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十二頭目、売却

 街が目の前に見えた。アルたちは、少し気を緩めた。


「疲れたな」


 思わずアルが言った。


「ちなみに、アルのせいで徒労に終わったんだからね」


 エレンがアルにくぎを刺した。デバイスには、【炭】が十個以上有るが、お目当ての【木】は、一つしかない。これでは、外国に行くための気球風飛行物体が作れない。


「まぁ、【木】を買えば……」


 そう言ったのはスズキだった。モンスタードロップアイテムは全員が使うわけではない。意外と美味で知られている【ゴブリンの肉】も、アルたちなどの、高級宿屋を利用する人からすれば、要らないアイテムだ。そして、得た全ての【ゴブリンの肉】を食べるのは、難しいだろう。なので、【ゴブリンの肉】は比較的流通している。ゴブリンを狩る人間ばかりではないので、意外と買い手もいるのだ。


 そこでスズキは、同じように【木】も出回っていないかと考えた。ドロップアイテムや、フィールドで見つけるアイテムは、基本的に見つかるフィールドの近くの街で取り引きされる。【木】が取れる【蜻蛉の森】の近くにあるツルガで、【木】の流通が一番多いはずなのだ。


 なので、スズキはツルガで【木】を買うことを画策したわけである。


 だが、

「それは無理だ」

 と、アルが反論した。


「何故ですか!?」

 スズキが食いつく。


「そもそも、金がない。【蜻蛉の森】用の準備で、ポーション類を多々買った。そして、【木】は、高価だ」


「え!?」


 スズキが驚くのも無理はない。流通が多いツルガが、【木】が一番やすいはずなのだ。


「あんな衝撃波が飛んでくる場所に行く物好きは少ないんだよ。しかも【木材加工】スキルで作れるものの効果が微妙なんだよ。【木】で作ったものなんて高が知れているといった意見が多数ある。なので【木材加工】を育てるよりも別のスキルを育てたいんだよ。【木】で椅子を作るより、人型のモンスターからとれる【布切れ】を裁縫して服作った方が儲かる」


「成る程」


 需要が少ないので、自然と供給が少なくなる。そして、値段は上がる。でも、あまり売れないから、取りに行く人も減る。供給が少なくなる。さらに値段が上がる。値段をみて【木材加工】をあきらめる。需要減る。


 なんという無限ループだろうか。


「だから、ポーション類買ってとり行く方が早いと思ったんだが……衝撃波が予想以上に強かった。姿見えないとかマジチート」


「だからといって……」


 アルの言葉にエレンが一言言おうとするが、途中で止まった。


「どうしました?」


 スズキが聞く。


「な、なんでもないよっ!」


 誤魔化すようにエレンが弁明した。


「あそこで【木】が取れればなぁ。以外と金稼げたのになぁ……」


 アルも独り言モードに入ってしまった。


 まぁ、反省したいことが、多くあるのだろう。




◆◆◆◆




「は!!!???」


 アルは驚いた。デバイスに提示された価格に、である。そこには、ポーションなど余裕で十個くらい買えそうな値段の、十倍の値段が並んでいた。要するに、百個ポーションが買える。目指している【木】換算でも、まぁ、三十個は買えるだろう。ポーションも以外と高いのだ。高級な宿屋の一泊と同じくらい、ポーションは高いのだ。五百Gくらいが、ポーションの値段なのだ。そこから逆算すると、【木】の値段は約千五百G。提示されている金額は、ざっと四万五千Gということか。なんと高価な。


 それをみて、アルが驚くのも無理はない。


「な、何でこんなに高いんだ!?」


 慌てながらアルは聞いた。


「知らないのかい? 【炭】は高価なんだよ。こんなにたくさん持ってきてくれる人はなかなかいないし、ここら辺じゃなかなか取れない。さらに【炭】は人気職業の鍛冶に必須だしな。しかも倒すのが難しい【蜻蛉】系列のアイテムも入ってるとなれば、値段は弾むさ。あの蜻蛉はやっかいな敵だが、その素材を用いて作った防具は、かなりの高性能だからな。遠距離攻撃にプラス補正はつくし、頭防具なら【探索】付きだ。なおかつ防御力も高いとなれば、迷宮攻略組が欲しがっても不思議じゃない。【蜻蛉】系列アイテム専用業者が居るくらいだ。そいつらでも、こんな大量には取れない。要するにおまえさんたちは、なかなか手に入らなく需要が高いアイテムを一気に持ってきてくれたんだよ」


 その言葉を聞いて、アルは驚いた。木があるエリアを焼けば、多分炭は簡単に手に入っただろう。だが、それをやるものは自分たち以外にはいなかったということになる。日本人の平和主義や植林を推す動きがその行動をとることを阻んだのかもしれない。不安定な結論を頭の中で出した。


「はい、では、売りますね」


 アルのデバイスに少し色を付けられた四万六千Gが増え、アイテムが一気に減った。




◆◆◆◆




「よし、もう一度蜻蛉の森へ行こう!」


 アルはみかん箱のいすの上に立ち、そう宣言した。端から見ると何とも滑稽な姿である。だが、先ほどまでの落ち込んだ様子はなく、逆に元気に奮い立っているように見えた。


「なんで?」


 そうエレンが聞くのも尤もである。アルは先ほどまで【蜻蛉の森】で【木】を得ることを失敗し、落ち込んでいたはずである。なぜ彼がこのようなことを言っているのか、理解ができなかった。


 スズキは無言でデバイスとにらめっこをしていた。スズキは重要なことはきちんと話すので、これは重要ではないと思っているのか、と、エレンは考えた。


「【炭】がすげぇ高い値段で売れたんだよ! だから、とりあえずもう一回森を燃やして、【炭】を得て、三人で分配してからいろいろな町へ分散し、そこで売れば一財産得ることができると思うんだ!」


「ちょっと待ってください」


 調子よく言っていたアルの言葉に水を差したのはスズキだった。


 スズキは続ける。


「【蜻蛉の森】、燃えてますよね?」


 それは当然の疑問だった。火をつけた森は燃えるのだ。彼らもそれを目の当たりにしたはずである。


「実際検証した訳じゃないが、時々ダンジョンは毎日再生するって書き込みがある。始めの街……ナガハマの近くにあったダンジョン、【鬼人の洞窟】の壁が一度壊れたことがあったんだが、それも次の日には修復されていた」


「なるほど」「なるほどね~」


 エレンとスズキが納得した。


「だからさ、炭で荒稼ぎしようぜ。で、稼いだ金で外国いく資金にする。とりあえずデバイスのメール機能で連絡取り合えばいいだろう?」


「了解です」「おっけー」


 こうして、三人の荒稼ぎは決まった。因みにゴキ様を燃やす必要がないので、エレンは微妙に機嫌が良い。



◆◆◆◆




 一夜があけて、アルたちは森へと来た。


 轟々と炎が燃え盛る。


「少しずつ焼けば何とかなりますね」


 アルたち三人は、森の中にいた。鬱蒼と生い茂る森は、昨日みた風景と何ら変わりはなく、衝撃波の怖さを思い出させた。


 それにより三人は森の外から燃やそうとしたのだが、生憎ダンジョンに入らないとダンジョン自体に攻撃が効くことはないらしく、【蜻蛉の森】へと入らないと、燃えないらしい。


 そして、昨日と同じようにGCで壁を作ろうと、アルはしたのだが、それに対してエレンが断固抗議した。


 曰く、

「GC様が可哀想じゃない! 少しずつ移動しながら一区画ずつ焼けば、大丈夫なはずよ!」


 と、いいはなった。まぁ、彼女は昨日入った金で、大楯を買っていたので、蜻蛉の衝撃波は防げる筈。それも蜻蛉防具なので、以外と堅い。


 反応は以外と簡単だと感じたので、アルはそれを許可したのであった。


 そして、

 燃える森の焼け跡から【炭】を拾うのはアル。もう二十個を越えていた。昨日エレンが持ち帰ったのが七個ほどだったはずなので、その数は約三倍だ。


 一人十個分の【炭】と、ついでの【蜻蛉】系のドロップアイテムを拾えばいいかとアルは考えていたので、まだ後十個ほど必要である。


「二十個拾ったぞー@10くらいだ」


 @とはネットスラングで、“後”と同義である。まぁ、そんなたわいもないことは頭の隅へと押しやろう。


「わかりましたー楯は余裕で持ちますよー流石【蜻蛉印の楯】ですねー堅いです!」


 そう、和気藹々と、【炭】を拾い、スズキが次の放火のため、MP回復ポーションを飲んでいたときだった。


 カサカサッカサカサッッ


 木々が擦れる音が響いた。慣れもあってか、エレンは自然な動作でそれを防ぐために楯を構える。


 そう、そこまではよかったのだ。

 衝撃波は図ったようにエレンの楯とあたり、相殺し、消滅する。


「ぐhがlかあぁぁぁl!」


 だが、悲鳴が響く。

 それはアルの悲鳴だった。

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