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一族の楔  作者: AGEHA
第一章 二つの一族
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宮殿へ

「では、行くぞ」


先程と同じく、ジリオンは迫る。


動きは単調そのもの。


人を薪に例え、両の腕で握られた大剣を己の背面まで振り上げ、一気に叩き割るといった攻撃手法。


だからこそ、ジャスティンにとっては楽な相手であった。


「大体、半歩……」


ジャスティンは半歩程、背後に下がる。


紙一重に匹敵する程のタイミングでジャスティンが先程までいた位置に大剣が地面を割り、深く突き刺さる。


ジリオンは一気に大剣を引き抜き、横一線に振り抜く。


再びそれを紙一重なのだがなんの造作もなく、ただしゃがみ込むだけでジャスティンは躱した。


大剣を躱すと、ジャスティンは大剣を振り抜き隙を作ったジリオンにタックルを仕掛け、携帯していたナイフでジリオンの胸を貫いた。


「大抵は……これで死ぬんだけど」


ジリオンに蹴りを加え、蹴り倒す際の勢いでナイフを引き抜き、即座にジャスティンは距離を取る。


「ああ、死んだよ、そいつは。実に見事だった」


正面の通りから、見覚えのある姿が見えた。


「ど、どうして……」


「能力発動、といったところだ」


正面の通りから歩んでくる者。


それは紛れもなくジリオンだった。


「貴様の能力は、悟りだな」


「貴方も能力を? というか、初めて会う相手に対して貴様呼ばわりはないんじゃないの?」


「ん? そうかな?」


ジリオンは少し言葉に詰まる。


「軍紀の下で少々癖になっていたようだ、済まない。君の能力は、悟りのようだな」


ジリオンの口調が変わる。


通常、あちこちから火の手が上がる周囲の風景を見れば怒りに燃え、話など通じない。


にもかかわらず、ジリオンは非常に冷静な対応をしていた。


逆の立場であった場合、自らにそれができるだろうか。


ただそれだけで、ジャスティンはジリオンを信用できそうな人物に思えた。


「そう、僕の能力は悟り。貴方の攻撃を仕掛ける動作が、僕には手に取るように分かる」


「そうか、ではこれは予見できていたかな? リザレクの発動だ」


復活の魔法リザレクを詠唱する。


倒れていた方のジリオンが起き上がった。


「もしかして、生き返った?」


「オレだって生物さ、リザレクで生き返られる」


生き返った方のジリオンが答えた。


「戦いを止め投降するのならば生かして返そう。もし、その気があるのならば君もジェノサイドに入ってくれないか?」


「貴方の一存で、僕みたいな敵もジェノサイドに入れるの?」


「当然だ、君はなにも知らずにクロノスへ来たのか? ジェノサイドはオレが作り上げた組織だ」


「貴方がジェノサイドの……ということは、R・ノールの弟R・ミールを殺した人物を知っていますか?」


「オレだ、ジェノサイドは粛正を行う組織だからな。オレの(めい)なくして、人は動かん」


「成る程、実に明快だね。貴方が首謀者だったのか」


血に塗れたナイフを構える。


ジャスティンに強い殺意が芽生えていた。


「絶対に許さない。必ず僕が殺してやる」


「怒りに身を任せるな、怒りによって視野が狭まってしまう。それはそうと引かぬのならば、オレはそれなりの対処を行う。安心しろ、リザレクは扱える。しかし、次に目を覚ますのはクロノスからテロリストを排除してからにはなるが」


「………」


睨みつけ、ジャスティンは駆け出す。


正面に現れた方のジリオンに接近していたが目前まで迫った時、即座に天使化し、空へと飛翔する。


もう片割れのジリオンが背後から先程同様に大剣を一直線に振り切るイメージがジャスティンに浮かんだのだ。


当然、悟りによるイメージなのでそれは起き、また紙一重のところでジャスティンは大剣の一線を躱せた。


「空間転移……」


詠唱なしで空間転移を発動し、普段のスローイングナイフでの戦い方を行うため数本のナイフを両手に現わす。


そこで、ジャスティンは不思議な光景を見た。


先程、自らを真っ二つにしようとしていた側のジリオンにもう片割れのジリオンが大剣を突き刺していた。


当然の如く生き絶えるジリオンを眺めながら、大剣を突き刺した側のジリオンが語り始める。


「神聖魔法を扱えるが、オレは天使族ではない。オレは空を飛べないんだ……」


すっと、ジリオンはジャスティンの方を指差す。


次の瞬間、激しい勢いでジャスティンの背後からなにかが組みついた。


両脇から腕を通し、後頭部に手を組む形で交差されているため背後を見ることさえ叶わない。


ジャスティンの背後から組みついたのは、新たに現れた三体目のジリオン。


出現位置やタイミングは、ジリオンの思いのままに操作できた。


「良い的だ」


地表にいるジリオンが空中にいるジャスティンに向かい、全身をフルに扱って持っていた大剣を投擲する。


狙い澄まし放たれた大剣はジャスティンの腹部へ突き刺さり、ジャスティンは地面へと落下。


「勝負あり、だな」


ジリオンがそうささやく。


ジリオンは魔力を緩め、地面に倒れ死んでいるジリオンと、ジャスティンに背後から組みついていたジリオンが消えた。


ジリオンはジャスティンに近づく。


わずかにジャスティンには息があった。


「まだ、生きていたのか」


なにかを呻きながら、もうすぐ生き絶えるであろうジャスティン。


ジリオンはジャスティンの傍らにしゃがむ。


「放っておいても一分かそこらだろう、しかしだ……」


ジリオンはジャスティンの首筋に両手をかけ、頸椎を折る。


そして、ジャスティンの腹部から大剣を引き抜いた。


「私は、苦痛を長引かせるなどしたくはない」


戦いを終えたことによるのか、ジリオンの口調は変わる。


クァールたちが向かった先へ、ジリオンは駆け出した。





崩壊した街中を進む最中、クァールが小さく語る。


「ジャスティン、死んでしまったかもしれない」


「あんな若い子でも連中は殺すのね……残忍で容赦がない」


「ルミナスの口からそんな言葉が出るなんて、ボクには驚きだよ」


何事もなくそのように語った後、クァールは口元へ両手を置き、驚いたような反応を見せる。


あまりにも驚き、立ち止まっていた。


「どうしたの?」


クァールが立ち止まったのに気づき、ルミナスも立ち止まる。


「いいえ、なんでもない」


再びクァールが走り出す。


「………?」


なにか違和感を覚えながらも、ルミナスもそれに続く。


「なんだか、ずっと走り続けている気がするわ。久しぶりに走っているから、もう空間転移を扱いたい」


ルミナスは愚痴を語る。


このクロノスの都市空域内には、まだら模様のように空間転移を扱える領域と扱えない領域が決まっている。


それは侵入者対策用であり、普段は張り巡らされてはいない。


今回の突入の際にドレッドノートが先手必勝の策で発動したアウトブレイクは強力無比な強さを誇り、このようなめちゃくちゃな範囲設定しか取れなくなっていた。


ただ、一度扱えない場所で空間転移を発動した場合、空間隔離結界を発動されたと考えるのが常識であるため、今のクァール、ルミナスのように走るほかなくなる。


「ところで、ノール。行先はどこなの?」


「行先は、私の宮殿」


「私の? こんなところにあるの?」


「ここは、私が過去に住んでいた場所。とても懐かしい場所だよ。昔は、こんな街なんてなかった。でも例えどんなに変わってしまっても私には宮殿の場所が分かる」


「ノールってさ、ティスト大陸のグラール出身でしょ? 以前、アクローマ様が話していた気がするの」


「ああ、そうだったね」


仄かに笑みを浮かべる。


「実は水人検索を行ったの。タルワールの居場所を掴むためにね。それで居場所が宮殿だと分かった」


「タルワール? 誰よ、それって?」


「殺したい程に憎い相手。今からそれを実行しに行くところ」


「そう……貴方も大変ね。その若さで人を憎んだり、殺したりって。私の純真だった若かりし頃とは大違い」


「もとより、このようになる運命だったのだと思う。私がR一族に反抗して、全ての体制を一新させた時から、いずれはこうなるだろうと分かっていた。ただ、なんの対処もできなかった。それが原因で私の同志たちは……」


「同族同士で戦ったの? 変なことをするんだ、貴方って。血の繋がりのある者同士、もう少し仲良くやりなさいよ」


「彼らは人々を虐げ、私利私欲のため快楽のため総世界を身勝手に支配していた。私は一族を裏切るであろう行為であったとしても、全ての人たちに救いの手を差し伸べたかった。R一族のせいで人々が当たり前のように死ぬのをもう見ていられなかったの」


「貴方、ノールなのよね?」


本心から、すらすらと語っているクァールにルミナスは違和感を覚えた。


「なにを今更。これからもずっと、私は私よ」


「そう……? なんだか違和感があったの。貴方が別人みたいな」


「ルミナス」


「なによ?」


「私にリターンを際限なく詠唱し続けてほしいの。間隔は魔法詠唱、魔法発動前までの間を連続で」


「いわゆる連続魔法ね、私の魔力が続く限りの。ところで、リターンの契約は済んだことだしどういう魔法を扱うのか教えてくれないかしら?」


「デスメテオという暗黒魔法。魔力を身体から絞り尽くす程に消費して、相手を討ち果たす魔法」


「魔族の私でもそのような暗黒魔法を知らないわ。聞いたこともない」


「この暗黒魔法はR一族にとって特別な一子相伝の魔法なの。覚えるとかそういう類のものではなく、R一族の当主足る器の者にだけ扱える」


「………」


なんとなく微妙な感じで、ルミナスはクァールに続く。


「あのさ。私、思うことがあるの」


「なにかしら?」


「どうして、私たちに誰もかかってこないのかなって。やっぱり、罠じゃない?」


「私としては魔力を消費しなくてありがたいけど?」


「そりゃあ、そうね」


「ああ、あれよ」


走りながらクァールはある方向を指差す。


周囲が近代的な発展を遂げた街並みだというのに、そこだけ歴史ある宮殿がそびえ立っているという不思議な光景。


街中に突然、別空間が現われたような場所。


「宮殿だなんてここだけなにか浮いている……にしても、ここから向こう側は酷い有様だわ」


ぼんやりとルミナスは今まで自分たちが走ってきた街と同一な風景を保っていたであろう方向を眺める。


その方向はクァール、ルミナスらが現われたエリア区とは丁度反対側に位置する、アクローマらが現われたエリア区。


元々あったであろうビル群や建物は既に倒壊し、原型を保てぬ程に瓦解している。


爆発によるもののせいか各地で火の手が上がり、黒煙が立ち上っている。


焼死体や惨殺体、一体どうやったらこれ程の死に方ができるのかと思える程の変死体など死屍累々と続く。


周囲には血腥い死臭が漂っていた。


「そういえば、貴方の家はスロートに持っていった私の屋敷じゃない。ここが家だなんて変なこと言わないでよ」


しかし、その光景を見てもルミナスはついさっきのクァールの言葉に平然とした様子で答える。


ルミナスにとって自身が巻き込まれなければ興味も関心もない。


今となっては魔族となったルミナスも例外なく魔族特有の気質である“対岸の火事なら笑いどころ”が発動している。


「………」


ルミナスの言葉に、クァールは無言で返す。


なにかを眺めたまま、クァールは呆然としていた。


クァールが眺めていたもの、それは近くにあった一つの死体だった。


「あれが、どうしたの?」


不思議そうにルミナスは話す。


「言葉に気をつけなさい」


クァールの殺気に気づき、ルミナスは話すのを止める。


「彼は、まだ生きています」


既に死しているとしか思えぬ者に、クァールは駆け寄った。


出血が多く、手のつけようがない程に傷つき仰向けに横たわっていた人物をしゃがみ込み抱き寄せる。


「良かった、また会えましたね、アズラエル。よくここまで戦い抜いてくれました」


「………」


なにもアズラエルは答えない。


数秒程、クァールはアズラエルを抱き締めていた。


「あの男が来るかもしれないわ」


「分かっています」


大事そうにアズラエルを地面へ横たわらせるクァールの語気が荒い。


その時、ふいにアズラエルの口が動いた。


なにかを話そうとしているが、それさえもままならぬ状態だった。


「どうしたの、アズラエル?」


しゃがみ込み、クァールはアズラエルの口元に耳を寄せる。


「力及ばずでした。クァール様、申しわけありませんでした……」


ぼそぼそと聞き取りづらい声でアズラエルは語る。


「………」


気がつくと、アズラエルは生き絶えていた。


苦痛に満ちたその死に顔は彼の無念さを現している。


「アズラエル、貴方が私に立ちはだかるはずだった者たちを倒してくださったのですね」


クァールは優しく頬笑みかけた。


クァールはアズラエルを生き返らせなかった。


発動によって魔力を消費した結果、敗北に繋がるのをクァールは避けた。


例えそれが非情だと理解していても。


「ルミナス、さっさと宮殿内に入りなさい。ここがクロノス本部となっているはず。私が先制攻撃を受けたら面倒だわ」


「さっきから私を顎で使っ……」


「はあ?」


語尾を強めにクァールは言い放つ。


「すみませんでした」


即行で謝り、急いでルミナスは宮殿に入っていく。

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