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小話1.  『アーサーの剣』

穏やかな日差しが差し込む午後。


 精霊女王こと早乙女桔梗と早乙女蓮が精霊の国に移ってしばらく後。

 桔梗は異世界をアチコチ見て回る事が増えたが、蓮は精霊国でお菓子を作ったり、精霊たちと様々な交流をして異文化を楽しんでいる事が多い。


 ある日、桔梗がニバーン国から帰ってくると、

 ふと、聞こえてきた旦那様の蓮の声に、バルコニーから下をのぞいた。すると、蓮と精霊のルルが剣を持って向き合っていた。周りをグルリと騎士の服装をした精霊たちに囲まれている。

 二人はかなり、真剣な顔をして刃をかまえていた。


「うそ……、何をやって」

 桔梗の声が聞こえたのか、下にいた皆が上を振り向いた。


「お帰り。早かったね」

 蓮が明るい声をかけてくる。


「何をしているの? 危ないわ」

「ああ、大丈夫。この剣、精霊は切れないんだ」


「そうです。あたっても、スカッと通り過ぎます」

 ルルが得意そうに答えた。


「それって?」

「宝物庫の剣です」

「えっ?」


「ほら、宝物庫にあった『アーサー王の伝説の剣』、だろ?」

 蓮が剣を持ち上げて見せてくれた。剣は日の光があたってキラキラしている。


「宝物庫……」

「姫さま、石に刺さった剣ですよ。有名な剣だそうですね」


「抜いたらね、こう、スポットライトに照らされて『選ばれし勇者よ、その剣を握り真実の道をさがせ』って言われたんだ」

 蓮は嬉しそうだ。せっかく剣が抜けたので、他の精霊たちと稽古を始めたという事だった。


「あ、あれ? ……うそ」

 桔梗が脱力している。


「あれ、だめだった? この剣、『アーサーの剣』って、皆が持っているって」

 蓮が首を傾げる。


「皆?!」

 桔梗の声に


「姫さまはあまり、宝物庫に興味がなかったようなので、剣が欲しいものは誰でも持っていって良いとしていたのですが……やはり、姫さまから与えられる形のほうが良かったのでしょうか?」

 精霊の最長老リヨンが心配そうに尋ねてきた。


「誰でも?」

「ええ」

「でも、剣は一つ、ですよね」

「はい。ですが、ご安心下さい。引き抜いてしばらく経つと又、新たな剣が現れるのです」

「そ、そうなんですか」

「ええ、あの剣は昔、姫さまがスケッチブックに描かれたものを石ごと、取り出して置いたものでして、剣を中心に宝物庫を造り、宝物庫を中心にして宮殿を造りました」


 リヨンによると、城にいる騎士の恰好をした精霊たちは皆、その『アーサーの剣』を帯刀していて、

 今回、蓮も何か武器を持ちたいというので、宝物庫に案内したとの事だった。

 そして、子どもたちもこの『アーサーの剣』を持っているという。


「とても喜ばれていました」

 リヨンが言うと


「ああ、さすが、カーさまって。それと、よくカミィから金貨をもらうんだけど、良かった?」

 蓮が金貨の事を聞いてきた。


「金貨?」

「落ちているのを拾っていると、言っていたけど?」


「ああ、金貨はわざと、溢れるようにしているのです。宝箱から金貨が溢れて、床にもあちこち散らばっている様子が絵に描かれていましたから」

 また、リヨンが答える。


「えっ? じゃぁ、もらっ」

 あわてて、蓮が言いかけたのに、


「いえいえ、すぐに元に戻りますからかまいません。金貨が金貨を産むのですよ。片付けているつもりでしょうし、せっかくですから、貰ってあげて下さい」


 という事で、桔梗が秘密にしていた、というか無かった事にしていた『宝物庫の石に刺さった剣』はとっくの昔に『剣、製造機』として利用されていたのだった。


 いまさら、なので知らぬ顔をして

「そういう事なら仕方ありません、ね……」


 と桔梗は答えたが、セリフについては何かもっと無難なものに変えてもらわなくては、と思ったのだった。


次回「小話2. 納豆」

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