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春待福介の終幕  作者: ペポ
第2章 旅館編
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019 見えた希望と第二ラウンド


「織斗!? 大丈夫か!?」


 俺はすぐさま織斗に駆け寄った。辺りに散るガラス片など気にしない。とにかくすぐに織斗の無事を確認したかった。


「福介か……。すまんな、足止めできへんかった……。あないな風に啖呵切っといて、カッコ悪いな……」


 織斗は申し訳なさそうにそう言った。


「ぜんぜんカッコ悪くねぇよ!」


 カッコ悪くなんかない、織斗はカッコいい奴だ。俺は心からそう思った。


 織斗があそこで真木を引き受けてくれなかったら、俺はカルマンと合流することが出来なかっただろう。俺だけだったら、あの部屋で真木にやられてそこで終わりだった。


 だから、俺がここにいるのは織斗のおかげなのだ。


 誇っていいくらいだ。


「カルマンはどこにおるんや……?」


「あそこだ」


 俺がソファに横たわるカルマンを指差した。


「カルマンどうかしたんか……?」


 俺は織斗にカルマンが風邪を引いてしまったことと、薬が手に入らないということを伝えた。


「マジか……。これは、正直かなりヤバイで。おそらく、あいつらももうすぐ追いついてくる」


 織斗がそう言うのと同時に、破壊された玄関の方から数人の足音が聞こえた。俺が顔を上げると、そこには真木を含め先程よりも多い二十人ほどのテロリスト達が立ち塞がっていた。


「さあさ、観念するのだ」


 深い帽子で表情の窺えない真木は、そう言い放って警棒を俺と織斗に向けた。




 真木は警棒を構えたまま、一歩ずつ俺達に近づいてくる。後ろの控える他の『メロディーライン』の連中は警杖を互いに交差させ、俺達が玄関から決して逃げられないようにしていた。


「そこの坊主はサイコメトラーらしかったけど、ぜんぜん成ってないのだ。本当に強いサイコメトラーならおいらの警棒に触れただけでそこに残ったおいらの思念を一瞬で読み込んで分析まで終わらせるものなのだ。そこまでされれば、おいらの攻撃を完封され逆に一方的にボコボコにされるだけになるのだ。おまいはまだ全然それが出来てない。ちょっとおいらの武器が扱えるだけで満足してるような奴に、負けるわけがないのだ。だっておいらの方が、この武器を扱うのは上手いに決まってるのだ」


 真木はそう言って警棒を軽々と扱う。


「自惚れ過ぎなのだ」


 真木は冷たく言い放つ。


 俺から見ればその扱いは、さっき織斗が見せたそれと大して変わっているようには見えないが、それでもやはり違うのだろう。


 付け焼刃の織斗と本物の真木では、違うのだろう。


 だから織斗は負けたのだ。


 俺はグッと拳を握る。


 悔しい。


 負けたくない。負けるわけにはいかない。


 何か、考えなければ。


 奴に勝つ方法を。


 そう思い辺りを注意深く見渡す。ふと俺が真木の足元に目をやると、そこには先程フロントに置いてあって俺が手を伸ばそうとしていた宿泊者名簿が転がっていた。


「……っ!」


 あ、あれは!


 俺達の希望!


 『アルゴル・エルロンド』へと至るための唯一の手がかりが、敵の足元に!


 お、落ち着け、俺。


 真木を倒すことも大事だが、あの名簿を手に入れることも同じくらい大事だ。慎重にだ。慎重かつ大胆に、あの宿泊者名簿を取り戻さなければ。だが真木にあの名簿を狙っていると知られたくはない……。


 俺は織斗の地面に横たえ腰を少しだけ浮かし、いつでも動けるようにする。当然未来へとピントも合わせ済みだ。


 真木と他の『メロディーライン』を倒す、ないしは出し抜いてこの場を三人で切り抜ける。加えてあの名簿を入手する。これが今現在の目標だ。そのために思考し行動する。これ以上は望まない。多くを望んでも何も得られないだろう。二兎を追う者は一兎も得ず、だ。


 ホントはもう一回だけ温泉入りたかったけど、我慢しよう。


 俺はそっと織斗の手から警棒を預かった。




 俺はゆっくりと立ち上がった。その手には警棒。


「なんだ、またおまいがやるのか? おまいじゃ勝てないのだ」


 真木は余裕げに笑みを浮かべた。口元しか見えないが。


 “真木が一歩俺に近づいて名簿を踏みつける”


 そんな未来が俺の瞳に映し出された。まずい、大事な宿泊者名簿が!


「おおい、ちょっと待ったぁ!」


 俺は慌てて警棒を振り回し真木を制止する。真木は訝しんでいるが一応歩みは止まった。


「なんなのだ?」


 なんとか真木の次なる歩みを止めなければ。でなければ俺達の希望・宿泊者名簿が奴の足の下敷きに!


「そ、それ以上俺に近づくな。俺の半径四メートル内に入れば、俺の秘技“神の聖域サンクチュアリ”が発動し、お前の身体から魂が抜け落ち生きた屍と成り果てるぞ」


 俺はとっさに嘘をついた。


 我ながら意味の分からない嘘だった。


 魂が抜け落ちるって、こえぇよ!


「何言ってるのかよくわからないのだ」


 真木は俺の“神の聖域サンクチュアリ”をまったく恐れることなく(当たり前だ)、その足を踏み出そうとした。


 名簿ピーンチ!


 仕方がないと、俺は動いた。当然『予見』は使用済み。


 宿泊者名簿を手に入れるため、そして織斗とカルマンと三人でこの場を切り抜けるため、俺は真木へと再び挑む。


 ――俺と真木の、第二ラウンド開始だ。




 警棒を力強く握ると、前に飛び出しつつ真木の顔面狙って下から振り上げた。


「見えてるのだ!」


 真木は横に体をずらすことによって俺の攻撃を躱し、逆に警棒で俺の鳩尾に向かって強烈な突きをかまそうとする。


「……っ!」


 俺はそれを躱し警棒を大きく横薙ぐ。すると俺の予測通り真木はバックステップでそれを躱し、俺と一旦距離を置いた。


 しめた!


 俺はその隙に足元に落ちる名簿へと手を伸ばした。


 俺の手が名簿に触れるのと同時に、俺の身体が下から思い切り蹴り上げられる。一瞬息が詰まった。


「かはっ……!」


 俺はそのまま後ろに吹っ飛ばされる。だがその手には名簿をしっかりと握っていた。


「戦闘中に、何してるのだ!」


 俺が体勢を立て直そうとしたところに、すかさず真木の追撃が入る。いくら野球部で体を鍛えてるとはいえ所詮はただの高校生。痛みへの耐性などないに等しい。俺は先程の蹴りのダメージが残り、満足な反応が出来ない。


 真木の振るう警棒が俺の身体を打ち据える。関節・筋と体の要所を的確に狙ってくる。俺は真木の攻撃を半分も躱すことが出来ない。


「うわぁ……っ!」


「退いてるのだ」


 とどめとばかりに大きく振るった真木の警棒は俺の身体をくの字に曲げ、ロビーの壁へと吹き飛ばした。


「ぐはっ……」


 息が詰まる。


 血の味がする。


 体が動かない。


 やばい、死ぬかも。


 俺が地面に崩れ落ちるのを見留めた真木は、ゆっくりとカルマンのほうへと向かった。カルマンはそれに気づき立ち上がろうとしてソファから滑り落ちた。うっという小さな声が漏れる。


一作目アインスおまい、体調が悪いのか? それは好都合なのだ。好都合過ぎて宝くじが買いたいくらいなのだ」


 訳の分からないことをいう真木は、今度ははっきりと笑顔を浮かべていた。帽子(確かクラッシャーハットとかいうやつ)が深すぎて今までわからなかったが、地面に横たわる俺からはその顔が割とはっきりと見えた。その柔和そうな顔が凶悪な色に染まっている。


「やめて、来ないで……ゴホッ!」


 カルマンは弱々しくそう言うが真木はそれを冷たい目で見降ろす。


「この場で殺してもいいんだけども、こんだけ弱ってるんなら、いっそ班長んところに持っていってもいいのだ。そのほうが喜ばれそうなのだ」


 『持っていく』だなんて、まるでカルマンを物みたいに……。


 真木は地面に横たわるカルマンの胸倉を掴み乱暴に持ち上げる。


「い、や……っ! やめてっ! 離して!」


 カルマンはもがくが真木は離さない。帽子の下からカルマンをじっと見つめる。


「こんな女の子が人造人間ホムンクルスだなんて、世の中はほんと信じられないことだらけなのだ」


「お願いっ……、離してっ! た、助けて……!」


 カルマンは涙目になりながらそう呟いた。小さな声だったが、俺はその声を確かに聞いた。


 瞬間、俺の中でどうしようもないほどの衝動が巻き起こる。


 俺は傷ついた身体にムチ打ってカルマンの元に駆け寄ろうと試みる。


「大人しくするのだ」


 真木はカルマンを連れて行こうと肩に担ぎあげようとした――が、それは叶わなかった。カルマンを掴みあげる真木の片腕は、突如振るわれた警棒によって払われたのだ。


「何っ!?」


 真木は痛みと驚きでカルマンを手離し、突如間合いに現れた人物から距離を取った。


 真木に空中で手離され地面に落ちそうになったカルマンだが、その細い体躯は何者かの腕によって抱きとめられた。


 誰か。


 ――俺だった。




「あんたちょっとやりすぎだよ。女の子相手に胸倉掴むって何なの? セクハラじゃないの? うらやましいな」


 おっと最後の一言はつい本音が。


「春待……」


「大丈夫だカルマン。そこで大人しく待っててくれ。絶対手出しはさせないから」


 俺はぐったりとするカルマンをお姫様抱っこで元いたソファに優しく横たえた。そして警棒を真木に突き付け睨みつける。


「許さねぇぞ」


 俺はそう宣言した。


「……そんなボロボロの身体でどうやっておいらのふいをついたのだ? まったく気付かなかったのだ」


 真木からすれば俺はいきなり現れたように見えただろう。でなければ俺みたいな一般人が元警察官から一本取るなんてできやしない。


 じゃあどうやっていきなり現れたのか?


「死角をついたのさ」


「死角? そんなのどうやって見極めたのだ?」


 まぁわからないだろうな。


 死角、この場合は彼の『盲点』をついたわけだ。どんな達人にだって目の構造上絶対に盲点が存在する。俺はその盲点を、『予見』能力を使って見つけ出し、その死角から攻撃したのだ。どうやって『予見』を使ったのかと疑問に思う人もいるだろう。簡単な話だ。俺が彼に攻撃しようとする、すると『予見』で対処されるのが見える。それを繰り返して彼に対処されない攻撃点、つまり盲点の位置に当たりがつけられる。後はそこから実際に攻撃を行う、って寸法さ。


 『予見』を使ったノーリスクの戦闘シュミレーション。


 とっさに考えた方法だが、これはかなり使えるぞ。なにより俺が攻勢に出る契機になる。


「さぁ、真木。決着つけようぜ」


 俺が大上段に宣言する。


 と、そんな俺の前に立ち塞がる一人の影が。


「カルマンはわいの友達でもあるんや。ナメた真似は許さへん」


 健康的な肌の色、織斗だった。


 織斗は俺の手から警棒をひったくった。


「福介、あんたそないなボロボロな体で何ができるんや。大人しく座って茶でも飲んどき」


「うるせぇ。お前だって体引き摺ってるじゃねぇか」


 俺が織斗を睨むと、同じだけの強さで織斗は俺を睨み返してきた。こりゃ言うこと聞いてくれそうな雰囲気じゃなぇな、まったく。


「しょうがねぇ、ここは一つ、二人で力を合わせてこの危機を打開するといくか。正直一人じゃ万策尽きてたとこだ」


「わいの足、引っ張るんやないで!」


 俺と織斗は、先程にも増して強い視線を真木へと向けたのだった。


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