第3話 惹きつけるモノ
ドォォン
「きゃっ!!」
本日、何度目かの訓練を行っていた二人であったが、リオンがティムの体当たりで吹き飛ばされて、ミオのそばにある本棚まで弾き飛ばされた。
態勢を崩しながらもリオンは、迫ってくるティムにお返しとばかりに蹴りを加える。そしてすぐさまリオンお得意の技巧を活かした小剣での連続切りの体勢に入いる。
ミオから非難の声が上がっているが訓練に集中している二人の耳には届かない。
腰を落として、力をため込むような体勢になったリオンを見てティムは焦った。
リオンが放つ連続切りにはいつも苦労させられるのだ。ティムは後に下がって、その連続攻撃を受ける準備をする。
左から小剣の薙ぎが飛んでくる。ティムはそれを躱すが、小剣はすぐに切り返し、右からの切り上げが襲い掛かる。
ティムはそれを長剣ではじいて前に出ようする。
しかし、リオンの方が早かった。リオンは、弾かれた力を利用して、後ろ回し蹴りの要領で回転すると、遠心力を乗せた刃に体重を加えて切りかかる。
ティムはリオンのトリッキーな動きにもなんとか反応して、長剣を咄嗟に上げるが間に合わない。
左の肩に刃が食い込み、思わずうめき声をあげた。それでも、リオンは止まらない。ティムの体を蹴り飛ばし、バランスを崩させ、わずかに距離をとると、そこから一気に突きに掛かる。
リオンの決め技、三連突きだ。
バランスを崩しながらも、一撃目を長剣の腹で受け、顔に向けられた二撃目は、体をのけ反らせて避ける。のけ反って足を踏ん張れないティムに体ごとぶち当たりにくるような最後の一突きが飛んでくる。
ティムは力任せに長剣を振り回し、小剣の軌道をずらすが、リオンの突進は止まらない。
リオンの肩がみぞおちに入りる。ティムは息が出来ない。
「やっと僕の勝ちだね。」
「かぁ~、負けたよ。」
顔面に突き付けられた小剣を見て、潔く負けを認める。
ガラガラガラ
何度目かの決着の時、後ろで強大な石を擦り合わせたような音がして、振り返った二人は驚いた。
「壁が動いてるっ!」
「ミオ!!何をした!」
「ほっ、、本棚にあったボタンを押しただけよ。」
驚いた拍子に手に抱えた本をボロボロと取り落としながら、ミオは答える。
ミオは、リオンがぶつかった衝撃で棚から落ちた本を元に戻そうとしたところで、隠されていたボタンを見つけたのだった。
「どうしよっか…」
今や、大人が一人通れるほどの広さの通路が現れた壁を見てミオが問いかける。
「そりゃもちろん行くだろうがよっ!!」
「うん。仕方ないよね。」
ティムの肩から流れる血も新たな魅惑の前では意味をなさない。
冒険の匂いがプンプン漂う通路に目を輝かせるティムに、通路に続く怪しげな階段を見つめながら頷くリオン。
もちろんの事だが三人とも冒険は大好きである。
壁が動いた大きな音で目を覚ましたライが呑気そうに、これまた大きな口であくびをしている。ライが警戒していないとこを見てみると、魔物とかはいなさそうだ。
「ホンッと男の子って生き物は…」
目を輝かせる二人を見たミオは、あきらめるしかないことを悟り、通路の先に何が待ち受けているかはわからないので二人の傷を癒すことにした。
重ねて言うが、三人とも冒険は大好きなのである。
「何かしらこれ?」
「何かいいもんねぇかなぁ~」
通路の階段を下っていくと、先ほどの部屋より少し小振りの部屋が一つあった。そこに見たことも使い方も良くわからない物が所狭しと置いてあった。
ティムはそんな部屋の中で、うず高く積まれた荷物の山を漁りだした。
魔術師が好んで使うようなローブや女の子が好きそうな橙色の宝石が付いたネックレス、魔術師の杖等の自分が興味を抱かなかったものについては、無造作に投げ飛ばしながら荷物の物色を続けている。
ミオは机の上に置かれた水晶玉に見入っていた。透明ながら、やや緑がかった水晶の中を濃い緑色のモヤがうごめいている様子は、どこか神秘的で見る者の気持ちを癒してくれる。
リオンは部屋の奥の方に黒い布で覆われた物に興味を覚え、奥へと進む。
覆いを外すと大きな透明な容器があり、中には何か液体が入っている。液体の中には、ダチョウの卵ぐらいの大きさの卵が浮かんでいた。
「何の卵だろう。ライわかるかい?」
くぅぅ~ん
リオンは力なく答えるライを振り返りもせずに、吸い込まれるように不思議な卵が入った容器に近づく。
容器には色々なボタンが付いた金属製の板が付いていた。興味本位で、その中でも一番大きなボタンを押してみるリオン。
すると容器に満たされた液体が抜け出し始めた。液体が抜けきり透明な容器が奇妙な音と共に下の溝に吸い込まれていく。
最後には卵だけがそこに残された。
「温かい、まだ生きてる。」
どれぐらいの年月、そこにあったのかはわからないが、リオンは卵の中で命が育まれていることを確信した。両の手のひらで抱えても、少しはみ出るぐらいの大きさの卵を割れないように布でくるむと、自分の鞄の中にそっと閉まった。
「ミオこれいいだろぉ~」
ガチャンッ
「ちょっと、ティム何すんのよ!!」
ティムは荷物の山から使えそうな革鎧を見つけ出し、身に着けた姿を見せようと、荷物の山の上から飛んだミオに向かって飛び降りた。
いきなり飛んできたティムに驚いたミオは水晶玉を落として割ってしまった。
ミオの手から滑り落ちた水晶玉からは、中でうごめいていた緑色の煙が噴き出していた。
その緑色の煙は空中で集まっていく、その中から小さな精霊が飛び出してきた。
「君誰? シルフ?? えっ!? 風の精霊のシルフなの!?」
「ミオ何を言ってるの?」
「頭打ったか?」
いきなりわけのわからないことを言い出すミオを、二人は訝しげに見つめる。
二人には精霊の姿が見えていないのだ。
そもそも、このサースランドの世界では、大精霊はもちろん、その下位精霊であるシルフやサラマンダーといった精霊の姿すら見た者はいないという。
風の中や火の中に何かがいるような気がしても、目を向けてみると、その姿はなく、精霊力(霊力)が強い者が、その体内で練りこんだ霊力に乗せて願いを唱えると、精霊魔法によってその力の恩恵に預かることが出来るだけだ。
そのため、すべてが高い霊力を持ち、言葉を話せるようになったばかりの子でも簡単な精霊魔法なら扱ってみせるエルフ族であっても、その姿を見た者はいないのだ。
そんな話ですら聞いたことのない、自称、風の下位精霊であるシルフを見るだけでなく、話をしているミオがどこかおかしいのだろう。
「助けてくれてありがとね。僕はこの球に封印術師のオッチャンに何万年も閉じ込められていたんだ。」
「水晶玉に?」
「そうだよ。ずっと昔に精霊の力を思うままに操り、その限界を超えて引き出そうとした奴らに閉じ込められていたのさ。」
「大変だったのね。」
話の中身をよく理解できないミオは適当に返事をする。そもそも水晶玉に閉じ込めたからといって、精霊の力をそんなに自在に操ることなど出来るわけがないと考えていたのだ。
「ふふふ。まぁ、なんでもいいよね。お礼にミオさんの力を引き出しといてあげたから、楽しんでね。」
「えっ!!どうして名前を知っているの!?」
「ん~、そろそろ帰りたいんだけどなぁ、、、まぁ、仕方ないから教えてあげるよ。
僕らはどこにでもいて、全てが一つに繋がっているんだ。
今は世界の霊力がまだ回復していないみたいだから僕たちが見える人なんてめったにいないんだろうけどね。」
「よくわからないわ。」
「あはっ、ハイ・エルフの癖にそんなことも分らないのかい?
しばらくの間に世界はずいぶん変わっちゃったんだなぁ。」
「ハイ・エルフって何?」
「あはははは、あは、、、ごほっ。
もぉやめてよ。笑いすぎて死んじゃうじゃないか。
四大精霊の祝福を受けたエルフのことをハイ・エルフって言うんだよ。ミオちゃんは風の大精霊様の祝福を受けたみたいだね。
まぁ、出てきてそうそう楽しかったよありがとね、ミオちゃんのこと気に入っちゃったから、読んでくれたらたまには顔を出してあげるよ。じゃぁーねー。」
「えっ!!? ちょっと待ってよ!! シルフ!!」
シルフはほぼ一方的に話をした後、存分にバカにした笑いを残してどこかに去って行った。
「シルフ出て来てよ!!
もぉっ!!
呼んでも出て来ないじゃない!!」
「ミオ? 本当にどうかしたの?」
「まぁ、ミオがおかしいのはいつも通りだろ。」
「うっさいわねぇ。
さっきまで、風の精霊シルフに大事な話を聞いてたのよ!!
ハイ・エルフの私をバカにしてんじゃないわよ!」
「ハイ・エルフ?」
「何だそれ?」
「...私も良くはわからない。けど...」
ミオ自身も良く理解できなかった話を二人に伝えながら、村に帰る一行であった。
ミオは道中、男達には見えない何かを見つめていたかと思うと一人で驚いたり、独り言をつぶやいたりと、エルフが引き出してくれた新たな力を存分に楽しんでいた。
2013.12.25改稿 様式変更、誤字脱字修正
2014.01.29改稿 追加・修正、大筋変更なし