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それをみて彼女は安堵した。まだ、彼は狂ってなんかいない、と。
「大丈夫だよ。たとえ病気であっても・・・・」
「え?」
彼は驚いただろう。鈍感な彼。まだ、自分の口から病気とはいっていない。
「大丈夫だから。」
何故かいつも年上の幼馴染の泣いた顔を慰めるのは彼女だった。
「なんで・・・・大丈夫、なんて・・・・あれ?どこまで話したっけ?」
「大丈夫。」
そういって彼女は彼を抱きしめた。いつか自分がそうしてもらいたかったように。
「・・・・・・・・僕は・・・・・・」
彼女の胸の中で小さくつぶやく。でも、彼女には届かない。そのくせ、彼女の声が彼に届く。
「大丈夫。人は、いつか死んでしまう生き物だから。私が昔っから数学が得意な理由、おしえてあげよっか。」
いつも上から目線の彼女に、いつもおどおどしている彼は不つり合いのようでお似合いだったのかもしれない。
「数学ってさ、なんか、人の人生に似ているな、って思ったからだよ。」