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六頭目、方針

「せいっ!!!!!!!!」


【ファス・アバトレ】が、発動された。それはゴブリンの頭部へと吸い込まれるように当たり、HPを最大値の三分の一程減らした。そのまま右の方に居たオオゴキブリに似た生物……GCが、黒い羽を蠢かせ、飛びながら突撃してくる。そして、噛みつきがゴブリンに当たり、また少しだけHPが減った。


 だが、ただでやられるゴブリンではない。右手に握ったナイフを強く握り直し、短剣アビリティを使ったアルの方へと突撃してきた。


 そして、振るわれるはナイフ!


 だが、アルは右の方向へそれをかさした。昔よりも動体視力が上がったような感覚がしながら、短剣で通常攻撃を繰り出し、ゴブリンに当てた。


 HPは、後約半分。


 そこへ、

「せいっ!」

 エレンが来、大槍の攻撃を当てた。其れは勢いが乗っている、所謂アビリティ【突進】であり、いとも容易くゴブリンをデータの渦へと変えさせた。


「これで……十匹目」


 アルは言った。そう、これでエレンとアルの初仕事は終了したのである。アルはデバイスを出し、右下に表示された時刻をみた。


 既に昼は回っており、一時はすぎている。


「昼飯どうする?」


 朝は食ったとしても、昼飯はまだ食べていなかったので、アルは聞いた。


「ゴブリンの肉とか食べる?」


「遠慮しとく……」


 流石に、今まで自分と死闘をしていた相手の肉を食べるのは、些か抵抗があるらしい。


 ゴブリンのドロップアイテムは、【ゴブリンの証】、【錆びたor欠けたナイフ】×3、【破れた革鎧】×2、【ゴブリンの肉】×3だった。最後のゴブリンからのドロップも、【ゴブリンの肉】だった。


「別に街は直ぐなんだし、戻ってから食おうぜ。そして、宿屋に戻って、作戦会議だ」


 アルは、少し上機嫌な調子で言った。依頼の達成感がこみ上げているのだろう。元の世界でバイトの経験が少しだけの、勤労経験の彼には、思ったよりもうれしいものだった。


「そうね……昨日泊まった宿屋にまた泊まれるわよね?」


「大丈夫だ。今日出る前に、しっかりもう一日入れといた。セカチャンとか見てると、宿屋は酷い有様らしいからな」


 事実、安物の宿屋は、一回に十部屋、それが地下入れて12階。計120部屋のホテル的な場所だった。そこまで聞くと、清潔感あふれる、現代のを想像する方が多いと思うが、部屋の外はきれいなのに、入ってみるとシーツに汚れはついているわ、風呂は汚いわ、そもそも飯は出ないわで、散々な有様だったようだ。


 其れについてセカチャンでグチっている奴は多くいたし、


【宿屋改善の要求や、宿屋について話し合うスレ】


 まで、立っているのだ。それに対する不満は大きい。

 しかもその宿屋は、何故か街の中に七十カ所も集中して広がっていた。そして、俺たちのような10部屋しかない高級宿屋は十件あった。


 まぁ、アルたちみたいに二人以上で高級宿屋に泊まった奴も多いらしい。


「それはGJ(グッジョブ)と言わざるを得ないわね。ありがと」


「どういたしましてっと。多分高級宿なら昼飯は金払えばくれると思うし、いくか」


「そうしましょう」


 そう言うと、アルは探索者スキルのアビリティである【探索】を発動させた。これは周囲に敵や人が居ないのかを調べる、汎用性あるアビリティだ。探索者スキルをあげれば範囲を上げれば、【探索】できる範囲も広がるらしい。


「とりあえず、敵さんは見えないな。ゴキブリ先導で行くか」


「ゴキブリじゃないく、ゴキ様。あと、こっちの世界ではGC様」


 しまったと言ったような顔をアルは浮かべた。結構これをやった後のエレンは機嫌が悪くなるのだ。


 まぁ、それにかまう義理もないので、とりあえずスタスタと出口に向かい進み始めた。


「え、ちょっと! 待って!」


 後ろから仲間の声が聞こえるが、とりあえず無視することにしよう。赤い虫だけに。




◆◆◆◆




「やっぱ旨かったな」


 満腹だった。アルもエレンも。やはりというか何というか、まぁ、理由なんてどうでも良くなるほどに、高級宿の飯は旨かった。因みに、ここの宿屋の名前は【極楽浄土】と言うらしかった。


 ベッドに、アルが座った。アルとエレンは食事を終え、とりあえず宿屋の部屋の中で作戦会議を始めることにしたのだ。


「で、どうするの?」


 急かすような感じで、エレンはアルに聞いた。


「とりあえず……外国いこうかなーって思ってる。半分くらい賭けだけど」


「はっ!!!?????」


 思わずエレンは疑問の声を上げた。いや、外国など、どこからその発想はくるのだ。自分たちが居る場所もわからないというのに。

 そして、言葉を続ける。


「ちょっと、待って! 自分たちが居る場所もわからないのに、どうやって外国に行くのよ!?」


 そんなエレンの問いに、アルは恐ろしいほど冷静に答えた。


「場所はわかる。ここは、元の世界では、滋賀県の、長浜市だ。帰ってきてからデバイスをのぞいていないエレンはまだ知らないと思うが、俺たちが転生された場所は、日本列島に酷似している」


「え!?」


 エレンは恐ろしいほどのスピードで、デバイスを取り出した。起動。そして、そのままセカチャンや、セカウィキを見る……


「嘘……でしょ?」


 セカチャンには祭りが広がっていた。ここが日本列島と酷似していることがわかり、自分たちが居る場所がだいたいわかったのだ。歓喜を表す者も少なくあるまい。


「そして、街の数は、940個だと、推測されている。微妙に発見されていないところがいくつかあるが、各県二十個の街がある。それは街の広場の近くにあった地図の上に書いてある、街の名前から、その県に住んでいた人が推測している」


 デバイスのセカチャンやセカウィキにも、それと遜色がないことが載っていた。


「でも……なんで、外国に……?」


「多分だけど、日本にいてもクリアは出来ない。何故なら、ほぼ全体が俺たちによって網羅される確率が高いからだ。日本にラスボスが居ると仮定した場合、どこかのダンジョンの最下層にに居ると考えるのが普通だが、まだ幾つあるのかすら判明していないダンジョンを虱潰しに探して、ボスを探していたんじゃ、偶然ボスにあった奴に倒されるかもしれない」


「でも、ボスをわざわざ探すことは……」


 エレンが思わず聞く。だが、少しアルは呆れたような表情をして、エレンの方を向いた。


「考えて見ろ。俺たちはクリアを阻止したいんだ。なのにクリア条件や、クリアできる場所を知らず、一生日本に閉じこもってました、じゃ、自称勇者様とかに討伐されるに決まってんだろ?」


「あ、そうか」


 確かにそうだった。守るべき者がわからないのに、守るなど、不可能に近い。


「俺は、日本のダンジョンは最深部に行けば、海を渡る手段が有ると思っている。そして、外国に進ませ、ボスを捜させる。ベターなやり方だ」


「なら、ダンジョンの攻略をするの?」


 アルは首を振った。


「いや、俺らは、スキルを使ってショートカットをしようと思う。俺の召喚師があれば、多分行ける」


「え? なんで召喚師で海を渡るの?」


「まぁ、今のままじゃ厳しい。とりあえず金と、武器がほしいな。渡った後の戦闘用だ。渡るのに金は多くいる」


「なんで、渡るのに……金?」


「MP回復ポーションだよ。三時間で俺のGCは消える。それの補充は必要だ。後、二匹では厳しいだろうしな。金稼ぎと同時でスキルレベルも上がればいいんだが」


「なるほど」


 GCという言葉が出てきた時点で、エレンはアルが話そうとしていることがわかった。多分だが、GCを飛ばせ、エレンとアルを掴ませ、それで海を渡ろうとしているのだ。


「あぁ、いい忘れていたが、何とかしてかごみたいな物を作るぞ。それにロープとかツタとかを巻いて、それをGCに掴ませる。ゴキブリ型気球だな」


 なんとも奇妙な光景だが、アルは真面目にGCを気球の浮かぶ部分と、進行させる部分に使おうと思っていた。


「じゃぁ、とりあえず、どうするの? 今すぐ飛ぶ訳じゃないでしょ?」


 まぁ、それはあくまで目標であり、指針だ。いまから行うことはその指針に沿ったことをやるだろう。それは予測できた。だが、なにを具体的にやるのかは、聞きたかった。


「とりあえず……金策、レベル上げ、乗る部分の作成くらいかな。乗る部分の作成には、金もいくらか必要だろうから、とりあえず一週間から二週間を目標に、金を貯める。そして、その課程でレベル上げもする。で、最後に乗る部分を作るか買うかして、外国へひとっ飛び。これで完璧だ」


「じゃ、とりあえず明日からがんばって、今日は寝ましょ」


 と、エレンは、そそくさと風呂へ行った。


「まぁ、それもそうだな。俺は情報収集でもしているよ」


 そして、アルもデバイスをいじり始めた。


 これで、二日目でアルとエレンの二人の行動方針は決定したのである。

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