クリスマスの訪れ
カタカタ、カタカタ。
祐一は、この規則的なリズムが好きだった。
電車の中で読む小説は、自宅や図書館で読むのとはまた違った趣があるのだと、彼はいろんな人に説いていたくらいだ。
そんな彼に初めて共感してくれたのが亜希だった。
-匂いだとか音だとか、そういうちょっとした刺激が、本の世界を盛り上げてくれるんだよね-
読書好きな友人でも、本の世界に入ってしまえば同じだと一蹴された経験があるだけに、共感してくれた亜希の存在は彼の中で大きかった。
「ねえ、さっき何の本を読んでたの?」
騒がしい電車の中で、亜希は祐一にだけは聞こえるように耳元で問いかけた。
「ああ、ほら僕の一番好きな先生の最新作だよ。」
本のことを話す祐一のことを、亜希はまた好んでいた。
趣味のことで語り合える友達がいなかった彼女にとっても、祐一の存在は唯一無二になっていた。
「あの先生、おすすめされてから読み始めたけど、世界観がすごいよね。実際にはありえないことなのにすごく深いというか。」
「あの先生の得意な手法だよね、もしこんな世界なら、っていうのを現実的に表現していて。」
完全に二人の世界。
デート本番ではないというのに、彼らはとても楽しんでいた。
本についての語り合いは目的の駅につくまで中断することはなかった。
電車を降り、普段から行きつけの喫茶店でランチをとりながらも、二人とも読んだ本についての見解や、新しい小説家の話など、本についての話題は止まなかった。
結局その日のデートコースも、予定通りのコースではなく、普段通りのデートコース。アクセサリーショップ、本屋、公園で散歩。
全く派手じゃないが、高校生らしい純粋なデート。
そうして19時。
充実した時間はとても過ぎるのが早く、亜希の門限がもうすぐであることを告げる公園の時計を、二人とも名残惜しそうに見ていた。
駅へと向かいながらも、彼らの笑顔は絶えなかった。
ずっとこの時間が続けばいいのに、なんて口には出さなくとも、二人の思いは共通していた。
「じゃあ、またね。」
地元の駅へと帰り、亜希がデートの終わりの言葉を紡ぐ。
「今日も楽しかったよ。」
「うん、僕も。またね。」
祐一はバイバイと手を振り、彼とは反対の帰路に着くのを見送った。