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でも彼はてをださなかった。ただ、声を殺して彼はないていた。彼女が背中に手を当てたとき、ビクンとはねて、泣き続けた。ただただ、泣き続けた。一体、彼は何を思っているのだろうか。深く追求してもわからない彼女はわからない。でも具体的なのはわからなくても重い病気にかかっているというのはなんとなくわかっていた。そして治すために時間やお金やその他もろもろかかることも予想がついていた。でも昔から恋こがれていた彼だ。そんな彼に告白されて、結婚をして、一人のこどもを生んで、そんな幸せな生活を過ごしてきた。そんな彼の病気なんかに彼女が負けるわけにはいかない。そのためにも、彼にその病気に勝ってもらわなくては困る。まだ、子供もいるのだ。まだ小さいのだ。そんな子どもに負担をかけてしまうなんて・・・・
「なんでかはわからないけど・・・でも、それでも別れない。これは私のわがままよ。でも別れるってのもあなたのわがまま。どっちのわがままが勝つのかしら?」
そういって意地悪っぽく彼女は彼に笑った。彼に元気を取り戻してほしいと思っての笑いだった。決して彼を嘲り笑ったりしたわけではなかった。彼にもそれに気づいて、涙の浮かべながら彼女に笑った。彼も彼女を笑ったわけではなかった。元気を取り出した、というような笑いだった。