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3. 私、今回は実体があって空も飛べます。2027/07/27

 むか~し、といっても5年ほど前、大学1年の夏に異世界に吸い込まれて100年ほどフラフラと異世界で過ごした。私の異世界トリップは初めてではない。しかも、どうやら同じ世界。

 が、その時、異世界にいる間、私の体は半透明でフワフワと空中に浮いていた。いわゆる世間でいうゴーストとか、おばけ~! な状態であったわけで。


 自宅の部屋にいたはずが、光に包まれて光の粒になって空中に吸い込まれたかと思うと、見知らぬ森の大木の洞の中にいて、そこから外をのぞくと森だった。

 部屋みたいな洞で、下には柔らかい苔のような緑のカーペットが敷き詰められていて、ベッドの形をした出っ張りが2つあった。ベッドしかないツインの部屋みたいな感じ。ベッドの上も苔色のカーペットと言うかマットレスにビロードの質感で寝心地はとても、とても気持ち良かった。


 自分の手が透けて見えるのは驚きだったが、びっくりして思わず後ろにのけ反ったら、フワッと体が浮き上がった。空中に停止したまま足の先をパタパタしてみると、そのまま空中をスーとすべるように移動できて……。

 空を飛べたのが嬉しくて、部屋の中で飛び方の練習をしてから外に出てみた。

 空中水泳みたいな感じで楽しかった。そのうちに、あっちこっちと考えるだけで移動できる事がわかって、あの練習は何だったの! とちょっとがっかりした。


 森の中は静かだった。木々を抜けてしばらく行くときれいな湖があり、のぞいてみると私の姿は見えなかった。湖には草や木立が映っている。

 私はどうやら幽霊のような存在になったようだ。水は手ですくえたが口元にもっていっても飲めない。体が必要ないといっている。


 仕方がないのでその日は森の中をふらふらし、夜は木の洞の中に帰ってベッドで寝た。お腹もすかないしその他の欲求もおきなかった。

 生きていくのに苦労がなくてこの状況ではいいのかもしれない。それに、ベッドに横になると気持ちよい眠気に包まれたのは嬉しかった。

 翌朝、目が覚めたら賑やかな声が聞こえてきた。洞の外側から小さい子供たちがこちらを覗いている。


「あっ、起きた!」

「起きたね!」

「わーい!」

「遊ぼうよ!」

「だめだよ!まだ起きたばかりだよ!」

「こっち見た!」

「見たね」

「見たよ」

「わーい!」

 あれ!? あの子供たちはいったい何なの? 昨日は居なかったよね。


「えーと。あなたたちは?」

「しゃべった!」

「わーい!」

「しゃべったね!」

「こっち、見ている」

「わーい!」


 どうしよう……。1~2歳の大きさの子供? 幼児?……というか、おとぎ話の妖精みたいな……小さい子がたくさん……。


「皆の者、静かに!」

「姫さま、お話しさせていただいても、よろしいでしょうか」

 ひとまわり大きい幼稚園サイズの子供が声をかけてきた。でも、姫さまって……。


「お部屋に伺ってもよろしいでしょうか」


 お部屋ってこの洞の事ね。


「どうぞ、よかったら、こちらへ」


 大き目の子供は丁寧に一礼した後に洞の中に入ってきて、私の前に膝をついて又頭をさげた。両手は膝の上に揃えている。

 丁寧すぎるような……。


「ありがとうございます。私は森を束ねております精霊の最長老、リヨンと申します。世界は真実の終末に向かい、私たちも最後の眠りにつこうとしていたところ、突然に不思議な力が満ちて眠りから覚めました。本来の力を失い、子どもの姿となっておりますが、姫様のおかげをもちまして、こうしてまた、戻ってくる事ができました。」


「真実の終末?」


「眠りについてしまったため、思い出せないところがまだ多くございますが、世界の加護がすこしずつ薄れていき、精霊が生きていく事ができなくなっていったのです。『加護が消え精霊が眠りにつき、その姿がついに消える時、世界は真実の終末を迎える』という言い伝えがございます。その言葉のとおり、精霊の小さき者より少しずつ歳を減らし、目覚めぬ眠りにつき、終には消滅していったのでございます」


「あなたは……?」


「わたくしは、一番長く生きた精霊の長でございます。あの、小さき子供たちは、歳を重ねた精霊の長老たちでございました。今は、すっかり子どもに戻っていますが……」

「あ、あの、私は何か関わりが?」

「わかりません。ただ、姫さまが尊いお方というのはわかります。姫さまがいらっしゃる事で、加護が少しずつ増えていくのが感じられます。わたくしが又、歳を重ねることにより失われた知識が戻りましたら、姫さまの事もわかるようになるのでは思いますが……」

「お歳を重ねたら思い出すの?」

「はい、それが確かだという事は、なぜかわかるのです」

「私は、どうしたらいいのでしょう?」

「ただ、いらっしゃるだけで……ありがたく嬉しいことでございます」


 というやり取りがあった後、私は『はじまりの森』という名の森で子どもの精霊たちと遊んで暮らした。本当に朝から遊んで夜になるとぐっすり休んでという毎日を50年ほど繰り返したら、子供たちはスクスクと少年、少女に育っていった。


 ――育つのが、遅いよ~。


 そして、さすがにここの素朴な生活に飽きてきたので、『はじまりの森』を出て世界をフラフラと放浪してみた。

 一応、『はじまりの森』を拠点にして色々なところをあてもなく旅をする。

 食事も着るものもいらないし、寝るところも精霊たちに見習って大きな木の上に横になると、そこがスルスル~と広がってベッドのようになるのでとても楽な観光旅行だった。


 人には姿が見えないらしくて、ちょっとした人助けとかしつつノンビリと日々を過ごしていた。だけど『はじまりの森』のある『ハジーマ大陸』と海峡をはさんだ『シバーン大陸』の北の端にある『9番目の森』に行った時に『ゲスターチ帝国』の『封印の精霊狩り』に巻き込まれてしまう。


『勇者と巫女』には私の姿が半透明だけど見えたので協力し合う事ができたのは良かった。

 それがちょうど異世界に来て100年目の事。

 まさか、精霊を捕える人々がいるなんて驚いてしまった。その時は色々な事があったが、なんとか試行錯誤してゲスターチ帝国の野望を阻止して精霊も解放する事ができた。


 そして、召喚陣を裏返しにすることで、現代社会に戻ってこられたわけで。

『ゲスターチ帝国』いわくの『勇者と巫女』とともに元の世界に戻れて「良かった~」とあの時は3人で手を取り合って喜んだ。

 それに戻ると同時に半透明だった私の姿はきちんと実体に戻っていた。そのまま幽霊にならなくてよかったと安堵して気が抜けた。 


 現実世界に適応するのは少し苦労したけど夏休みだったのが幸いし、普通の人になれた。あれは胡蝶の夢みたいなものかな~なんて思っていたのに。

 コビトが視えるようになったのは誤算だった……しかも私だけ。

 でもきっとあれは守護霊の一種、多分そうに違いない。


 それにしても、今回は実体があるみたい。

 以前、異世界トリップした時には幽霊みたいに飲食の必要はなかった。が、今回は実体がある。手も足もあるなんて素晴らしい。これは良い事だ。

 けど、うーん。前の時に美味しそうな食べ物を食べられないのは辛かったというか、つまらなかった。けれど、飢えてしまうのは困る。どうしよう。


 周りを見回してみると、あれ、この森は随分弱っている。それは何となくわかる。どうしたんだろう。

 でも、えーと、確かこの木は赤くて桃みたいな実がなっていたような記憶がある。今は何も生っていないけど、こう、葉の間から桃色の丸い実が見えていたような。ちょっと触ってみたら、おおっ、触れる。木の感触がスベスベしている。気持ちいい。


[むくむく~]

[むくむく~]


 触ったところから木の皮がシャキーンと張ってきて緑の葉がむくむく~と伸びだして、小さな実をつけたかとおもうと、あっという間に大きく美味しそうな桃みたいな実がなった。


「えぇー! ファンタジー!」

「でも、ありがとう」


 不思議だけど早速、実を取って食べてみる。

 なんと、桃! 高級な箱に入ったご贈答用の桃! なんとジュウシー! 感激! 箱に入った高級桃を食べた事は、ないけど……とにかく美味しい。甘くてとろってしていて軟らかくいい匂い。

 以前は、食べる事のできなかった桃もどき……もう、桃でいいかな……は非常に美味しくて満ち足りた気持ちになることができた。

 大変美味しい桃だった。人にとって食は大切である。


 ところで……、先ほどから気になっているのが、半透明のコビトたち。あちこちの草の上や木々の影からこちらを見ている。こちらを向いているけど踊っていないし人間についているわけではないし、何というか野生の動物がこちらを窺っている雰囲気。


 桃もどきが食べたいのかな。そっと、コビトのほうへ桃もどきを転がしてみると皆でワラワラと群がってきた。

 そして何人かが空中に浮くと上から皮をスルスル~と滑り落ちるようにむいて、手品のように何処からともなくスプーンを取り出して食べ始めた。

 スプーン、どこから取り出したの?  コビトサイズで考えるとスコップの大きさになるスプーン。半透明だけど色とりどりのスコップいや、スプーン。


 ちなみにコビトたちの服装も色とりどり。服の形はシンプルなストーンとしたワンピースで、真ん中を飾り紐でとめている。

 そして、服と色がお揃いの三角帽子。見た感じはあちらの世界のコビトたちとそっくりだけど……ここのコビトたちは雰囲気がコロボックルみたい。コロボックル、見た事はないけどね。昔見た絵本に出てきたコロボックル。マイナーな本だったみたいで、でもその絵はかわいらしかった。

 よくあるコビトの絵ってあんまりかわいくないのが多いと思うけど何故なんだろう。


 コビトたちに餌付けをしたつもりはないのに、嬉しそうにぺこぺこと頭をさげたり手を振ったりしてきた。近づいてはこない。でも何となく好意は伝わってくるしコビトの人数も何気に増えてきた。

 以前、こちらへトリップした時にはこんな半透明のコビトたちはいなかった。これは視えなかったものが視えるようになったという事なの? それは、新たな能力の発生? それとも、コビトがこの世界でも発現した?


 まぁ、それはともかく、この後どうしよう。桃だけ食べて生きていく事はできないし、さすがに飽きる。『はじまりの森』も気になるし。空が飛べたら楽だけど……。以前は最初、こうトンと飛んで……。

 と前の事を思いだしながら同じように軽くつま先でジャンプしてみると

 おぉ! 浮かんだ。


 実体があるのに、浮かべるなんてすごい。質量保存の法則はどうなっているの? あれは化学変化の時のことで、ファンタジー変化は問題無し? 不思議だけどいいとして、前のようにスイーと、こう、……飛べた。スーイ、スーイと思うがまま飛び回る事ができる。これで体も半透明にできたら……完璧……。だけど、どうしたら

 いいの?


「うぅーん」


 それは、無理みたい。

 でも、人がスイスイ空を飛んでいたら、変だよね~。前に来た時にも空を飛んでいる人はさすがに見なかったし……。この世界は魔法が普通にある世界で、生活魔法みたいなちょっと火をつけたり、風をおこしたり少しの水を出したりする事は人間の世界でも当たり前にしていた。大きな魔法は、それなりの準備が必要になるそうだけど……。


 それにしても、このまま此処にいたらまずい。この『ゲスターチ帝国』は、はっきり言って悪い国で、封印の精霊とか世界を崩壊から救うとか言っているけど、それは大嘘。

 私は知っている。

『封印の精霊』って森の精霊を魔法陣で縛り付けて精霊のマナを吸い上げ、その吸い上げた力で奇跡をおこす。

 帝国の人間にとって都合の良い奇跡を……。


 マナというのは命の元になる根源の力の事で、マナを使うと大きな魔法を使う事ができるのだ。

 帝国が召喚した巫女は精霊を鉾にかいた魔法陣に縛り付けて鉾に閉じ込める力をもっている。勇者は全般的に能力が高く、帝国の神官達が精霊の力を封じ込めた神刀を自在に使いこなすことができる。彼らは救国の英雄として神官たちに騙され、精霊をさらってきて封じ込め帝国の奇跡のために働くことになる。自分たちが何をしているのか何も知らずに……。


 前回の帰る間際、鉾に描かれた魔法陣は壊したし神刀も破壊したのに、又、作ることができたの!?


 あれは、有ってはいけないものだ。

 忍び込んで壊したいけど、今回は私の実体があるとなると、どうしよう……前の手はつかえない。何とか方法を考えなければ。


次回「『九番目の森』と『始まりの森』」


【コビトの観察、あるいは考察】

半透明のコビトたちは自由気ままに森に生きている。基本的に森の外には出ない。

特に食べ物は必要としないが、ごくたまに、森にきた人が食べているものに取りつく事がある。


「あれ?! この肉、味がしない」

「んん? いつもの味だよ」

「おかしいな……」

「体調が悪いんじゃないか?」

「……そうかも」


それは半透明のコビトのしわざ。丸ごといただく事もあるが、エキスだけ吸い取る事もある。


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