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春待福介の終幕  作者: ペポ
第1章 市内脱出編
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006 意外な再会


 俺達の向かい側の席が空いていたので、そこに織斗が座ることになった。織斗は昼間別れたままの姿で、笑顔を浮かべながら口を開いた。


「なんやまた会ったな、福介! やっぱあれやな、友達っちゅうのは惹かれ合うものなんやな!」


 男同士で気持ち悪いこと言うなよ。

 

 気安く友達とか言ってるけど、俺ら昼間に会ったばっかだからな。確かにお前は友達がどうのとか言ってたけど、俺にそんな気はなかったんだよ。


「なんでお前がここにいるんだよ」


「なんでって、ただフツーに電車乗ってただけやで? そしたらなんや福介の声が聞こえたさかい、ちょっと顔見に来たんやで」


 まぁそうですよね。


 ふと誰かが俺の裾を引っ張った。


 見るとカルマンが俺のほうを見上げていた。いきなり来たこの男が誰なのかというとこだろう。


「あぁ、こいつは……あれ、お前名字なんだったっけ?」


 前会ったときは名前しか名乗っていなかったような。


「名字? そんなもんええやろ。ただの織斗や」


 教える気はないってことか。まぁいいけど。


「こいつは織斗っていって、最近この辺りに引っ越してきたやつだよ。高校はどこか知らないけど、今日の昼間になんか成り行きで一緒に缶けりしただけっていう、知人」


「そんなつれないこと言わんでやー。一緒に缶けりしたら友達。一緒に遊んだら友達。万国共通、TOMODACTIやんけ?」


 なんだこいつのノリ。めんどくさいな。


「あんた、名前はなんていうんや?」


「……カルマン」


「おお、カルマンか! 確かフランス語かな? オシャレさんやなー。髪も目も綺麗な赤色で、お人形さんみたいやなー。かわええなー」


 カルマンのことを大絶賛の織斗。まぁ確かに名前のこととか髪のこととか、そういう素性のことを聞かないでくれるのは素直にありがたいのだが、実はロリコンなのではないかといういらぬ疑いをもってしまう。もしそうなった場合、俺らは直ちに織斗から逃れ、カルマンの安全を確保する義務が、俺にはある。


 決してカルマンを一人占めしたいとかそういう意図はない。


「よろしくお願いします」


 アインスは礼儀正しく織斗に返した。心なしかカルマンは嬉しそうな表情をしている。彼女に関してなんとなくわかったことだが、どうも髪や瞳のことを気にしているようで、そこを褒められると嬉しそうにする。


 お、俺もその色、いいと思うぞ!


 なんて、抵抗してみる。




「で、福介はこんなかわええ子連れてどこ行くきや? こんな時間に」


「それは……」


 俺は言い淀んだ。


 これはそんなおいそれと話していいようなことではないだろう。国家の機密なんかにも関わってきそうだし、織斗がこの事件に巻き込まれてしまう可能性もある。何より、カルマン自身の気持ちだってあるだろう。


 さて、どう誤魔化そうか。


「ゆ、遊園地に行くんだよ」


「こんな時間に開いてるわけないやろ」


「明日の開園すぐを狙うんだ」


「泊まりの荷物とか持っとらんやんけ」


 なんでこいつ無駄に鋭いんだよ!


 察してくれよ!


 こうなったらB案だ。


「これから彼女とホットナイトなのさ!」


 織斗は無言でケータイを取り出す。


「……あ、もしもし、警察かいな? 今目の前で女子中学生が盛りのついた男子高校生に――」


「――ストップ! ストップ! 冗談だって!」


 俺は織斗がケータイをしまうのを見てほっと胸を撫で下ろした。


 危ねー。


 ちょっとした嘘なのに、危うく性犯罪者として明日の朝刊の一面を飾ってしまう所だった。


「福介、まさかなんや犯罪に足突っ込んどるわけやないやろな?」


 俺がおかしな態度を取ったせいであらぬ疑いをかけられてしまった。


「ちげぇよ! 正義の活動真っ最中だ!」


 ……たぶん。


 ただ誤解されても仕方のない状況だというのは重々承知している。


「じゃあ何なんや?」


 織斗はその鋭い目つきを俺に向けて凄んでくる。


 いくら凄まれたってこれだけは話せない。カンベンしてくれよ。


「ん? 春待それ何持ってるんや?」


 織斗が俺の胸ポケットを指差す。


 そこには先程しまった清嶺地からの手紙があった。ちょっとはみ出していたところを目敏く織斗に見つけられた。何て奴だ。


「な、なんでもねぇよ……っ!」


 いかん、ちょっと声が上擦ってしまった。怪しまれただろうか?


「そうなんや……まあええけどな」


 織斗は手紙から興味を失ったように胸ポケットから視線を外し窓の外を見た。俺とカルマンもつられて窓の外を見る。夏とはいえさすがに日もとっぷりと暮れていて、見慣れたはずも街の景色もよく知らない場所のようだった。


 すると、突然織斗が、


「……あっ、なんやあれ! 空飛ぶたこ焼きや!」


 空の一点を指差した。


「えっ、マジ!?」


「どこどこ!」


 俺とカルマンは織斗が指差す先を目を皿のようにして覗き込んだ。と、織斗が何やら素早く動き、俺の胸ポケットになにやら感触が。


 織斗の手元を見れば、清嶺地の手紙がその手に握られていた。


 まさか。


「織斗、騙したな!」


「いやー、まさかこないな古典的な手に引っかかるとは思わんかったわ」


 クッ、俺としたことが油断したぜ。


 まさか「あっ、○○だ!」なんて見え見えの策略でカルマンだけでなく俺も欺くとは、この男、やるな……!


「ん? これ手紙か? こないな時代に古風やな。わいはそういうの嫌いじゃないけどな。さて、どれどれ……」


「おい!」


 織斗が手紙を開く寸前に俺がその手紙をひったくった。


「なんや、ケチやなー」


「ケチとかそういう話じゃなくて――」




 ガラッ!


 荒々しく扉を開ける音。


 俺と織斗、カルマンは同時に音のしたほうを振り返る。


 後列の列車のほうからだ。


 見ると、そこからこちらに入ってくる人々が。


 ドクンッ。


 俺の中で心臓が跳ねる。


 いつの間にか、この列車には俺達三人以外乗っていなかった。残業帰りのサラリーマンも年増のOLもスカートの短い女子高生も、姿がない。


 嫌な予感がする。


 エセ関西人と喋っていたせいで忘れていた。


 俺達は今、追われてる身だった。


「――赤い髪の少女をこちらに渡せ」


 先頭の小柄な男が鋭い眼光とともにそう言い放った。


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