第10話 歴史の欠片
今までより少し長めです。内容も設定部分が多いので読みづらいかもしれません。
部屋を大体見終わったセキはリオンがすり鉢を抱える背中に、自分の背中を預けていた。
ビーストテイマーの血を引くリオンはどうやら、セキの心まで手中に収めたようだった。
背中を伝わってくる体温がやや高いのは、今日の戦闘に疲れたセキの体が睡眠を欲しているのであろう。
「それにしても、この遺跡は本当に凄いものだなぁ。」
セキの口調からは眠さが感じられない。疲労感よりも好奇心の方が勝っているようだ。
「なんかわかったのか。」
治療を終えたティムが話に食いついてくる。ミオはそのままの場所で、独り言をつぶやきながら、霊力を溜める練習に取り組んでいた。
今日の戦闘でのことが、よほど胸に残っているようだ。何度も回復魔法を唱えたミオも疲労はかなり貯まっているだろうに、自分の非力さが許せないミオは熱心に自分と語り合っている。
かと思っていたのだが、聞こえてくる会話を聞いているとどうやら、シルフと話をしているようだ。
直接精霊に霊力のことを聞きながら練習に励んでいるのかもしれない。
「まぁ、まだわかったことは少ないが、どうやらこの遺跡は、歴史が失われた時代ぐらいの物のようだ。これほどの魔法の痕跡が残っているとなると、魔力が失われた時代よりも前のものかもしれないな。」
セキが先ほどのティムの質問に答えていた。背中はリオンに預けたままに、目線は宙に向けられている。
「ん? 魔力って失われたのか?」
「そうなのだ。今の時代も魔力は失われたままだと言えるのだぞ。何せ、魔法を使える人間は私を含めてほんの一握りしかいないのだからな。」
「その言い方だと、昔は皆が魔法を使えたみたいに聞こえるよ。」
「まさにその通りなのだ。実際にそういった記述が書かれている文献もあるのだ。
魔法は日常生活には欠かせなかったようでな、掃除や洗濯、食物などを採取するのにすら魔法を用いていたようなのだ。」
「全く想像できねぇなぁ。魔法ってのは敵を攻撃するもんじゃねぇのか。」
「確かにそういった魔法は多い。私が使ったファイヤーも攻撃系の火の魔法だしな。しかし、今となってはその方法はわからぬのだが、生活に根差した魔法も数多く存在していたようだ。」
「ふ~ん。それっていつごろの話なの?」
「細かい年代はわからんのだ。
何せ、魔力が失われた時代に文明が一度滅びているような痕跡があるのでな。そこから、歴史を記した文献があまり見つかっていないのだ。
魔力が日常生活に必要不可欠なものであったのならば、それが失われれば、人間が滅びることもあり得るだろう。今の時代で考えれば、手足をもがれてしまったようなものだな。」
「納得できねぇなぁ。実際に手足が無くなったわけでもないだろうに、そんな簡単に人間が滅びるもんなのか?」
「これは、推測なのだが、その時に大きな災害があって、街などが全て壊されてしまったのではないかと言われているのだ。
その後の時代にも地震やドラゴンの襲撃によって、街が何度も破壊されている痕跡が残っている。
そもそも、遺跡は石材で造られているのに、今の建造物が木材製だというのも可笑しいのだ。魔力が失われた影響で、それまで起っていなかった地震が頻繁に起るようになったのではないかと考えられているのだ。」
「昔は地震がなかったのかぁ。それはなかなか良さそうだね。」
今の時代、地震は頻繁に怒っており、小さいモノも合わせるならば三か月に一度は地面が揺れる。
コムル村は風の精霊の加護があるためか、大きな被害に見舞われたことはないのだが、大きな街では毎年何百人もの被害が出ている。大きな街でも数千人の規模しかないのであるから、この被害は尋常ではない。
こうした自然災害によって貴重な人材が失われることがなければ、文明はもっと早くに進んでいたことであろう。
ドラゴン襲撃による被害も尋常ではなかった。何百年単位で休眠期と活動期を繰り返すドラゴンではあるが、活動期に入った途端にそれまでのうっ憤を晴らすかのように、人間の街に襲い掛かってくるのだった。
活動期の当初に激しい運動を行ったドラゴンはそのまま、巣で大人しくしているのではあるが、巣に近づく人間を襲うことも多いのである。
現在も、北東の火山帯には火のドラゴンが活動期にはいっており、その当初には鉱山都市ギブリスが壊滅状態にまで追い込まれていた。百年ほどの時間をかけて、今は復興も終わっているものの、火山帯の鉱石堀を生業としている国であるため、いまだに毎年大量の死者を出してしまっているのである。
「まぁ、地震の方はどうにも出来なねぇが、火のドラゴンは俺が退治してやるさ。」
「英雄ガルドになるのが、ティムの夢だものね。」
それまで、霊力の練習に励んでいたミオも会話に加わった。
英雄ガルドとは、サースランドに残る火のドラゴンと風のドラゴンの二匹の内、二百年ほど前に風のドラゴンを打ち取ったドラゴンスレイヤーである。
その身長が低かったために、ドワーフであったと言われているのだが、その真相は明らかではない。というのも、出生は鉱山都市ギブリスであるため、ドワーフであっても可笑しくはないのだが、ギブリス国家を支える貴族の血を引いているとも言われているのだ。もし彼が貴族だったとしたならば、なぜ戦闘に明け暮れていたのか、風のドラゴンを単身討ちに行ったのか、そのあたりの事情を知る者がいないのであった。
事実として伝わっている話だけであれば、王都ローレンス(以前の要塞都市)が北西にそびえ立つ山から溢れ出てくる魔物たちの最前線都市として活躍しており、まだ国としての機能を有していなかった頃にまでさかのぼる。
その頃のローレンスは、なぜだか北西の山脈地帯から、途切れずに溢れ出てくる魔物を退治するために集まった冒険者とその家族で成り立っていた。
その冒険者の中でも飛び切りの強さを誇っていたのが、英雄ガルドであった。
当時はドラゴン退治などは行っていなかったのだが、魔力を帯びた大剣を用いて単身魔物の巣窟に乗り込んでは、戦果をあげていた彼は、すでに英雄と呼ばれていた。
その姿は鬼の様であり、小さな体に、体よりも大きな剣が印象的でその姿を見れば、魔物すら逃げ出したと言われている。
そんな英雄ガルドの冒険譚は、ローレンスにあらわれた頃から始まり、風のドラゴンを討ったことで終わっている。その後の人生をどのように過したのかについては物語を聞かされて育った、少年たちの夢の中だ。
ティムも夢物語にガルドの話を聞いて育った。寝る前に母親がしてくれるその話に興奮して、毎晩夢の中では、ガルドと共にドラゴンと戦っていたそうだ。
「英雄ガルドなどと、そんなもの実在すら怪しいものだ。」
「なんだとっ! ガルドをバカにするのか。実際に風のドラゴンは死んでいるじゃねぇか。」
「それが、眉唾物なのだ。旅の道中聞いた話だが、風のドラゴンの巣穴にたんまりため込まれた宝の山を盗みに入った盗賊がいたそうなのだが、そのまま生きて帰っては来なかったそうだぞ。」
「そんなの、その盗賊が弱すぎてそこらの魔物にやられちまったんだろうよ。」
「まぁ、夢見る少年君には信じがたい話なのだろうな。」
「ほんっとにオメェは口のきき方ってもんを知らねぇな。一回、その体に叩き込んでやろうか。」
「まぁ、そんなに怒らなくてもいいんじゃないかしら。なんか、この話し方が普通だと思うと、慣れてきちゃったわ。」
「けっ、好きにしろ。」
今までなら、一番にセキと言い争っていいたミオまでに裏切られて、ティムはふて寝してしまった。
会話が終わってしまったために、ミオはまた精霊魔法の練習に取り掛かり、セキも暖かな背中を離れて、本棚の方へと足を運んだ。
背中が急に寒くなったリオンは眠りの誘惑にウトウトしているローザを眺めている。
リオンの耳にミオの声が聞こえてくる。
「えっそんな魔法もあるの? どうやったいいか教えてください、師匠!!」
どうやら、いつの間にか、シルフはミオの師匠へと格上げされているようである。
セキは三人がどうやっても開けなかった本を難しい顔でにらみつけている。
ふて寝していたティムは、激しい運動を禁止されてはいるものの、何もやることがないというのも耐えられないようで、幅広剣を取り出して、体を使わず腕だけで振り回して、その重みや長さに手が馴染むようにしている。
「わかった!!」
「どうしたの?」
輝く表紙を親の仇のように睨みつけていたセキが叫んだのを聞いて、ティムとリオンが駆け寄った。
ミオはさきほど師匠に格上げされたばかりのシルフの話を真剣に聞いているようだった。
「この本の開き方がわかったのだ。かつての主が相当に複雑な封印魔法を施しているようだが、そんなものは、私にかかれば児戯に等しい。」
「それにしちゃぁ、ずいぶんと渋い顔で睨みつけていたようだったが?」
「うるさいっ。頭の悪い貴様にはわからぬだろうが、ここの主は封印魔法に長けた者だったのだ!」
「いいから開けよ。」
「言われずともわかっておるわっ。」
セキは本に手をかざしながら、何かをブツブツと唱え始めていた。
その手からは、素人にも分るほどの大量の魔力が注ぎ込まれ、固く、何重にも結ばれていたヒモが、ゆっくりとほどけていくような奇妙な感覚があたりを覆っていった。
しばらく魔力を注ぎ続けていたセキであったが、キィィンという妙に甲高い音が響いたかと思うと、本がひとりでに開きだした。
「ふふふ。私にかかればこの程度なのだ。」
やたら自慢げに、ない胸を張らせたセキが、その言葉を独り言のようにつぶやくと、開き切った本を読み始めた。
「なんて書いてあんだよ?」
「ちょっとは待てないのか? 古代ルーン文字は難解なのだ。インクが薄れて読めなくなっている文字も多いし。」
「何だ、アンタも読めないんじゃない。」
師匠と話をしていたミオがいつの間にか会話に加わっている。
「なんだとっ、王都の宮廷魔術師ですら全ての古代ルーン文字を解読することなど出来ないのだぞ。無知が知った口をきくな。」
「まぁまぁ、落ち着いてよ。僕も含めて魔術を知ってる人なんて、コムル村にはいなかったんだから、ちょっとぐらい大目に見てあげてよ。」
「仕方ないな...。」
リオンに鎮められ、大人しく本に目を戻すセキ。
「読める部分だけ、読み上げてやるからよぉく聞いておくがいい。」
「いいから、早く読めっての。」
ティムの言葉はさらりと流して、セキは開かなかった本の中身を読み始めた。
「ラークが魔族と共にこの地を去ってから数十年の月日が流れていた。
人間族の天下となった世界で、人間族はバイアスの命を奪った。それがエルダの怒りをかった。エルダは国々を破壊して周り、生き残った人間は少ない。
四大精霊によってエルダが封印された際に、世界からは多量の魔力と霊力が消費されてしまった。
魔力を基礎とする私たちの文明は一度滅びることになるだろう。
このバイアスの現身を封印することが私の最期の仕事となりそうだ。
この本を開けるほどの強大な魔力と知力を兼ね備えた者よ。
そなたが愚か者ではないことを願う。
過ちを繰り返してはいけない。過ぎた力は身を滅ぼす。
後世にも人間族の世が栄え、末永く幸せが続く世界であることを切に願う。
封印術師 オニール 」
読める部分だけではあるのだが、一通り読み終わったセキは、もう一度頭から黙読し始めた。自分の解読があっていたかどうかを確かめると同時に、書かれている内容を自分の中で意味のあるものに変化させているのだ。
沈黙の中に残された三人は、それぞれの頭の中で、セキが読み上げてくれた良くわからない内容を、噛み砕いている。
ローザはリオンの頭の上を今日の寝床に決めたようであった。ウトウトしながらも、リオンが頭をかしげる度に、落ちないようにジタバタしている姿がとても愛らしい。
「なぁ、今の話わかったか。」
ティムの問いかけに答えは返ってこない。
「バイアスの現身ってなんだろう。」
リオンも首をかしげている。ローザがバタつく。
「読めないところを無理やり意訳したり、想像で補ったりしていからな、間違っているかもしれないぞ。まぁだが、バイアスの現身というのは、ローザのことなんじゃないかと思う。」
「ということは、バイアスはドラゴンっていうことになるのかしら。どうしてそうなるのかがわからないわね。」
「そうだな、どう話せばいいのか困るのだが。
歴史の探求の為には、この本で得た知識だけではなく、その他の時代の風潮や流れを頭に置きながら読み解いていかなければならないのだ。
この本には何者かが、バイアスの命を奪ったと書いてあるのだが、別の文献によると、魔術が全盛期の時代、不老不死の秘薬を作ろうとしていたとあってな、そのために白銀竜の血が必要だと考えられていたのだ。
この遺跡に封印されていた真っ白なローザは、どう見ても、火竜や風竜、などのドラゴンではないからな。真っ白なドラゴンともなると、その名の通り白銀色に輝く鱗を持つ白銀竜しか歴史には出て来ないのだ。」
「ふーん。んで、不老不死の秘薬ってなんだ。」
「肉体と精神を切り離し、神の様に死なない不死の生命体となる秘薬のことだ。まぁ、実際にそんな生命体が神以外には存在していないのだから、机上の空論で終わったのであろうがな。」
「死なないなんて、それほど良いこととは思えないわ。」
ミオが言う。数千年の寿命を持つエルフであるミオにとって、人間の友人たちとの別れが来るのは既に決まってしまっていることである。幼いながら、いつ来るかしれない別れに恐怖して生きているミオにとっては、永遠に生き続けることなど想像したくもないことであった。
「まぁ、いつまでも生きることが出来るのであれば、魔術の探求や歴史の探求にも時間を割くことが出来るのだがな。それが終わっても、死ぬことが出来ないのは辛いことなのかもしれないな。」
セキに取っても不死というのはあまり魅力的なものではないようであった。
師匠を失ったばかりなのだから、死から脱する手段に食いついてもよさそうなものではあるのだが、そこは師匠アルバートの教えがしっかりと体に染み込んでいたようだ。
「魔術師は世の理を捻じ曲げるだけの力を持っている。しかしそれは世の為、人の為に用いるモノでなければならない。決して自身の欲望を満たすために用いてはならない。そうしなければ、お前自身が魔物となるだろう。」
その言葉は幼いセキの心に焼き付いていた。
「じゃぁ、ラークって誰なんだ? 魔族と共に去ったとかあるが、そいつも魔族なのか。」
「そう、そこなのだ。それが重要なところなのだ。」
そういって、セキはもう一度本に目を落とし、少しの間考え込んだ後に、話し始めた。
「まず、知っておいてもらいたいことなのだが、
この世界の常識では、文明が滅びたのは邪神によるもので、慈愛神も邪神によって、異界の郷土に閉じ込められたとなっているのだ。」
「邪神ってなんだ?」
「邪神は魔族の神、魔神のことをいうのよ。」
「慈愛神って異界の郷土に閉じ込められていたんだね。」
「なんだって、それじゃぁ、異界の郷土ってのは楽園とは違うんじゃねぇのか?」
「まぁ、楽園だった。というのが一般的な認識ではあるな。今では邪神の遣わした魔物によって支配されているなんて話もあるが、どれも推測の域を出てないうえに確かめようがないのだから、どうこういっても仕方がないことなのだ。
私としては、異界の郷土は故人が安らかに過ごすことの出来る安楽の地だと思っている。
それで、話を元に戻すのだが、おそらく、ラークは魔神。魔族の神であると思われるのだ。」
「ふ~ん。まぁ、でもどっかに去っちまったんだろ?」
「そうあるが、それよりもラークが魔神だと考えられる原因に問題があるのだ。
本当に正しいのかが不確かなために、読み上げるのは避けたのだが、何度か読み返してみてやはりそうとしか思えなかった。
この本には、ラークが去っていったのはエルダと話し合った結果だと書いてあるのだ。
話し合ったということは、ラークとエルダは同格の力を備えた存在であったということなのだ。
そして、エルダはドラゴンの中の王と呼ばれていた白銀竜を殺すほどの人間族を滅ぼした存在なのだ。そんな存在など、三大神でしかあり得ない。
精族の神、妖精王。
魔族の神、魔神。
人間族の神、慈愛神。
妖精王は基本的には人間の世界に関わりをもったことがないし、魔族と共に去った者が慈愛神である可能性は薄い。
つまり、可逆的に考えた結果、エルダが慈愛神ということになるのだ。」
「ちょっと待ってよ、それっておかしいんじゃないの?」
「ミオの言うとおりなのだ。」
「ん? つまりどういうことだ?」
「人間を滅ぼしたのが慈愛神であるエルダってことになるんじゃないかな。」
「はぁぁぁぁ。そりゃありえねぇだろ。」
「そう、あり得ないことなのだ。今の常識で測ればだがな。過去、人間を滅ぼしたのが慈愛神エルダであるならが、エルダが邪神だということになってしまうのだ。」
「セキは、今の常識が間違っているって言いたいんだね?」
「この本に書かれていることを考慮すれば、どうしてもそうなってしまうのだ。そもそも四大精霊が神を封印するなんてことは、想像すらされたことはなかった。しかしこの本にはエルダを封印したのは四大精霊だとはっきりと書かれているのだ。」
「いぃや違うね。エルダが慈愛神だってことが、まず間違っているに違いねぇ。そいつはドラゴンじゃないのか。」
「確かに、今でもドラゴンは人間の街を襲い破壊する。
今ある文献には書かれていないだけで、白銀竜以上の力を持ったドラゴンがいてもおかしくはないだろうが、その可能性の方が低いと思うぞ。」
「何言ってんだ、人間の神である慈愛神が邪神で、人間を滅ぼすってことの方があり得ねぇ話だろうが。」
「しかし、この本を読み解けば、そうなってしまうのだから、しかたあるまい。」
「けっ、そんな話は俺にゃぁわからんっ!!」
ミオとリオンも納得は出来てはいなかったのだが、話の内容を理解はしていた。しかし、ティムには、人間を滅ぼしたのが慈愛神だということがどうしても考えられなかった。ティムはまたもやふてくされて、その場に座り込んでしまっていた。
「それで、これがわかったことで何かが変わるのかしら。」
「ミオまで何を言っているんだ。これは失われた歴史をつなぐ大事な書物ではないか。これを王都の教会に渡せば、一気に司祭になれるほどのことが書かれているのだぞ。今の教会では邪神に閉じ込められているということになっている、慈愛神を救うために躍起になっているのだ、それが全く間違った考え方だということですら世紀の発見であるのだ。
あとは四大精霊に封印された方法と、場所がわかれば、神が復活するかもしれないのだ。
そうすれば、私も王都の学院で魔術を学べるようになれるだろう。」
「お前、普段偉そうなことを言ってるくせに、学院で魔術を学んだわけじゃねぇのか。」
ふてくされて、刺々しさを感じる声で、ティムが問いかけてくる。
「それはっ...だな。師匠が......。」
今まで、大発見にあれほど興奮していたセキの顔が一気に暗くなっていく。親代わりであった師匠に想いを馳せているのであろう。
「私の魔術は師匠から教わったのだ。
師匠が私を拾ってくれた時にはすでに、学院から破門されてしまっていた。
師匠は数少ない文献から、慈愛神が邪神であるのではないかという推論を立てたのだ。しかし、確固たる証拠となるようなものがなかったために、そんな邪神と慈愛神を同一視する思考は異教徒のモノだと教会から断罪されてしまったのだ。
学院も教会との軋轢を避けるために、師匠を学院から破門して追い出した。
師匠は、慈愛神教を国教としている王都ローレンスから国外追放を受け、二度と踏み入ることは許されなかった。
師匠が遺跡探索の旅を始めたのも、師匠の推論を証拠づけるモノを探すためだったのだ。その道中に拾われた私は王都にすら足を踏み入れたことはない。
だから、学院で学ぶことなどできはしなかった。
しかし、私は師匠から魔術を教わることが出来たのだ。今は、学院に入ることよりも、師匠を断罪した教会に真実を突きつけてやることが私の目的なのだ。
そうすれば、師匠の汚名も晴れるのだから...。」
セキはここまでの人生を語り、師匠への想いで胸が熱くなったのか、言葉を詰まらせた。
「私は、私をここまで育ててくれた師匠の恩に応えたいのだ。
こんなことを頼める立場ではないのだが、頼む。私を王都まで連れて行ってくれないか。この本があれば、きっと師匠の汚名を晴らすことが出来るのだ。」
セキは泣きそうになりながら必死に懇願していた。
「よっしゃ!! 俺の旅の最初の目的が決まったな。」
さっきまでふてくされていたティムの気持ちもセキの想いの強さに一気に晴れたようだった。
「いっ、、、いいのか!!?」
「当たり前でしょ? 私もアンタを一人で旅立たせることなんで出来ないわ。」
セキは二人に何度も礼を言い、堪え切れなくなった涙で顔中をぐちゃぐちゃにしていた。
三人の旅の目的が決まった瞬間だった。
2014.01.29改稿 加筆・修正、大筋変更なし




