に落ちて  作者: 大塚 博瞬
第1章 メリコイル
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1-1 旅の欠片1

 煌々と日が照る中、1つの影が野を通る。

 絨毯ーー『浮遊』『推進』『操作』など様々な紋章の小型化成功により普及した乗り物。

 絨毯は一面の緑に赤を写しながら、空中を飛行している。

 その上に4つの影。

「だからあの時言ったじゃないですか。左の道に行くべきだと」

 喪服を連想させる黒服に赤い頭巾を被った少女が、小さな口を尖らせて訴える。

「そこまで言われる筋合いはないぞ。ここまで遅れたのはこいつのせいだ」

 黒いコートに身を包む白髪の青年が、赤い絨毯を軽く叩く。

 本来ならば5日で目的地に到着するはずだった。しかし、絨毯の動作不良で移動が遅れ、道中の街で修理している内に2週間もかかってしまっていたのだ。黒服の少女はその事で気を悪くしている。

「なぁ、その辺にしとかねぇか。こっちの気が滅入っちまう」

 水晶で絨毯を操作する、茶髪で初老の男が仲裁に入る。しかし、二人の言い争いが止まる様子はない。

 パラソルの日陰で読書をしている私も、特に気にとめてはいない。むしろこのくらい賑やかな方が良いとさえ思いながら、読んでいる小説の1ページをめくっていた。

 

 ベルモント・ローズクオーツ作、『青の洞窟』。私が1番好きな冒険小説だ。


 暖かな風が髪を揺らすと共に、花の香りを私に届ける。前の三人はそれに気づいている様子はない。

 もうすぐだ。

 主人公が仲間と協力して魔獣を倒した所まで読み終わり、そのページに栞を挟む。

 パタン、と本を閉じ、その本をバッグにしまうと同時に、初老の男から声がかかった。

「お前さんも何か言ってやってくれねえか。俺が言っても止まりゃしねえ」

 ハァ、と彼がため息をつく。年長者としての気苦労が覗える一場面に、クスリと笑みがこぼれてしまう。

「このままで良いんじゃないかな。もう着きますし」

 絨毯が緑の丘を駆け上がる。その頂上まで来たところで、言い争いがピタリと止んだ。

 緑一色だった野にスコッティの花が現れ、来訪者を祝すかのように辺り一面を黄色に染め上げていた。

 それを超えた先に1つの街。

 自然と調和し、草花と共に発展を遂げた『インフェカ』最北端の街ーーメリコイル。

 あの街は隣国『パクタン』との貿易地であり、また、花が美しく咲き誇る観光地でもある。

 物流の街。

 花の街。

 確かに、メリコイルはそう呼ばれるに相応しい街だ。だが、あの街はとある一面によって、全く別の呼び名がついていた。

 

 それは、まだ人の手で開拓を進めていた時代のこと。コイルという動物には魔獣避けの加護があると言われており、ハンター達はコイルと共に未開の地を開拓した。その影響を大きく受け、メリコイルでは「動物を飼うと災いから自分達を守ってくれる、福が訪れる」といった伝承が生まれたのだそうだ。

 未開の地の開拓にコイルが使われなくなった今でも動物を飼っている人は多く、メリコイルはいつしか『動物の街』と言われるようになった。


 生に満ち、花香る動物の街。

 しかし、スノードロップの花に「あなたの死を望む」という意味があるように、晴れる事のない闇が隣り合わせに存在する。


 これから起こることは、まだ誰も知らない。未来は不確定で、数多の可能性に満ちている。

 踏みしめよう。無数のみらいから紡がれた、1本のいまを。

 焼き付けよう。これから起こる、地獄の景色を。


 繁栄。

 憎悪。

 消失。

 前進。


 これはそういうお話。


 人と獣の物語だ。

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