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春待福介の終幕  作者: ペポ
第1章 市内脱出編
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005 春待福介の『能力』


 俺はカルマンのほうを見た。


 アインスはとっくに手紙を読み終わっていたようで、すでに手紙へと興味を失っていた。ホームのベンチで俺の隣に腰かけるこいつは、脚をブラブラさせながらどこか遠くを見ていた。実は何も見ていないのかもしれないが。


 一応帰宅ラッシュは過ぎているとはいえ、スーツを着た人達で駅のホームはそれなりに賑やかだった。いいぐらいにお酒に酔った団体が、まさに俺らの目の前を通り過ぎていくとこだった。酒の匂いに眉をしかめたカルマンの様子を見るに、さすがにまだ飲酒の経験はないようだ。


 あ、電車乗る前にトイレ行っとこ。




 さて、清嶺地の手紙の内容を整理してみると、


1、カルマンことアインスは科学者達によって作り出された人工生命体で、世界初のホムンクルス。


2、科学主義の象徴である彼女は、反科学主義を掲げるテロリスト『メロディーライン』からその命を狙われている。


3、彼女の逃走は清嶺地の独断であり、彼女を製作した研究所、ひいては日本政府も彼女の奪還を狙っている。


4、俺達はその二つの勢力から逃げ隠れしなければならない。


5、困った時にはアルゴル・エルロンドという人物の元を訪ねるべき。

 というところだろうか。


 まぁ、まだ細部にわからないところは多いが、大まかなところはこういった感じなのだろう。


 そういえばさっきカルマンが話したがらなかった『アインス』の意味、この手紙で知ってしまったのだが、それはいいのだろうか? 一作目アインス。どこの言葉なのかは知らないが、確かにそんな記号で自分のことを言われたくはないだろう。おそらく研究所ではずっとそうやって呼ばれてきたのだろう。これからはせめて俺だけでも『一作目アインス』とは呼ばないようにしよう。カルマン。カルマンだ。


 ティンティロティントンティンティントン――♪


 ホームに電車の到着を知らせる音楽が流れる。


 とりあえず思考の続きは電車の中だ。あんまり混んでないと良いなぁ。座りたい。


 俺は清嶺地からの手紙を胸ポケットにしまうと、アインスを連れ立って電車へと乗り込んだ。




 電車は余り混んではいなかった。目に入るのは疲れたてたサラリーマンや年増のOL。彼らは残業帰りだろうか。その他明らかに不良ですといった感じの女子高生のグループが声をあげて笑っていた。少々耳障りだが、そのスカートの短さに免じて許してやろう。


「ねえ春待、これから私達はどこにいくの?」


 カルマンは相変わらずの呼び捨て。加えてどんどんタメ口になっていってないか……? まぁ別にいいんだけどさ。


 俺は彼女を見る。


 赤い髪に赤い瞳。


 そんなド派手な身なりを持つ美少女が俺の隣で、俺の方を見上げているのだ。不安そうな瞳で、上目遣いで。


 ええぃ! 去れ! 煩悩!


「とりあえず電車で行けるとこまで。ここから離れる。あと、主要な都市部にも近づかないほうが良いかもしれない。で、アルゴル・エルロンドとかいう人物を探す」


 とりあえず俺らの行動方針はこんなところだろう。


 『アルゴル・エルロンドを訪ねる』というのは最終手段のようだったが、俺らは現在何をどうすればいいのかもわからないため、早くもその手段を取らせてもらうことにしよう。『アルゴル・エルロンド』が何者なのかということが手紙に書いてなかったため、手掛かりは何もないが。まったく、気の利かない野郎だ。




 運よく向かい合わせの席が空いていたので、厚かましくも俺達二人だけで使わせてもらった。なぜかカルマンが俺の横に座ったので向かいの席は空いているのだが。


 落ち着いたところで、ちょっとカルマンと話をしようじゃないか。


「なぁカルマン、お前はさっきの手紙の内容理解してるのか?」


「うん」


 さいですか。


 まぁさすがに俺もここまでこればすべてを信じざるを得ないだろう。俺は案外そういうの簡単に信じるタイプだと自覚してるし、適応力もあると自負している。ホムンクルスだろうが宇宙人だろうがどんとこいだ。


「なら話は早い。行動方針は俺が勝手に決めたが、それ以外は何も決めてないし、俺もお前もお互いを全く知らない。そんな状態じゃいざっていう時に困るだろう。というわけで、第一回定例会議を行います。議題は『お互いを知ろう』。では拍手!」


 俺がそう言ったが、カルマンは拍手をしてくれない。ノリの悪い奴だ。


「……俺の紹介は研究所で話した通りだ。いたって普通の高校生だな。……あとはまぁ、ちょっと超能力が使えるってことくらいかな」


「えっ……?」


 カルマンが初めて興味のありそうな目で俺を見てくる。


 初めて食いついたな。


「どんな? 見せて!」


 超能力見たことないんだろうか?


 まぁそんなにざらにいるわけでもないしな。


 さて、どうやって見せてあげたものか。


「オッケー。じゃあ、じゃんけんしよう」


「?」


「いいから」


 カルマンは戸惑いながらも応じてくれるようだ。


 俺の『能力』はパッと目で見せてわかるようなものでもないからな。でも、じゃんけんならわかりやすいだろう。


「いくぞ? じゃーんけーん、ぽん!」


 俺はチョキ。


 カルマンもチョキ。


「あいこだけど……?」


 これがなんなのと言いたげなカルマンの視線。


 まぁ見てろ、これからだから。


「続けよう。あーいこーで、しょ!」


 俺はパー。


 カルマンもパー。


「?」


 カルマンの胡乱げな視線。


 まだまだ。


「あーいこーで、しょ」


 俺はグー。


 カルマンもグー。


「あーいこーで、しょ」


 俺はパー。


 カルマンもパー。


「あーいこーで、しょ」


 俺はグー。


 カルマンもグー。


「あーいこーで、しょ」


 俺はチョキ。


 カルマンもチョキ。


「あーいこーで、しょ」


 俺はグー。


 カルマンもグー。


「あーいこーで、しょ」


 俺はパー。


 カルマンもパー。


「あーいこーで、しょ」


 俺はパー。


 カルマンもパー。


「あーいこーで、しょ」


 俺はグー。


 カルマンもグー。


「あーいこーで、しょ」


 俺はチョキ。


 カルマンもチョキ。


「あーいこーで、しょ」


 俺はグー。


 カルマンもグー。


「……………………?」


 カルマンはだんだん訳の分からないといった表情になっていった。


 そりゃぁそうだろう。説明してやるか。


「俺の超能力がどんな『能力』かわかったか?」


 カルマンは少し考える素振りを見せる。


「……じゃんけんであいこになる能力?」


「そんな地味な超能力あるか!」


「……じゃんけんであいこになる呪い?」


「嫌な呪いだな!」


 少しわかりづらかったか。


 まぁ一発じゃわからんだろうな。


「俺の超能力は『予見』能力だ。といっても遠い未来が見えるとかいう凄いやつじゃなくて、数秒先が見えるくらいだ。一応常に未来が同時に見えているわけだが、普段は、なんというか、『ピントを合わせてなければ』ほとんど気にならないくらいに見なくて済む。だから誤解されやすいけど、常に視界がダブってるってわけじゃないんだ」


 まぁ昔はそういう能力の『オンオフ』の調節がうまくできなくて苦労したがな。


「数秒ってどれくらいなの?」


「人によって差があるみたいだけど、俺に関しては約1.2秒ってところかな」


 自分で実際に検証してみましたー。


「凄い……。便利?」


「確かにラッキーって思うことは多いよ。ロシアンルーレット的なたこ焼きとかは絶対当たり引かないし、街角で誰かとぶつかったりしないし、飲み物食べ物こぼしたりとかしないし」


「地味」


 うん、自分で言っててそう思った。


 あっれー? 俺の超能力ってこんな地味な感じだったっけ?


「でも、例えばスポーツの時とか、『予見』能力使えば大抵勝てちゃうし、そういうのなんか悪いなって思うから、負い目感じて出来るだけ『見ない』ようにしたりとか、大変なこともあるよ? だから普段は出来るだけ使わないようにしてる」


 まぁ、缶けりの時は使ってましたけどね!


 勝ちたいし!


 ……さて、俺の話はこれくらいにして、次はカルマンの番じゃないか?


 聞きたい事とか気になる事いっぱいあるし。


 でもまぁその前に。


「これ食えば?」


 俺がカルマンに差し出したのはコンビニのおにぎりだった。


 カルマンがぽかーんとした顔でおにぎりと俺の顔を交互に見る。


「まぁなんだ。お前が腹減ったとかばっか言ってるから、さっき駅でトイレ寄るついでに買っといたんだよ。俺も腹減ってたし。腹いっぱいになるほどは買ってないけど、とりあえず腹の虫くらいは治まるだろ」


 俺がそう言うと、カルマンは笑顔で頷いた。


「春待、ありがとう!」


「……どういたしまして」


 俺達二人は電車で並んでおにぎりを食べた。


 ちなみに俺は海苔がパリパリしてないやつは認めない。というか嫌いだ。なので俺がチョイスしてきたのはすべて海苔とごはんがセパレートしているやつだ。


 海苔のパリッという音と匂いが食欲をそそる。


 やはりおにぎりはこうでなくては。




「……なんや、ええ匂いがするな。わいにも一個分けてえな」


「……?」


 俺達と背中合わせの席に座っていた男が身を乗り出してこちらを覗き込みながらそう言った。


「……って、ん? この生き生きとしたくせ毛は、もしかして福介か? また会ったな! わいの友達! おにぎり食わせてや!」


 俺はその顔と、ヘタクソな関西弁に覚えがあった。


 糸目に、健康的に焼けた肌の色。


 そして今日の昼間俺達に缶けりで勝った男。


 『サイコメトリー』の能力者。


 織斗だった。


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