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剣の娘  作者: 風城国子智
13/18

一三

 次の朝。セアが起き出してきたのはずいぶん遅くなってからだった。

 仕方が無い。昨日あれだけ話し込んでしまったのだから。少し苦笑しつつ、リズミは『森の魔女』達が用意してくれていた朝食をセアのベッドまで運んだ。

「ありがとう、リズミ」

 森に自生する植物で作ったという朝食は、城内での下級衛士の食事よりずっと美味しそうにリズミにも見える。

「ところで、皆は?」

 ジュリアは城へ帰り、他の魔女達は森の中で何かそれぞれの仕事をしているようだ。ヴェシオは森端の河の岸でぼうっと物思いにふけっている。セアの問いに、リズミは見聞きしたことを軽く話した。自身のこと全てをセアに打ち明けたからだろうか、心が、軽い。

 と。

「セア!」

 突然響いた、ヴェシオの上ずった声が、リズミの気持ちを萎えさせる。こんな時に、何だよ。声の方を振り返ったリズミは、だが、ヴェシオの後ろに居た、息を切らせているのに青白い顔のポワンを見てはっと意識を改めた。……何か、あった。

「ジュ、リア、姉、さん、が、捕、まった」

 途切れ途切れのポワンの声に、セアの顔色が変わる。

「何故?」

「分からない」

 ジュリアの魔法は、森の魔女の中では群を抜いている。城を抜け出しても誰にも気付かれないよう、準備は万全だったはずだ。しかし予想外のことが起こったのであろう、城に帰るや否やジュリアは「許可無く城の警備を離れた」と言う理由で捕まり、女王の立ち会いの許、街の広場で公開処刑されることになってしまったらしい。しかも、今日、太陽が中天に差し掛かった時に。

「な……」

 絶句するセアの横に、いつの間に現れたのか、『統べる者』リネアが厳しい顔で立つ。

「ジュリア……、これも、運命か」

 リネアの声には確かに、諦めが含まれていた。

「助け、に」

「いけない」

 小さく呟かれたセアの声を、リネアが止める。

「これも『動く者』の運命」

「そんな」

 首を振るリネアに唇を噛み締めたセアが、リズミを見る。その、すがりつくような瞳に、弱い。分かったと言うように、リズミは首を縦に振った。

「助けられるかも、しれない」

 不意に、ヴェシオが話題に割って入る。

「僕のことを、皆に見せて、混乱させる」

「ヴェシオ王子……?」

「任せて。大丈夫」

 王子は、こんな奴だったか? しばし混乱する。何も喋らずおどおどしていた王子はどこへ行った? だが。セアによって呪いを解かれた時から、王子は変わったのだ。姿形だけでは無く、心も。人間とは、そういうものだ。リズミはヴェシオを見直すと、ヴェシオとセアの間に立った。

「良いさ。連れてってやる」

 ヴェシオだけ連れて行く、というわけにはいかないだろう。「私も行く!」とセアが言い出すのは目に見えている。自分の周りの人間を、放っては置けない。恩を感じている相手なら、尚更。セアは、そのような心根の人間だ。

「分かりました」

 難しい顔をしていたリネアが、ふっと口許を緩める。

「『視る者』の中から、素早い者を三名、街へ!」

 森の中へそう声を掛けるリネアの、凛とした声が、リズミには心地よく響いた。多分、セアにも。

「ありがとうございます」

 頭を下げるセアに、リネアは再び厳しい顔を向ける。

「あなたも、気をつけて、セア」

〈行くぞ。時間が無い〉

 太陽は既に空高く昇りきっている。

 リズミは右手にセアの手を、左手にヴェシオの手を握ると、魔法の呪文を口中で唱えた。

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