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剣の娘  作者: 風城国子智
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一四

 すぐに、景色が変わる。

 リズミの前に、街中の砂色の空気と、一段高くなった首吊り用の処刑台が現れた。処刑台の横に居るのは、紺色のマントを羽織った近衛兵数人に羽交い締めにされたジュリアと、王錫を持った一角獣が刺繍された紺色のマントを羽織る女王自身。女王の首に掛かった首飾りの、鮮紅色の妖しい光に魅了されそうになり、リズミは慌てて首を横に振った。『石』のことは、後だ。

「処刑を取り止めよ!」

 はっきりとした声で、ヴェシオが叫ぶ。

「何者だ!」

 驚いた顔を見せるエナ女王と、ヴェシオの前ににゅっと現れた元老院の議長クライスに、ヴェシオは少しだけ口の端を上げると右腕のボタンを外した。服の下から現れたのは、一本の、古いが目立つ、傷跡。

「これを知ってるよね、クライス。昔、クライスの執務室で悪戯してインク壷を壊してしまった時の、傷」

「ま、まさか、……王子」

 ヴェシオの言葉に、クライスの顔が驚愕に歪んた。

 そして。

「王子……」

 クライスの老いた瞳に、涙が浮かぶ。クライスはくるりと、ヴェシオを庇うようにエナ女王の方へ顔を向けると、立ち竦む女王に向かって怒声を発した。

「どういうことですか、女王? 王子は、他国からの呪いで口が利けず、成長もできないのではなかったのですか?」

「他にも、我々が騙されていることがある」

 ざわめく、処刑を見る為に集まって来た群集の声を切るように、ヴェシオの凛とした声は続く。

「エナ女王は『正規』の女王ではない」

「何っ!」

「どういうことだっ!」

 群衆のざわめきに、セアが震えるのが、分かる。セアを安心させる為にリズミがセアの肩に手を置く前に、ヴェシオは懐から『女王の印』、例の王冠を取り出した。どうやらヴェシオは、セアがその金属を返してからずっと、その王冠を肌身離さず持っていたらしい。

「これを見知っている者も多いだろう」

 王冠を頭上に掲げて、ヴェシオが叫ぶ。

「先代女王セレーの、王冠だ」

 中天の太陽に、王冠がきらりと光る。その王冠を、ヴェシオはエナ女王の方へ突きつけた。

「さあ、女王陛下、この王冠を、自身の『女王の印』へと変えてください」

 ヴェシオの目は、不敵に光っている。『女王の娘の娘』ではないエナ女王には、先代女王の王冠を自分の『女王の印』――女王の背で揺れる紋章と同じ、王錫――に変えることはできない。よしんば魔法で騙したとしても、こちらには『魔法が効き難い』体質のセアがいる。女王の敗北は、明白だ。

 エナ女王が王冠を受け取らないのを見て取ったヴェシオは次に、セアの方へ王冠を差し出した。

「さあ、セア」

 先程までとは打って変わった優しい声で、ヴェシオがにこりと笑う。

「自分を、証明して」

 こくんと頷いたセアが、ヴェシオから王冠を受け取る。すぐに、王冠は光へ、そして剣へと変わった。

「おお」

「正しく、女王」

 群衆の中から、感嘆が生まれる。リズミはほっと息を吐いた。本心を言うと、ヴェシオの『作戦』が成功するとは思っていなかったのだ。

 だが。急に、リズミの思考が、途切れる。この、感覚は。

〈ダメだ……〉

 拒否は、通用しない。急速に力が抜けていくリズミの脳裏に、甘美な命令が響いた。

〈セアを、斬れ〉

 命令のままに、セアに向かう。

「リズミ!」

 叫びつつ、とっさに身を躱したセアの、剣を持った右腕を、リズミは確かに斬り落としていた。

 心地良い生温かさが、リズミの身を陶酔させる。だが。次の瞬間。リズミははっと我に返った。

〈セア!〉

 目の前の光景に、驚愕で動けなくなる。血に濡れ、ぐったりと頽れたセアの身体を、ヴェシオが抱き締めている。そのヴェシオの、詰るような視線に、リズミは自分が何をしたかを悟った。その、原因も。

〈くそっ!〉

 動かないセアが、ネイディアと重なる。リズミはくるりと向きを変え、驚愕に身を震わせるエナ女王に突進した。正確には、エナ女王が手にしている、鮮紅色の塊の方へ。

 硬い物を斬る感覚を、確かに感じた、次の瞬間。

〈なにっ!〉

 エナ女王の姿が、不意に光になる。一瞬のうちに、女王の姿は広場から、消えた。

 残ったのは、呆然とするリズミ。

〈くそっ!〉

 再び、舌打ちする。また、『石』に操られて、しまった。後悔のまま、リズミは振り向き、ヴェシオの腕に力無く凭れ掛かったままのセアの、血に濡れた身体を、見つめた。

 と。リズミの足下が、少しだけ光る。

〈おや?〉

 リズミが驚くより早く、鮮紅色に見える光が、リズミが切り落としたセアの右腕が持つ剣に向かう。その光はセアの右腕を包み込むとセアの方へ向かい、セアの身体の、右腕があった辺りに集まった。そして。

「これは……」

 ヴェシオの驚く声が、耳に入る。

 光が消えると、セアの右腕が再生されているのが、リズミの瞳にもはっきりと、映った。いや、『森の魔女』達が精製した、『石』を封じる為の金属が、『女王の印』としてセアの右腕を形作ったのだ。その証拠に、セアの新しい、銀色に光る右腕の手の甲には、先程リズミが斬った『石』の半分が、輝きを失ったまま嵌っている。

 そして。

「……ヴェシオ? リズミ?」

 ゆっくりと、セアの瞳が、開く。

「セア!」

 ヴェシオの歓喜と、リズミの驚きが、重なった。

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