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七頭目、社畜

六頭目までを、一部改訂しました。話の大筋にはあまり関わりはありません。ですが、アルがGCを召喚できる時間が一時間→三時間に変わりました。

これからもよろしくお願いします。

 セカンドアースにやってきてから、三日目の朝を迎えた。

 太陽は、秋でも春でもない今日の空の下で、真東から少しズレた位置に昇っていた。アルはSEでも、元の世界と同じような朝日は昇るんだなぁと、思った。


 だが、そんな事を悠長に考えている間に、時間は過ぎていく。


「さて、探すか」


 日課にもなり始めた、朝のセカチャンと、セカウィキのチェックを、アルは始めた。




◆◆◆◆




「で、これから何すんの?」


 道路でエレンは、アルに質問した。アルは言葉を濁し、

「う~ん。とりあえず冒険者ギルドだな」

 と、言った。明言していないアルの言葉に、エレンは少々苛立ったが、こんな些細なことで癇癪を起こしていては仕方がないと思い、平常通りの顔色に戻した。ただ、微細な顔の変化も、アルには見通されていた。


「苛立つか?」


「まぁ、ちょっとはね。やることくらいは知りたいし」


「自分で考えやがれ」


 だが、アルの方もエレンが癇癪を起こしたかどうかなど、些細な出来事であり、わざわざ意識を傾けるほどではなかった。


 まぁ、そんなアルの感情などどうでも良く、態々聞かれて、答えたのに、落とされたエレンが起こるのは当然のことで、


「聞いたんなら答えなさいよ!」

 と、声を荒らげるのも仕方がないことだと思えた。


「まぁ、いいじゃないか」


「よくないわよ!」


「そんなに苛々していると禿げるぞ」


「女は基本的に禿げないわよ!」


「これが女尊男卑か……」


「ネットスラング使うな!」


「ついたな」


 アルが上の方を見上げた。そこには昨日行った冒険者ギルドと同じような模様、というより、全く同じ模様があった。同然だ。同じ場所なんだから。


「そうだね」


 とりあえず二人は、扉を開けて、中に入り、手頃な依頼を探すことにした。




◆◆◆◆




 苛立つ。元の世界の名前が、鈴木健一郎。SEでは、安易に名字を名前としてしまい、スズキという名前の彼は、男女の二人組が入ってくるなり心の中で毒づいた。


 リア充死ねとも思った。

 この世界の人間がみんな十六歳になっても不細工な人間は不細工であり、スズキは自他共に認める不細工であった。元の世界の彼はちっぽけな業績を誇る程度の、サービス残業を普通にこなし、有給は提出する前からどうやって提出するのかもわからず。延々とプログラムを打ち込んでも、社内情勢など全くわからないので、出世することもなく、飲み会に行っても飲めないので、上司からは嫌われ、要するにアルから見たら完全な社畜であった。社畜とは、現代の貴族から見て、自分たちのために社会の歯車を回してくれている、かわいそうな人のことを指している。


 まぁ、そんな社畜で、新しい世界でも特に目立った功績はなく、せいぜい依頼を二日目に受けたけど予想以上に怖くて戦えなかった人間である。というか、スキルがソロ向きではなかった。無理だ。バフにデバフはもってのこいで、攻撃魔法まで使えたが、ゴブリンと接近戦で戦えるほどの能力は持っていなかった。というか、近接スキルがなかった。魔法スキルがジョブ一つと、サブ一つで二つと、製作とか、生産系のスキルが一つだ。もちろん新しくスキルを買う金とか、あるはずもない。


 こっちで、どう生活をしようかなぁ……

 途方に暮れている。

 ふと、スズキは前を見た。そうすると、男女二人連れのリア充が、こちらへ向かっている。


 いや、きっと思い過ごしだろう。俺が座っている酒場の椅子は、近くにボードがある。きっと受付に聞くより、ボードで見る方がいちゃいちゃできると感じたのだろう。


 そして、スズキはまた思考の渦へと、感覚を埋めた。

 なんとかして、金を稼がねーとなー




◆◆◆◆




 ギルドの中に入ったアルは、辺りを見渡した。昨日よりは人数が少なかった。うなだれている人も少し見られる。


「ボード行くか?」


「うん!」


 エレンは上機嫌で頷いた。雰囲気を大事にする必要を、アルは全く感じていない。だが、大筋を自分で指示しているので、なかなか細かいところ位は、エレンに決めさせようという意志が働いているのである。


「仕方ないか……」


 小さな声でつぶやいて、ボードに向かうことにした。


 ふと、ボードの方を見ると、こちらを恨めしそうに見ている男性がいた。

 お世辞にもイケメンとは言えない顔だが、十六歳にしては、なかなか辛そうな顔をしている。

 もちろん、SEは、元の世界で辛い立場だった人も多くいるのだから、元の世界の十六歳よりは、大人びた雰囲気を持つ十六歳が多い。


 だが、彼の苦労は並大抵では無さそうだった。

 アルはほとんど元の世界で苦労していない。

 いや、彼は彼なりの苦労が多くあった。だが、苦労をあまりしておらず、社会人としての経験は、あまりないというのが実情である。


「おい、エレン」


「何?」


「新しい仲間でも、誘うか」


 アルは、こちらを恨めしげににらんでいる彼を、スカウトすることにしたのである。




◆◆◆◆




「ちょっといいですか?」


 スズキは声をかけられた。とりあえず思考の渦に放り込んでおいた感覚を元に戻す。そして、営業スマイルを浮かべる。といっても、この営業スマイルは、酷く歪んで見えるらしい。悲しい事実だが、営業課の人間ではないので、別に気にしないことにしていた。


 だが、目の前にいたのは美男美女のカップル。いや、年齢的には美男子美少女でも通るかもしれない。そのようなカップルだった。というか、さっきのリア充だった。そして、美少女の方は、スズキの営業スマイルを見て、少し引き気味だった。


 そして、その営業スマイルを浮かべながら言葉を返す。


「なんでしょうか?」


 リア充二人組は、落ち着いた雰囲気を持っていた。


「少し、お時間よろしいでしょうか?」


 とても丁寧な口調だった。毎回声を荒らげる上司とは大違いだ。心の中で昔の世界のことを、スズキは毒づいた。


「はい。大丈夫ですよ」


「では、とりあえず、おすすめの食堂があるんですよ。デザートも出してくれるみたいですし、行きましょう」


 スズキは何故誘われているのかが全く理解できなかったが、別にこれといって用事はない。取って食おうという訳でもあるまいし、とりあえず同行することにした。


「はい。わかりました」


 美少女の方が何も言わないのが、少し気になるな。




◆◆◆◆




「さて、僕はアルと言います。こちらはエレンです」


 アルは椅子に腰をかけ、目の前の男に向かって言った。


「私はスズキと言います。元の世界ではなく、こっちでスズキです」


 アルは、すこし驚いた。元の世界と同じような名前の人がいるとは、あまり思っていなかったからだ。だが、普通に考えれば、安易な考えでそう名付けた人がいても、不思議ではない。そして、一人称が私ということに対しても驚いた。スズキにとっては、業務用の雰囲気になると、自然と一人称が私になる癖を持っているのだが。


「では、なんか適当にメニューでも見ていてください」


 場所は、いつも泊まっている宿の食堂だ。レストラン的な感じで、いつでも解放しているらしい。


「はぁ、ありがとうございます」


 スズキは、その言葉に応え、元の世界とあまり変わらない様な感じで立ててあったメニューを手に取り、広げた。


 宿泊客の朝昼夕のメニューは決まっているが、通常時は、普通に頼めるのも、この食堂のいいところで、もちろん宿泊客がメニューを食べ終わった後も、何か食べたいとなれば簡単に頼めるのも強みだった。そして、何よりここの料理はうまい。追加注文させたくなるうまさがあった。


「じゃぁ、本題を言いますね」


 メニューを真剣に見ていたスズキに向かって、アルは言った。


「はい……」


 少し身構えるような雰囲気を醸し出しながら、スズキは答えた。


「僕たちのパーティーは人員不足で、人手が足りません。何となく、運命という言葉では言いすぎでしょうが、一目見たときからスズキさんが、僕たちのパーティーに入ると、いい方向へ行くと思いました。ネットとかで誘うのも気が引けますし、なかなか接点がない世界なので、直感とかをたよりにしたいんですよね。別に断ってもいいです。僕たちと、協力して、クリアを阻止しませんか?」


「え?」


 スズキは疑問の声を発した。途中までは理解できたのだ。勧誘してくれたことは、思ったよりもうれしく、歓喜した。だが、アルは最後になんて言った?


 クリアを阻止するとか、言わなかったか……?

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